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ルーツの国・日本に来た人たちー第2回 私と日本ー

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左からメキシコ出身のさやさん、韓国出身のしんやさん、アルゼンチン出身のゆうきさん

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第1回はコチラから

 

第2回 私と日本

それぞれの思いを持って、ルーツの国・日本に来た3人。第2回では、3人が持つ日本の印象や、日本に来て感じたこと、アイデンティティをめぐる考えの変化について聞きました。

 

日本に来る前の、日本の印象を教えてください

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小学5年生まで日本で過ごし、大学で再度日本に戻ってきたゆうきさん
さやさん

子どものころ何度か日本に遊びに来ましたが、祖母の家に泊まるだけで、同年代の日本人と関わることはありませんでした。だから、私の日本の印象は、ほとんどがメキシコで見ていたドラマやアニメですね。

ゆうきさん

僕も、ドラマとアニメの印象は大きいです。
アルゼンチンでは、安全上の問題から子どもが一人で出歩くことはできません。日本のドラマに出てくる高校生たちが、学生だけで下校している様子は印象的でした。

さやさん

それ、すごく憧れでした。下校のついでにどこかに寄るとか、やってみたかったです。

ゆうきさん

あと、日本は電車の路線が多いですよね。アルゼンチンにも電車はありますが、都市の一部だけです。そういえば、ブエノスアイレスには昔の丸ノ内線車両が走っていましたよ。

しんやさん

私にとって日本の印象は、今振り返ってみると、つかみにくかったなと思います。 たとえばアメリカは、「アメリカ人」というアイデンティティに、建国の歴史や宗教が深く関わっています。香港も、経済的合理性を重視する文化だなと感じてきました。
その一方で、日本人は何を大切にしているのかが、ちょっと見えにくいんです。宗教については話題に上がらないし、無宗教の人も多い。家族観や、地域観も個人によって違います。東京だとその傾向は顕著だと思います。

さやさん

それ、すごくわかる。

ゆうきさん

建前文化だから、理解が余計に難しいんですよね。

さやさん

昔、キャミソール一枚で専門学校に行ったことがありました。南米だと普通の服装なんですけど、日本人の友達に「寒くないの?」って聞かれて。そのときは「寒くないよ、めっちゃ暑いじゃん」って答えたんですけど、後からそれには「その格好で外に出るのはおかしい」という意味も込められていたと気がつきました。ストレートに言ってくれればよかったのに!ともやもやしました。
日本人は周りからどう見られているか気にする人が多いですよね。メキシコを含む欧米圏では、「自分がどうしたいか」が重要なことです。私自身も、自分が幸せかどうかが一番大事なことだと思います。

日本で暮らしてみて、よかったと思うこと、驚いたことなどを教えてください

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韓国で生まれ香港で育ち、アメリカの大学卒業後に日本に来た、しんやさん
さやさん

よかったのは、何より安全性です。日本にいると一人で行動することができます。メキシコでは車がないと移動できないし、夜は女性一人で出歩くことができません。鳥かごの中にいるような感じでした。
日本では行こうと思った場所に行けるし、一人で夜行バスに乗ったりすることもできます。私にとって、それはとても大きなことです。

ゆうきさん

日本だと、すごく簡単に自立できるなと思います。たとえば日本からアルゼンチンに旅行したいなと思ったら、ちょっとバイトを頑張れば必要なお金が貯まります。でもアルゼンチンから日本に来ようと思ったら、2年働いてもなかなか難しい。経済的に豊かだし、便利で暮らしやすいです。
その反面、日本人の幸福度が低いというのは、便利すぎるからかなと思うこともあります。南米の人は、幸福のハードルが低いんです。友達と会えて楽しいとか、ごはんがおいしくてうれしいとか、シンプルなことで幸せを感じます。日本に住んでいるとなんでも手に入るから、さらに楽しいことを求めてしまって、逆に幸福度が下がってしまうのかなと。

しんやさん

平和なのはたしかにいいことですよね。地域によって実情は違うので、日本というより、東京に暮らしてみての実感かもしれませんが。

ゆうきさん

あと自分が驚いたのは、先輩と後輩の関係性ですね。アルゼンチンだと、20歳、30歳離れていても敬語は一切使わないですが、日本の大学では1つ年上なだけで敬語は必須でした。

しんやさん

年上・年下を意識する文化は、自分も新鮮でした。時に相手と対等な関係が結びにくいというのはありますよね。

海外から日本への移住者をサポートする仕組みは充実していると思いますか

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メキシコの高校を卒業し、日本の服飾系専門学校に進学した、さやさん
ゆうきさん

僕は大学留学で来て大学側が全部手続きを終わらせてくれたので、一切困らなかったですね。
外国人の友達からは、日本は住む場所を探すのがすごく大変という話をよく聞きます。

さやさん

私も専門学校がサポートしてくれたので、困ったと感じることはあまりありませんでした。
よく聞くのは、携帯電話と銀行口座の話ですね。携帯番号がないと銀行口座を作れない。でも、銀行口座がないと携帯電話を契約できない。どっちから進めればいいの?と困っている友達がいました。

しんやさん

移住者が日本に来る理由や、置かれる境遇はそれぞれですよね。今のお二人の話を聞いていても、留学生には学校側がサポートしてくれる仕組みがあることがわかります。
ただこれまでも積極的に移民を受け入れてきた国ではないので、特に生活者として移住し、成長をしていく子どもなどに対しては、サポートの仕組みをつくりにくい構造があるのかなと思います。

日本で暮らし始めたことで、ご自身のルーツやアイデンティティに関する考えに変化はありましたか

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「風呂の追い () き機能」「トイレの温水便座」など、日本の便利な技術について盛り上がる3人
ゆうきさん

最近は日本に住んでいるときは自分が日本人だなと思うし、アルゼンチンにいるとアルゼンチン人だなと感じます。二重人格みたいな感じです。住んでいる国の文化をリスペクトしながら過ごしていると、性格も変わる気がします。
たとえば日本だったら、電車に乗ってるときにうるさい人がいるとイラっとします。でもアルゼンチンだと、基本的にうるさいので、全然気になりません。それぞれに順応できているなと感じます。

しんやさん

香港やアメリカにいるときは、「日本人だからこういう食べ物好きだよね」「日本人は綺麗好きだから掃除ちゃんとするよね」、という周囲からの目があり、日本人としての代表性みたいなものを感じて過ごしてきました。日本で暮らしていると、周りもみんな日本人なので、自分の代表性は薄れます。でも逆に自分自身の前提や行動に「日本人である以上こうあるべき」という力学が働いていると感じるときがあります。自分自身の「日本人」というアイデンティティが、外に向いているか、内に向いているかの違いですかね。

さやさん

メキシコにいるときは、日系人のコミュニティで日本文化を大切にしてきたので、自分は日本のルーツ、アイデンティティのほうが強いんだと思っていました。でも日本で暮らし始めると、逆に自分の中のメキシコルーツを強く感じる機会が増え、やっぱり違うのかなと。現地で暮らしていると、自分のアイデンティティに気づく機会が少ないです。今は、自分の中にある日本とメキシコ、両方のルーツを受け入れています。

 

今回は海外で育った3人の観点から、日本の印象をお聞きしました。日本の文化を知りながら海外で育ったからこその価値観が興味深かったです。
3回目は「これからの夢や目標」について、3人の仕事の話題も絡めてお話しいただきます。

 

── 次号へ続く