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研究者の外国人ー第2回 日本の生活についてー

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左からタジキスタン出身のナビエワさん、アフガニスタン出身のアリさん、中国出身のコウリンさん。

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第2回 日本の生活について

研究者として日本に暮らしている三人の皆さんは、どんな毎日を過ごしているのでしょうか。研究のテーマや研究する環境も違うため、研究に充てる時間や日々の過ごし方も違うようです。研究の息抜きのときにすることや、生活で好きなことなどについても話していただきました。

 

1日の研究時間はどのくらいですか

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日本に来て7年、まだ一度もタジキスタンに帰っていないというナビエワさん。研究テーマは、『タジク語と日本語の複合語に関する対照研究-複合名詞と複合動詞を中心にー』
アリさん

研究室には9時30分前後から17時30分くらいまでいます。研究したり、データを解析したり、次の研究テーマを練ったりします。実験をする必要があるので、その場合は別の部屋に行って薬品を使ったりして、実験をしています。家は大学から5分の距離なので、ランチタイムは家に帰って、家族と一緒に昼食を取ります。

ナビエワさん

アリさんとはスケジュールが全然違います。子育てもしているので、研究できる時間は1日に2~3時間です。2歳の子どもを寝かせてから、夜に研究を進めています。
2017年から2024年3月までの7年間は、奨学金をもらっていました。今は奨学金がなくなり、学費のためのアルバイトもしています。さらに忙しくなりました。研究室に行くことも少ないですが、印刷するときは夫や隣のおばちゃんに子どもを預かってもらって研究室に行きます。

コウリンさん

わたしは一人暮らしですし、研究室に行っても自宅とすることが変わらないので、わざわざ研究室へ行く必要がないと思っています。在宅なので、起きた時間から研究が始まるという感じです。資料室に行くときだけは、外出します。あとアルバイトとティーチングアシスタントの仕事があるときです。

Q. 1週間のスケジュールを教えてください。

アリさん

基本的に土日は休みです。研究分野が植物に関することなので、土日でも植物の面倒を見なければならないことがあります。それ以外は家族と過ごします。平日は木曜日に必ずセミナーがあります。学生の研究成果にフィードバックをしています。

ナビエワさん

1週間のうち、平日はけっこう忙しいです。月曜日から木曜日はアルバイトがあって、金曜日はゼミの授業があり必ず出席しています。土日は家族が全員 (いえ) にいて賑やかなので、研究を進めることはできません。家族と過ごす時間になります。子育てしながらの研究は、とにかく忙しいです。

コウリンさん

わたしの場合はオンとオフの境目がなくなってきているので、1週間に1日くらいは完全にオフの日を自分で作っています。完全休業日は何もせず、1日中 (にちじゅう) 布団の中にいることもあります。アルバイトをする日もありますが、それ以外は研究をしていて、メリハリがないと人間として危なくなるので、ちゃんと休養日を定めるようにしています。

研究の息抜きには、どんなことをしていますか。

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スケジュールは自分で組み、コントロールをしているというコウリンさん。研究テーマは、『1980年代香港における諮問政治による政策決定プロセスへの影響』。
アリさん

大学はとても広いので、散歩をして友達と話したり、部屋で同僚と話したりするのが息抜きになります。また、ランチタイムに家に帰って家族と話すのも、いい切り替えになります。たまに、長男や友達とジムに行ってバドミントンをしたりします。

ナビエワさん

わたしは近くの公園に行きます。たまに家族が誰もいないときに、何も考えずにぼーっとしてゆっくり休みます。昼寝はたまにします。

コウリンさん

アルバイトをすることが息抜きです。今はイタリアンレストランでウェイターのアルバイトをしています。起きている (あいだ) は研究のことを考えてしまうので、難しいことを考えずに過ごす時間が必要です。仕事に集中すれば研究のことをまったく考えなくていいので、わたしにとっての息抜きかなと思っています。

お二人のご家族はいつ日本に来ましたか。

アリさん

今回は家族みんなで来ました。アフガニスタンからパキスタン、そして日本に来ました。私には二人の子どもがいて、10歳は小学校に通っていますが、3歳の子どもはまだ保育園を待っているので家にいます。

ナビエワさん

日本に来て最初の2年間は一人暮らしをしていました。修士課程になってから、夫と娘を日本に呼びました。一時期夫が帰国して、2021年に息子を連れてきました。2022年には、一番 (した) の娘が日本で生まれましたから、三人の子どもがいます。

日本の生活に慣れたと思ったのは、いつごろですか。

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写真が趣味というアリさんは、撮影のときもリラックスした表情です。研究テーマは『植物成長促進菌の農作物への応用』。
アリさん

日本に来てほぼ1年ですが、わりと早く日本に慣れました。家族も同様です。妻は英語と日本語を混ぜながらですが、買い物などもできます。週に1回、大学にある日本語教室で勉強しています。息子は小学校の3年生ですが学校が楽しいと言っていて、友達とも話しているし、漢字も書けるようになっています。今では上の息子が家族の中で一番日本語が上手です。子どもたちは、日本が好きだから別の国に行きたくないと言うくらい、すっかり日本に慣れたようです。

ナビエワさん

日本に来て3年目ぐらいで慣れたと感じました。夫と娘が日本に来て、それから安心したのだと思います。夫は日本に来てすぐのときは、まったく日本語が話せませんでした。大学で1年間くらい語学サポートを受けて日本語が話せるようになりましたが、ちょっと変な日本語です。家の中ではタジク語で話しています。長女は日本に来たとき4歳でした。保育園に通っていましたから、家族の中では長女が一番日本語が得意です。
この (あいだ) 、グリーンカードを申請してアメリカに行こうと子どもたちに言ったら、「日本で勉強したい。日本は一番安全で教育も進んでいるから」と言いました。わたしは研究のこともあるので、心の中で喜びました。

コウリンさん

以前、交換留学で日本に来たときは、2~3か月で自然に生活に慣れました。反対に、中国に帰国してから、違和感を覚えることが増えたんですね。例えば、地下鉄に並んでいるのに横入 (よこはい) りされたことを、不思議に思いました。わたしは中国が母国で20年以上住んでいましたが、自分の国が自分の国ではないような感覚を抱くようになりました。中国で地下鉄の列に並んで、他の人に負けないようにするのは大変でした。
2022年に日本に戻ってきたときに、何の違和感もなく実家に帰ってきたような安心感がありました。長年日本語を勉強してきたので、生活様式も思考回路も一気に日本式になりました。

生活の中で大変なことと、好きなことは何ですか

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生活の中で大変なことは共通点が多いですが、好きなところはそれぞれ違います。
アリさん

日本語を読むことと書くことが大変です。とくに漢字です。習っても1週間ですぐに忘れてしまいます。文法はそんなに難しくないです。日本語とペルシャ語の文法は似ていますから。とにかく漢字が大変です。

ナビエワさん

書類の手続きが大変です。申請の種類によって、手続きの仕方が変わります。日本人に見せて聞いても「わからない」と言われることがあります。手続きの必要な場所へ行って、「手伝ってください」と言わないかぎり、申請を済ませることは難しいです。とくに奨学金の申請は大変でした。
また、息子が高校生になって、その手続きも大変です。紙の書類であればまだいいですが、オンライン申請は一人でやろうとすると何度もエラーになることがあります。どうしてもうまくいかないときは、日本語の先生に聞きます。

コウリンさん

具体的に大変なことは、確定申告です。奨学金やアルバイトの収入があるので、確定申告をしなければならないんです。何度か説明を聞きましたが、わからないことがたくさんあります。基礎控除や扶養家族などの言葉が分かりません。日本人は毎年それをやっているのかと思うと、すごいなと思います。
抽象的なことでは、日本人との距離感がうまくつかめないということがあります。アルバイト先の同僚とどの程度の距離感で接すればいいのかわかりません。わたしは対人関係に苦手意識があるので、何を話して、どのくらい仲良くなればいいのかが分かりません。アルバイト先でご飯に誘ってもらっても、社交辞令ではないか、 () ってもいいのか迷います。

Q. 生活の中で好きなところは、どんなところですか。

アリさん

職場環境がいいと思っていて、同僚と助け合う雰囲気があります。それは日本の大学の独特の雰囲気だと感じています。ナビエワさんと同様に申請手続きはすごく難しいと思いますが、地域のボランティアの人が助けてくれたり、誰かが手を差し伸べてくれます。
また、保険の仕組みがいいと思っています。他の (くに) ではもっと複雑で、保険でカバーしきれないこともあります。

ナビエワさん

アリさんと同じで、健康保険の仕組みがいいと思っています。 あとは電車がすごく便利ですね。タジキスタンでは車とバスで移動します。好きな場所は、府中の森公園です。家族がいなくて寂しかったとき、その公園で一人でよく鴨を見て癒されました。

コウリンさん

わたしの出身地は熱帯地域で、季節の移り変わりがほとんどありません。日本では秋の紅葉とか、雪を見たり、ウィンタースポーツもできます。春には桜を見ることができます。こうした季節を感じられるところが、とても好きです。

 

みなさんの日本の生活についてお聞きしましたが、いかがだったでしょうか。
日本で研究生活を送る中で、起きた瞬間から研究が始まる方もいれば、家族が寝静まった (あと) にようやく研究が始められるという方、毎日決まった時間に研究する方もいて、みなさんそれぞれ今の自分に合った研究や生活のスタイルを確立されているようですね。

 

3回目は「日本とお国との違い」について話していただきます。

 

── 次号へ続く