多文化クロストーク
研究者の外国人ー第1回 教えてください、日本の研究生活ー

3人のプロフィール
アリ(アフガニスタン出身)
- 在住年数
- 10か月
- 母語
- ペルシャ語
- 好きな日本語
- おはようございます
- 東京で好きな場所
- 渋谷
- 好きな食べ物
- オムレツと魚のフライ
- 趣味
- 読書、写真、自然散策
- 研究のテーマ
- 『植物成長促進菌の農作物への応用』
ナビエワ(タジキスタン出身)
- 在住年数
- 7年
- 母語
- タジク語
- 好きな日本語
- どうも
- 東京で好きな場所
- 府中市
- 好きな食べ物
- 「mantsu」(タジク料理)
- 趣味
- 音楽を聴くこと
- 研究のテーマ
- 『タジク語と日本語の複合語に関する対照研究-複合名詞と複合動詞を中心にー』
コウリン(中国出身)
- 在住年数
- 2年
- 母語
- 中国語(広東語)
- 好きな日本語
- 気遣い
- 東京で好きな場所
- お台場
- 好きな食べ物
- チキン
- 趣味
- サッカー観戦、ゲーム、アウトドア
- 研究のテーマ
- 『1980年代香港における諮問政治による政策決定プロセスへの影響』
第1回 教えてください、日本の研究生活
「研究者の外国人」の座談会を3回シリーズでお届けします。
日本国内にはさまざまなジャンルで研究する人たちがいます。海外からも多くの外国人が、研究することを目的に日本を訪れています。どんな研究をしているのでしょう。そして、どんな生活をしているのでしょうか。研究のきっかけや、研究場所に日本を選択した理由などを話していただきました。
どんな研究をしていますか

植物が早く育つような成長促進の細菌に関しての研究です。特に農業の植物栄養学に興味がありました。
今世界的に人口が増えていますが、農業に使える土地は限られています。その中で人はより効率的に食べ物をとる必要があり、その栄養を大きくするための研究をしています。
アフガニスタンもそうですが、世界全体が同じような状況だと思います。インドやパキスタンでも、アメリカや日本でも、食べ物の輸入が行われています。世界はひとつの村のようなものなので、ワールドワイドな興味ということです。
わたしの研究テーマは、『タジク語と日本語の複合語に関する対照研究-複合名詞と複合動詞を中心にー』です。日本語学習をしているタジク人にとって、将来的に役に立つと思って研究しています。
きっかけは、この研究はほぼ行われていないのでわたしがしようと思ったのです。タジク語と日本語は、まったく違います。複合語はタジク語にもありますが、構造は全然違います。また、両方の言語の複合動詞では、「語彙的複合動詞と文法的複合動詞」が存在しています。語彙的複合動詞では、その動詞は基本的な意味を失わない。しかし、文法的複合動詞では、その動詞は基本的な意味を失って、もう一つの意味を表すので、そこが一番面白く感じているところです。論文も90%ぐらい書いていて、2025年の3月ごろに提出しようと思っています。
わたしは日本語を勉強し始めた頃、「~しておく」という概念がどうしても理解できなかったんです。勉強しているうちに思考回路が日本式になって理解できるようになりました。
中国語では「~しておくは」はないんですね。タジク語にはほぼ同じようなものがあって、「書いておく」というような形もあります。
わたしは香港の歴史を研究しています。とりわけ1970年代の香港は、政治改革で興味深いところが多いです。今の香港とどのような共通点があるのか。歴史を知ることで、今の香港に役に立つと思っています。
最初のきっかけは、世界からの中国へのイメージを調べていたことでした。世界の各地にチャイナタウンがありますが、あそこの雰囲気は中国というよりも少し昔の香港に近いんですよね。世界の人たちが中国としてイメージする情景は、かつての香港の姿なんです。そうした、人々のイメージする "中国(香港)" を調べていくうちに、香港の歴史に触れたら面白くて、香港の歴史に研究フィールドを移したんです。
なぜ日本で研究しようと思いましたか

1つ目の理由は、日本は世界的に先進国として有名です。すべての物の品質が高く、技術が高いということがあります。2つ目の理由は、アフガニスタンと全然違う文化があり、独特で面白いと思ったからです。インドと日本から奨学金が出ると知らせがあったのですが、日本を選択しました。2016年~2019年、博士課程で3年間東京にいました。その後、国へ戻りましたが政府の状況が悪くなり、研究したり教えたりすることが難しくなったのでパキスタンへ行き、2024年に日本に戻ってきました。
日本語が専門で、日本語を学びたいという強い意欲がありました。日本での生活を通じて、日本語を実際に使いながら学ぶことができると思い、日本に来ました。
大学に入学する前は英語を勉強しようと思っていましたが、2002年に叔父がタジキスタンの大学に日本語学科を開設していて、叔父のすすめで日本語学科に入りました。同級生は18人いました。今では日本語学科の生徒も増え、2つの専攻科ができています。
なぜ香港の研究をするのに日本を選んだかというと、東南アジアや中国に関連する研究は日本がかなり進んでいるからです。2019年~2020年のデモで香港の状況が変わり、中国や香港で研究をするのが難しくなりました。研究拠点の中心が台湾や日本に移ったんですね。台湾にはある程度先入観があります。もっと客観的にこの問題を見るためには、もう少し離れた場所で研究しなければと思い日本を選びました。
日本に来るとき、日本語は話せましたか

日本語はタジキスタンで勉強していましたが、実際に日本で日本語を使おうとすると、日本人は話すのが速かったりして全然違います。日本では、日本語の教室に通うようなことはなかったです。来日して、そのまま大学で研究生活に入りました。
わかります、いくら勉強していても、実際に日本で話すとまた違いますよね。
わたしは高校生の頃から日本語を勉強していました。高校のときもう一つ外国語を選ばなくてはならず、日本語を選択しました。大学も日本語学科に進学し、さらに勉強したいと思い2018年に1年間、交換留学生として来日しました。今回は改めて大学院生として留学で来ました。
交換留学生で初めて来たときは、頑張って話しても実際の会話には活かせなかったです。日本で話されている日本語と、わたしが中国で勉強していた日本語は10倍くらいのスピードの違いがありました。その速さに追いつくために大変でした。
博士課程で東京に3年間住んでいたときの留学プログラムで日本語を学びましたが、帰国した際にそのほとんどを忘れてしまいました。今は、大学で週に一度日本語を勉強しながら、新しい日本語の単語を覚えようとしています。簡単な言葉で理解しています。
また、上達するために国際交流のサークルにも入りました。会話する機会が増えて、ようやく普通に話せるようになりました。中国の大学に戻って、日本に行ったことがある人とない人との言語能力の差を感じました。
研究室では何語で話していますか

研究者同士のやり取りは主に日本語なんですが、自分はまだ分からないので英語でやり取りをすることが多いです。博士課程の学生は、外国出身の人もいます。その人たちとは英語で話しています。先生は日本人ですが、先生たちは英語が話せます。
研究室では日本語で話しています。タジク語は、先生に単語の意味について聞くときに使います。たまに単語の意味が違い、例文が必要な場合は、タジク語でコミュニケーションを取ることもあります。また、文字は違いますが、ペルシャ語とタジク語はほぼ同じ言語なので、日本人のペルシャ語の先生からタジク語に関して質問されることもあります。
わたしは外国語語学研究科なので、さまざまな言語の研究をしている人がいます。わたしの所属している研究室は、日本人も中国人もいます。やりとりは日本語ですが、北京、上海、大連など他の地域の研究をする人もいますので、情報交換のときは中国語でした方が便利です。わたしの研究テーマである香港についての話を聞く際は、もともとイギリスの植民地だった歴史もあるため、英語を使うこともあります。
Q. 他の研究者との交流や親交はありますか。
ソフトボールで交流したり、カフェテリアで話したり、セミナーがあるので同じ研究分野内で交流することもあります。いろいろな人とつながる仕組みがあります。
同じ研究室には、ロシア語、ペルシャ語、トルコ語の日本人研究者がいます。外国人はわたしだけです。お互いに例文のわからないところがあれば、確認したりするなどの交流を行っています。わたしはロシア語もできるので、ロシア語のチェックなども担当しています。お互いラボの中で助け合っています。プライベートは忙しいので、遊びに行ったりする機会はあまりないです。
同じ大学の人とは食事会などをよくしますが、研究の話はあまりしません。他の大学の人たちも参加する香港研究会という学術的な会を月に1回開催して、他の人の研究について聞いて参考にしたりしています。会合が終わった後は飲み会のようなものがあり、研究の話などを飲みながら話しています。とても楽しいです。
第1回目では、3人の研究者がなぜそのテーマを選択し、日本で研究しているのかを話していただきました。なかなか聞くことのできない話題に、興味を注がれた人も多いのではないでしょうか。2回は「日本の生活について」話していただきます。
── 次号へ続く