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たいとう多文化共生まちづくりの会 ~外国人・日本人が同じ地域住民として地域の課題に向き合いながら、台東区らしい多文化共生の形を模索~

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多文化共生 地域日本語教育コーディネーターの山藤弘子さん

地域清掃や朝市への出店など、台東区に暮らす外国人と日本人が同じ地域に暮らす仲間として共にまちづくりを考え、活動する「たいとう多文化共生まちづくりの会」。
地域の外国人住民たちと一緒に会を立ち上げた、多文化共生 地域日本語教育コーディネーターの山藤弘子さんに活動についてお話を伺いました。

 

まちづくりを通じて、同じ地域の仲間として協働する

「たいとう多文化共生まちづくりの会」の皆さん

台東区は都内でも4番目に外国人が多い地域として、近年は多文化共生が地域の課題にもなっています。
「たいとう多文化共生まちづくりの会」は地域の日本語教室で日本語を教えていた山藤さんと、その教室を卒業した外国人住民たちの手によって2024年に設立された団体です。「たいとう多文化共生まちづくりの会」という名前には、同じ地域の仲間として対等な関係性でまちづくりを行っていきたい、という想いが込められています。


「日本語教室に通う外国人たちと話していると、『日本語を勉強しても使う機会がない』『日本語教室を卒業して日本人と話したり地域とつながったりする場がない』という声をよく聞きます。また、台東区は浅草などを訪れる外国人観光客のマナーの悪さが問題となっており、それが地域に住む外国人への誤解や偏見にも繋がっています。外国人住民のみなさんは、一人ひとりが私たちと同じように税金を納め、日本語を勉強し、日本の文化やマナーを学びながら日本社会で暮らしていこうとしています。同じ地域で共生していくために、まずは日本人と外国人が定期的に向き合って交流したり対話したりする場を作ることが大切だと感じました。顔を合わせる機会が増えれば、“○○ (じん) ”から自然と“○○さん”に変わっていきますよね」と、山藤さん。

 

日本人と外国人が一緒に行う「大江戸清掃隊」

外国人住民も日本人住民も同じ半纏を着て「大江戸清掃隊」として地域を清掃しています。
写真提供:たいとう多文化共生まちづくりの会

近年、台東区では浅草周辺の外国人観光客のゴミのマナーが地域の問題になっています。また、観光客向けのゲストハウスが増えており、若い外国人観光客が騒いでいる姿を怖がる日本人もいます。そうしたところから生まれた外国人への誤解や偏見によって、地域のお祭りやイベントに声をかけてもらえない、同じマンションに住んでいても挨拶してもらえない、といった経験をする外国人住民も多いようです。

 

「たいとう多文化共生まちづくりの会」を発足したとき、最初に外国人のメンバーが地域に貢献するためにやりたいと言ったのは「大江戸清掃隊」でした。台東区から「大江戸清掃隊」として登録認定されると、区から清掃用具や半纏が配布されます。多い時は30名ほどの参加者が集まり、ゴミの分別方法を全員で学んでから、日本人と外国人が同じグループになって清掃活動を行います。清掃をしていると、地域や町内会の方から声をかけられることも多いそうです。
「主に浅草の観光地やお寺の周辺、浅草橋のゲストハウスの周辺などで清掃を行います。清掃隊として活動することで、外国人も日本人と同じ課題意識を持っていることに気づいて驚かれる地域の方も多いです。地域の方々に見えるように活動することで、外国人住民に対する偏見がなくなっていくと嬉しいです」と、山藤さん。

地域の人たちが集まる場で、外国人住民と日本人住民の協働の機会を創出

浅草橋の神社で行われている朝市に参加する「たいとう多文化共生まちづくりの会」の皆さん。
誰でも参加しやすいよう、多様な活動を展開します。
写真提供:たいとう多文化共生まちづくりの会

「たいとう多文化共生まちづくりの会」は日本人と外国人が一緒になって、第3 (にち) 曜日に浅草橋の神社で開催されている朝市にも参加し、インドのスパイスやお茶、バインミー(ベトナム風サンドイッチ)、手作りの小物、野菜などさまざまなものを販売しています。
「朝市には地域に長く住んでいる人から最近移り住んだ人たちまで、さまざまな人たちが参加します。外国人と地域の人たちが協働できる場が必要だと思ったんです」と、山藤さん。

 

朝市に来るのは、地元の方々や、観光客の方々です。野菜を買いに来て、珍しい海外のものに興味を惹かれる日本人も多くいるといいます。また、観光客向けに多言語で表記するなど、外国人参加者の活躍の場にもなっています。
「観光客に向けて販売するには、外国人参加者の視点が役立ちます。タイの (かた) の発案で、タイ語で『クッキーを売っている』と書いたら、タイの観光客の (かた) がたくさん来てくれたこともありました。その (かたは調理師免許を取得して、お店を出したいという夢を持っています。夢を持ってアクティブに活動する外国人参加者を高齢世代の日本人参加者が応援して、一緒にクッキーを詰めるのを手伝っていました。地域にそういう関係性が増えていくと嬉しいです」と、山藤さんは笑顔で話します。

子どもたちのシンプルな気持ちが進める多文化共生

英語、中国語、ベトナム語、日本語で絵本を読むと、音の違いや抑揚の違いを楽しめます。
写真提供:たいとう多文化共生まちづくりの会

区内の小学校の放課後教室では、英語や中国語を使って遊ぶ「英語であそぼう」「中国語であそぼう」という活動も行っています。放課後教室のボランティアで外国人のお母さんたちに手伝ってもらった際、教室に来る子どもの保護者から「英語を教えてほしい」という希望があったそうです。英語で伝言ゲームをしたりフルーツバスケットをしたりして遊んだら子どもたちも楽しかったようで、大好評。すると他の放課後教室からも声が掛かるようになり、今度は子どもたちから「中国語を教えてほしい」という希望があったといいます。
「台東区には中国人住民が多く、子どもたちのクラスには当たり前のように中国ルーツの子どもがいます。この地域の子どもにとって、一番身近な外国は中国なんです。友達ともっと仲良くなるために中国語を学びたい、という想いがあるからか、積極的に参加してくれます。子どもたちは目の前にいる人と仲良くしたいというとてもシンプルな気持ちで動いていて、大人より多文化共生が進んでいると思います」と、山藤さん。

 

さらに、団体では区の中央図書館や、小学校の放課後教室などで多言語の絵本の読み聞かせも行っています。有名な日本の絵本を中国語やタイ語、ベトナム語などさまざまな言語で読み聞かせます。子どもたちは言葉がわからなくても、外国語で読んだときの言葉の音や抑揚の違いを楽しんでおり、図書館の職員や日本人のボランティアでも驚く人が多いそうです。
「多言語の読み聞かせは、日本語ができなくても参加できます。日本語がまだあまり話せない外国人のお母さんが母語で絵本を読んでくれたとき、それを見た息子さんが誇らしげだったのが印象的でした。大事にしているのは、日本語の習熟度に関係なく、みんなが楽しみながら参加できる環境を作ることです。そして、外国人住民のみなさんの活躍を地域の方にも知ってほしいですね。実際に外国人住民のみなさんが地域のみなさんから頼られることも多くなっているんですよ」と、山藤さん。

 

活動を通じて生まれる“ご近所 () き合い”

取材に伺った日には日本人・外国人参加者が一緒に俳句を作る会が行われていました。

団体の活動開始から約1年半、さまざまな活動により、地域の日本人と外国人の交流が深まっています。活動をきっかけに町内会に入ったり、地域のお祭りでお神輿を担いだり、防犯パトロールに参加したりと地域の活動に積極的に参加する外国人住民も増えています。高齢の住民に外国人住民が携帯の使い方を教えたり、電球を取り替えてあげたり、中国人住民の方の旅行中の犬の世話を日本人住民が買って出たりと、下町らしいご近所付き合いも生まれ始めました。
「これまで活動してきた中で、日本人と外国人が交流するまでの“つなぎ役”のような存在が地域に足りていないことを感じました。団体としてそのような役割を果たしていけたら嬉しいですね。また、自治会でも町内の公式LINEをやさしい日本語で発信したり、餅つきなどのイベントでやさしい日本語のポスターを作ったり、外国人住民を巻き込もうとする動きが増えるなど、少しずつ変化が起きています。多文化共生を実現していくためには、関心のある人たちだけでなく、これまであまり関心がなかった人たちにも影響を与える活動ができるかが大事だと考えています。台東区らしい多文化共生の形を模索していきたいです」と、山藤さん。

 

外国人と日本人が同じ地域住民として対等な関係を築いていくため、住民みんなが暮らしやすい地域を作っていくため、「たいとう多文化共生まちづくりの会」の活動は続きます。

 

記事に書ききれなかった取材の裏話などは、取材に同行した東京都つながり創生財団 多文化共生課の職員による取材レポートでぜひお読みください♩

*本記事は取材時点での情報をもとに作成しています。最新の情報については、団体へ直接お問い合わせください。