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ルーツの国・日本に来た人たちー第3回 これからの夢や目標ー

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第3回 これからの夢や目標
海外で育ち、自分がルーツを持つ国・日本にやってきた3人に、今の仕事や、今後の夢・目標について聞きました。
みなさんの今の仕事について教えてください

自分は今二つの仕事をしています。一つはNPO法人での外国ルーツの高校生支援です。公立校における外国ルーツの子どもの割合は年々増えています。彼らを学校の内外でどうサポートし、将来に向けた学びの機会をつくることができるのか、若者の選択肢をつくるために働いています。
もう一つも、教育系の仕事です。公立や私立の中学校・高校と連携して、探求や総合の授業時間や修学旅行などのカリキュラムの中で、アントレプレナーシップ教育*などを行っています。
*アントレプレナーシップ教育…社会課題を解決するための知識・能力・態度を身に付ける教育(文科省HPより)
自分は今個人のSNSで、日本についてスペイン語で発信しています。アルゼンチンの肉やワイン、マテ茶などを広める活動もしています。
今後SNSマーケティングの仕事をしたいのですが、どこかの企業に勤めるのか、個人で事業をするのか迷っているところです。
私は海外ツアーのオペレーションサポートと、現地ガイドの通訳をしています。英語またはスペイン語を日本語にする通訳業務は、日本でもしています。また、東京では英語話者、スペイン語話者の観光客へのツアーガイドとしても活動をしています。最近は動画編集を勉強していて、今後チャレンジしていくつもりです。
日本に来る前と来た後で、やりたいことや目標は変わりましたか

来日して専門学校に入学したときは、ファッション一筋でいこうと思い、就職先も服飾系を選びました。でも企業の中で求められる仕事と自分のやりたいことにズレが出てきて、結局フリーランスになりました。
来日前に思っていた仕事の内容とは違いますが、それでも自分の軸は変わっていません。私の軸は、日本とメキシコ、世界をつなげる存在になりたいということです。それを実現することが一番大事ですが、やっぱりファッションが好きなので、いつかまた携わりたい気持ちもあります。
日本に来る前は特にやりたいことがありませんでした。アルゼンチンの実家が農業をやっていたので、大学では農業の勉強をしましたが、そこまで興味が持てずに終わりました。卒業した年はコロナ禍の就職難で、2~3年アルバイトをして、その間にSNSに出会い、今はインフルエンサーとして仕事をしています。アルゼンチンをはじめとしたスペイン語圏と、日本をつなげるということを目標に活動しています。
日本に来た目的は、教育の仕事でした。会社での仕事をする中で、今所属するNPO法人の外国ルーツの高校生支援の立ち上げをする機会に出会い、そこから価値観が変わりました。
公立高校、特に定時制高校に通う外国ルーツの生徒は今後も増える見込みです。すぐ先にある未来の大きな変化に向けて、教育現場とどう体制づくりをするのか、というのが今の問いです。これは来日前には考えていなかった自分のテーマですね。
日本で数年過ごす中で、日本の環境にも変化があったと思いますか
変わったと思います。特に労働環境は変わったイメージがあります。残業時間が少なくなり、有休や男性の育休取得も進んだ印象です。
日本は、行動のほうが先に変わるという印象がありますね。「なぜするか」という理由を議論するより先に、「とりあえずその形をやってみよう」という感じ。男性の育休に関しても、「まず育休を推進しよう、それがどう作用するかは様子を見よう」という進め方なのかなと。
日本に来たからできたと思うこと、他の国ではできなかったと思うことがあれば教えてください

仕事を通して、外国にルーツを持つ子どもの教育に関わることができたことです。
自分は香港、アメリカなどの他国で育ったので、日本で暮らす子どもと背景が完全に同じというわけではありません。それでも外国ルーツの子どもに共感を持って接することができるのは、自分の経歴が活かせていると思います。
メキシコで育った自分が日本に来たからこそ、できたと思うことがたくさんあります。たとえばスペイン語を活かして仕事をすることも、日本に来たからできることです。語学以外にも、メキシコで育つ中で培ってきたスキルや経験が、自分の仕事全部に活きていると感じます。
真面目に仕事をする、ということですね。労働時間が同じ8時間だとしても、アルゼンチンと日本では全然違います。アルゼンチンでは、みんなマテ茶を飲みながらだらだら働きます。でも日本は、8時間真面目に働き続けます。
仕事も含め、日本に来てから時間の感覚が変わりました。今は自分も5分前行動を心がけています。
これからの夢や目標について教えてください。

教育に携わる中で、目標として掲げているのは子どもの選択肢を増やすことです。
自分の忘れられない体験の一つとして、高校時代に参加したサマーキャンプがあります。貧困層に位置する同年代の高校生たちに対して、「サマーラーニングロス」と言われる長期休み中の教育資源で生まれる学習のギャップに対してアプローチしているキャンプでした。そのとき、自分が伝えたことが、相手に伝わり学びとなる、という感動を知りました。その感動は、今も自分が教育現場で働くことの原点となっています。
人が自分をどう定義するのか、どう定義されるのか、ということには常にさまざまな方法があり、可能性があります。子どもたちの未来をつくるという感覚を大事にしながら、「可能性は色々な場所にある」ということを伝えていきたいです。
明確にこれ、という目標はないです。ただ最終的な理想のゴールは、自分が死ぬときに「いい人生だったな」と思ってこの世を去ること。そのゴールにたどり着くために、今は色々なものを見て、色々な体験をしたいです。その思いが自分の選択の軸になっています。
自分が幸せじゃないと、他人を助けたり、他人のために行動する余裕が生まれないと思います。大切な家族や友達を幸せにするためにも、まず自分を大切にして、自分が何をしたいのか、考えることを大事にしたいですね。
アルゼンチンと日本をつなぐために、日本の魅力を見せるというのが今発信しているSNSのコンセプトです。今後はSNSのコンテンツを強化するためにも、日本全国を歩いて旅して、日本を知り、動画などで発信したいと思っています。スペイン語圏の人から、日本人には冷たい印象があると聞くことがあります。そんな人たちに、日本にもあたたかくて楽しい人がたくさんいるんだよと伝えたいです。
そしてもう一つ、日本に住んでいる人たちにも、もっと海外に目を向けてほしいという気持ちもあります。日本はパスポート保有率があまり高くないんですよね。海外に興味を持ってもらうために、魅力的な発信ができればと思います。
全3回にわたって、「ルーツの国・日本に来た人たち」をお届けしました。
3人とも境遇は異なりますが、日本と他の国にルーツがあるという共通項から、国の文化や個々人の価値観などの話題で盛り上がった対談でした。
来月からは「母国で日本語を教えていた人」が始まります。