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母国で日本語を教えていた人たちー第3回 日本語教師経験者として、日本に住むことー
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第3回 日本語教師経験者として、日本に住むこと
母国で教師として日本語を教え、その後それぞれの事情で日本に来た3人。
本シリーズ最終回となる今回は、教師の観点から感じる言語や文化の違いについて聞きました。
来日したきっかけについて教えてください。
大学院に入るために来日しました。最初は東京外語大学の研究員になり、現在はブルガリアの商品を販売する会社で働いています。
私は母国で戦争が始まってしまったので、日本に来ました。最初避難していたポルトガルにいるとき、ウクライナで日本語を教わっていた先生から「日本で仕事があったら、来たい?」と連絡がありました。とても迷いましたが、行かなければ後悔すると思い、日本に来ることを決めました。来日前にオンラインで面接をして、仕事が決まってから来日しました。今は非営利団体で事務の仕事をしています。
私の夫は日本人です。子どもが生まれ、最初はタイで日系の保育園に通わせていましたが、周りに日本語を話せない子どもが多く、夫は子どもが日本語を話せなくなることを心配しました。そして子どもの将来も考え、日本に行くことを決めました。
今は旅行会社で、タイ語も使いながら、旅行手配の仕事をしています。
日本に来てから、イメージと一番ギャップがあると感じたことはなんですか?
大学3年生のときに、留学で初めて日本に来ました。来る前は「すごく真面目、丁寧、マナーがいい」というイメージでしたが、実際来て生活してみると「そうでもなかったかも」と思いました(笑)。
電車に乗るときに割り込みをする人がいたり、電車で通話したりする人がいるのが気になります。
交通機関のマナーは、私もニサーさんと同じように感じます。特に混んでいる時間帯は乗り降りのとき、何も言わずに結構押されますよね。遅刻しないように必死なのはわかりますが、ちょっと悲しい気持ちになります。
あと日本は「内向的な性格の人には理想的な国」と聞いていましたが、来てみてそうでもないと思いました。社会性を大事にするから、「天気がいいですね」「週末は何をしますか」とかそういう小さな雑談が多いと感じます。ウクライナでは、よく知らない人とはあまりそういう話をしません。日本は、人間関係をとても大切にする国ですね。
私もギャップは感じました。ブルガリアでは、学科に留学生が来たら、みんな積極的に話しかけていました。だから私も、日本に行ったら自然に友達ができると思っていましたが、そんなことはなかったです。自分から努力して話しかけなければいけないと知りました。
母国で教えてきた日本語と、実際に使われる日本語に違いはありましたか?
かなり違いました。
日本語を習ったときに「絶対に必要」と教えられた助詞が、ほとんど使われていないことに驚きました。「ごはん食べよう」とか「どこか行こう」とか。
私も、人によって話し方が全然違うことに驚きました。敬語ではないタメ口などは授業であまり習わなかったので、仲良くなった日本人の友達から「マリアの話し方は丁寧すぎて、距離を感じる」と言われたこともありました。
逆に私は、日本に来てから、敬語についての知識不足を感じました。ウクライナの大学では、あまり敬語を教わらなかったんです。だから今働いてみて、すごくストレスを感じます。私が失礼なことを話したら、働いている団体の印象も悪くなってします。勉強は永遠に続きますね。
私もオルガさん同様、敬語の使い方がよく理解できていなかったです。尊敬語・謙譲語は使い分けが難しいから、丁寧語のですます調で統一したほうがいいと教わりました。
生活の中で難しいと感じたのは、受け身形や使役形、使役受身形です。夫から「子どもに食べさせてあげて」などと言われると、難しいなあと思います。意味はわかりますが、自分では使いこなせません。
あと、「電気を“消す”」「ドアを“閉める”」など、目的語によって動詞が違うのも混乱します。タイ語だとすべて「オフにする」という意味の動詞で統一なので。
私が一番難しいと思うのは、オノマトペ(擬音語・擬態語)です。日本で初めて通った大学で、弓道部に入りました。先生がおそらくわかりやすく説明しようと、「ぎゅっと握って、ぐっと引っ張る」などと教えてくれるのですが、それが逆に全然わからなかったです。
私はいまだに電話が怖いです。最初に言われる会社名、名前、全部聞き取れないです。同僚が気遣ってくれて、電話に出る機会は少ないのですが、たまに「とってください」と言われると、絶望しながら受話器を取ります。
わかります。私も電話が鳴ったら、一生懸命仕事をしているフリをします(笑)。
ネイティブではない教師が、日本語を教えることの良さは、なんだと思いますか?
私の大学の日本語の先生は、日本人でした。質問したくても日本語でどうやって質問すればいいかわからなくて。その点、先生と母語が同じだと、母語で質問のやりとりができるのがいい点だと感じます。
同感です。文法の説明は、やはり母語で聞くほうがわかりやすいです。ブルガリア人の生徒とは、育った文化や言語が同じなので、質問の意図や文脈がよくわかります。たとえば直訳できない「もったいない」のような言葉も、ブルガリア語だったらこういう表現があるよ、と教えることができます。母語と日本語両方の説明があるのが一番良いと思います。
私もお二人と同じ意見です。同じ母語の先生からは、文法や語彙だけでなく、言葉の背景をより深く学ぶことができます。自国文化との違いについてもよくわかるので、特に言語学を学びたい人にとってはいいと思います。
私もタイの生徒に対しては、「食べるときに『いただきます』と言う」、などタイの文化にない知識も一緒に教えたりしていました。
また日本語を教えたいと感じますか?
自分が何かを教えて、相手に新しい言葉が増え、世界が広がるのは楽しいです。日本語にこだわらず、教えるという仕事は、ぜひまたしたいです。
日本で以前、ウクライナ人の受け入れのために、ロシア語を使って日本語を教えていた時期がありました。ロシア語は難しかったですが、やはり教えることは楽しかったので、またやりたいですね。
私もまた教えたいですが、日本で教えるためには資格が必要ですよね。資格を取るための講座はとても高額ですが、ウクライナに帰国したら、資格に意味がなくなります。難しいところです。
ぜひウクライナ人の生徒に教えたいなと思います。オンラインで日本から教えることができれば、意欲の高い生徒には刺激になると思います。カリキュラムに沿った文法などの知識だけでなく、文化のこともたくさん教えたいなと思います。
全3回「母国で日本語を教えていた人」のシリーズは、今回が最終回です。
日本ではなかなか見えない、海外での日本語教育について話を聞きました。経歴が異なる3人でしたが、生徒への思いや、外国人教師として日本語を教えるメリットなど、ところどころで意見が重なるのが印象的でした。
来月からは新しいシリーズが始まります。