多文化クロストーク
「子育て」について ー第1回 出産と子育ての制度ー ~中国、ロシア、アメリカ出身者が語る~

3人のプロフィール
来来さん(中国出身)
- 在住年数
- 17年
- 母語
- 中国語
- 好きな日本語
- 以心伝心
- 東京で好きな場所
- 月島、代官山
- 好きな食べ物
- お寿司、天ぷら、ふわふわのパンケーキ
- お国での仕事
- ありません(学生)
- 日本での仕事
- 広告代理店の営業
トーマスさん(アメリカ出身)
- 在住年数
- 11年
- 母語
- 英語
- 好きな日本語
- 共感
- 東京で好きな場所
- 新宿
- 好きな食べ物
- 焼肉
- お国での仕事
- ありません(学生)
- 日本での仕事
- 英会話教師
エヴゲニヤさん(ロシア出身)
- 在住年数
- 12年
- 母語
- ロシア語
- 好きな日本語
- オノマトペ
- 東京で好きな場所
- 丸の内、銀座
- 好きな食べ物
- つけ麺
- お国での仕事
- 広告制作、コピーライター
- 日本での仕事
- WEBデザイン
第1回 出産と子育ての制度について
子育てについて、3回シリーズでお届けします。日本で初めて親になったという3人に、出産までの不安や母国との違いなどを話していただきました。
出産するまでに戸惑ったこと

二人の息子がいます。長男のときは埼玉で、次男のときは東京で出産しましたが、どちらも比較的大きな総合病院にしました。周りの人に勧められた病院だったことと、家から近いことも病院を決めた理由です。日本人の推薦なので安心して通えました。
大きい病院がいいと聞いていました。わたしは妊娠する前から国立病院に通っていたので、その病院にしました。出産のシステムはよくわからなかったです。
かかりつけのお医者さんから紹介してもらった病院にしました。かなり大きくて家からも近いので、通いやすいと思って決めました。
ロシアでは妊娠が分かったら、すぐに婦人科へ行きます。妊娠一時金や出産手当のようなものと、経過を記録する妊婦カードをもらえます。妊娠カードは母子手帳のようなもので、妊婦の健康状態が記録されています。健診は地域の婦人科で行い、出産する病院は評判を聞いて決めて予約をします。そのときに妊婦カードがあるので、病院に引継ぐことができます。出産するまでずっと通います。
また、基本の医療費をカバーする券もあって、それは公立病院でしか使えませんが、妊娠中の診察と出産だけではなく、検査や薬にも利用できます。赤ちゃんが生まれたら1歳まで使えるらしいです。私立病院での出産や診察は、実費です。
中国では、出産は無料じゃないと思います。基本の費用には保険が効きますが、少し高級なところになると、すごく高いです。日本のような出産一時金の支給もありません。
自分は田舎出身で、出産が可能な病院が2つしかないです。どちらかの病院を選ぶことになります。アメリカでも出産は無料ではありません。100万円ぐらいかかることがあります。
日本の健診の回数は多いですか?
健診の回数は少ないと感じました。
健診の回数は少ないと感じました。
最初のころは1か月か2か月ごとでした。最後の方はペースが速くなりましたけど。
最初のころに不安がたくさんあって、お腹が痛いときはどうすればいいのかわかりません。電話もするんですけど、電話ではすぐに解決できないからすごく不安でした。
確かに妊娠の最初のころは健診に行く回数が少なかったと思います。
ロシアは出産前に、内科で2回、歯科も2回、耳鼻科も眼科も全部調べます。自然出産の場合、目に問題を起こす人がいるので、ロシアでは眼科の先生によっては自然出産はダメと診断される可能性があります(近眼の場合、息みが強いときは、網膜が破れてしまう可能性があると思われています)。
ロシアは一応検査入院します。お腹が張ったりすると、直接病院へ行って診てもらうことができます。日本では検査は結局2回ぐらいで、赤ちゃんの病気の検査も異常なしということであまりしなかったです。「様子を見ましょう」と言われるばかりで、不安だった時期もありました。
出産のとき国から家族は来ましたか

出産のときは、両親に日本に来てもらいました。日本語はできませんが、そばにいてくれましたので不安はなかったです。母は母子手帳がすごくいいと言っています。中国は数年前にはなかったです。友達からも聞いたことがないです。母子手帳にはどんな検査をしたとか、先生のコメントも書いてあるので、一冊あるだけで安心感が全然違います。
母子手帳は子どもが生まれるまでは知りませんでした。アメリカにも母子手帳はないと思います。
ロシアも母子手帳はありませんが、妊婦カードがあります。お母さんが持っているものですが、この妊婦カードを持っていればどこの病院でも診察してもらえます。妊婦カードは本人が保管してずっと持っています。
出産のために両親が来た当時は、短期間のビザしか取れませんでした。出産の3か月前からで、子どもが生まれて1回延長することができますので、半年間でした。とても安心でした。
ロシアだけかもしれないんですけど、1か月しか日本にいられないんです。わたしは帝王切開だったのでいつ生まれるかわかっていましたから、そのころに合わせてビザを取って母が来てくれました。
両親にとっても初めての孫でしたので、日本に来て一緒にお宮参りに行きました。
わたしは子どもが二人とも逆子で、帝王切開で出産しましたから、すごく不安でした。その前に同意書にサインをしなければならなくて、大量出血があるかもしれないといった怖いことが書いてあるんです。
わかります。麻酔のこともすごく不安がありました。同意書は全部日本語で書いてあります。しかもその場でサインしなければいけないんです。日本の人はそんなに読まないかもしれません。わたしは「これ何ですか」と聞きながら読んだので、先生は疲れたと思います。でも、怖いですよ。
同意書には中国語もありませんでした。帝王切開が怖くて落ち着いて聞けなかったのか、先生のご説明が全然頭に入ってこないので、帰ってから自分でゆっくり読むか、調べるかです。
そもそも医学的な言葉もよくわからないです。
説明していただいてもピンとこない、ということが結構ありましたね。
国に帰って産みたい、と思ったことはないですか?
飛行機に乗るためには、妊娠の早い時期に帰らないといけない。旦那さんと離れ離れになるし、いろいろ不便なことがあります(ので、日本で出産しました)。
中国に帰ることは考えたことがないですね。
旦那さんが日本人の場合、両方の国籍を持つためにはロシアで産まないとロシアの国籍はもらえないです。国籍問題を持っている人は、みんなロシアで産みます。
日本の看護師さんは優しい

妻は自然分娩でしたが、長男のときは初めてのことでしたので不安でした。わたしも出産に立ち会いました。そのために病院で開催される講座に参加しました。講座に参加しないと出産に立ち会えないんです。アメリカでは出産に立ち会うことは、よくあります。
帝王切開でしたので、立ち会えませんでした。
わたしも帝王切開でしたので、夫は手術室までは入れませんでした。でも、看護師さんが手を握ったり、顔色悪いけど大丈夫、と気にしてくれました。すごく感動しました。
背中を撫でてくれましたよね。もうちょっとです、と言ってくれて。
そうです、そうです。とても良かったです。
赤ちゃんはパパ(ご主人)が先に会いました。すごく感動したみたいです。
そうですね、うちも同じでした。日本の看護師さんは、本当に優しいです。わたしは中国のことしか知らないですが、中国の先生も看護師さんも、上から目線で言います。怒るときもあるんですよ。
そう、そう、そうです。「もっとしっかりしてよ」とか言われるんです。トラウマになった人もいます。日本の看護師さんは優しいですよね。
アメリカはそこまでじゃない(厳しくない)と思います。出産して翌日には退院します。
ロシアは1週間くらい入院します。
中国は自然分娩の場合は5日間くらいです。でも、上海では経済力のある人は出産してすぐに産後ケアセンターのようなところに移動するんです。すごく高いので一部の人ですが、1か月から長い人は2か月います。他の人は家に帰ってお母さんがみんな面倒をみてくれます。
中国は産後2か月がものすごく大事です。家事などは一切しません。日本に来てからびっくりしました。日本の皆さんは出産後1週間くらいで家事をしたり、子どもを連れて病院に行ったりします。わたしの母からすると考えられないようで「みんな逞しい」って言っていました。
妻はやはり5日間くらい入院をして、家に戻りました。妻の実家が近いので、毎日食べ物を届けてくれたり、家事を手伝ってくれたりしました。
出産後にわたしの母が手伝うために、日本に来てくれました。夫も1週間休みをとって手伝ってくれました。しかし、コロナが広がった以降は、母に来てもらえません。
育休(育児休暇)はどのくらいとりましたか

わたしは妻が退院して1週間ぐらいお祝いの休みをもらいました。会社の中にそうした休みがあったので。
上の息子(14歳)のときは、わたしが大学院生でしたので育休はありません。下の息子(6歳)のときは、産休(産前休暇と産後休暇を合わせたもの)と育休を長めに取りました。想定外の早産だったこともあり、夫は翌日から海外出張へ行きました。両親が中国から手伝いに来てくれたので、上の息子は両親といました。もともとは1年の予定でしたが、なかなか保育園に入れなくて育休は1年半とりました。
わたしはちょうど仕事をやめたときに妊娠がわかりましたから、産休や育休は取っていませんでした。
子どもが3歳になったときに、新しい仕事を探し始めました。
妻は育休を1年間ぐらいとっていました。二人目も同じです。アメリカは育休のようなシステムは会社によって違うと思いますが、政府から育休を取りなさいということはありません。
ロシアは出産前70日間、出産後70日間は決まっています。双子だったら、ほぼ200日の育休になります。3歳まで休暇を取ることができますが、お金がもらえるのは1年半で、会社を通じて国からもらえます。
ロシアは日本に近いですね。中国は短いです。休める期間が本当に短くて、困るぐらいです。仕事を辞めるか、辞めないか。たとえ育休を長めにとれたとしても、中国の女性は多分取らないです。みんな働いているので、休んでいたらそのポジションを取られたりします。競争が激しすぎて、妊娠していることをまわりに言わない人も多いです。言わずに予定日が近くなってきてある日突然、「来週から休みます」ということがあります。
わたしもびっくりしたことがあります。日本で仕事仲間が、すごく早い段階で上司にもわたしにも、妊娠したことを話したんですね。「8か月後に産むから」と。上司といつ戻れるか相談していましたが、今の段階で決める事じゃないと思って、すごくびっくりしました。ロシアでは最後まで服でお腹を隠して、言わないと思います。
すぐに復帰できるというのは、保育園とかにすぐ入れるんですか。
入れないですね。家族かベビーシッターです。中国は一人っ子が多いですから、両親も孫の世話をしたいという家庭も多いですから。
アメリカは安定期に入ってから周りに伝える人が多いと思います。そのときに、みなさんに喜んでもらうためにベビーシャワーのようなお祝いのパーティがあります。仕事は企業によって違いますが、出産の1か月前から6週間休んだりします。
第1回のテーマである「出産と子育ての制度について」、国によって制度が違えば考え方も違うことがわかりました。日本の看護師さんが優しいという意見に、在住外国人のみなさんはホッとするのではないでしょうか。2回目のテーマは「子育ての文化」についてです。
── 次号へ続く