一般社団法人つつつつつ 言葉の壁を越えてつながる、やさしいコミュニケーション
2025年7月に設立された一般社団法人つつつつつ。「つつく」「つたえる」「つたわる」「つながる」「つづく、」という5つの「つ」から成るユニークな名称は、団体のミッション「いろんな『つ』が集まって、関わりあって、社会が少しずつ、よく巡っていく」を表しています。前身となる任意団体HELP YOU PROJECTの活動を引き継ぎ、医療の指さし会話帳『HELP YOU』(英語版・中国語版・やさしい日本語版)や、外国人向け医療機関検索アプリ『mikke(みっけ)』、非言語ワークショップ『ことばのほぐし』などを提供。「言語の壁を非言語で越える」をビジョンに掲げ、医療・教育・企業・地域社会における多文化共生と創造的な対話の促進を目指して活動しています。
団体設立の経緯やこれまでの取り組みについて、代表理事の古山さん、メンバーの三浦さん、坪田さんにお話を伺いました。
言葉の壁を越えるコミュニケーションを目指して
――団体設立までの歩みについて教えてください。
そもそもの始まりは、大学院在学中に留学生寮のコミュニティマネージャーをしていた私が、留学生のために自作の指さし会話帳を作ったことです。PCで作ったデータをA4の紙に印刷してまとめたごく簡単なものだったため、もっと本格的な冊子が作りたいと、イラスト制作やデザイン等を手伝ってくれる協力者を探し、クラウドファンディングで資金を調達しました。そして、2020年にHELP YOU PROJECT(ヘルプユープロジェクト)を立ち上げ、同年5月に、医療の指さし会話帳『HELP YOU』英語版を発行。その後も、外国人向け医療機関検索アプリを開発するなど、「言葉の壁を越えるコミュニケーション」をテーマにプロジェクトを展開していきました。
2025年7月には法人化を実現。現在は、一般社団法人つつつつつとして、言語や考え方、文化に違いがあっても、日本人・外国人関係なく、だれもが住みやすい社会を目指して活動しています。


――どんな方々がメンバーとして活動されていますか。
現在、コアメンバーとして活動しているのは13名で、その他クリエイターやサポーターなども参画いただいています。メンバー全員が本業の仕事を持ちながら活動しているのが特徴ですね。
私は1年ほど前から、プロジェクトの運営や企画のプロデュースに携わっています。全く異なる分野の仕事をしているのですが、もともと興味のあった、医療や英会話など、人と人をつなぐコミュニケーション分野での経験を積みたいと思い、参加しました。
私は法人化のタイミングでメンバーに加わりました。学生時代に留学した経験があるのですが、日本に戻ってから、メディアなどの影響で日本人が持つ「外国人像」と、実際に一人の人間として向き合ったときに感じる印象との間に、大きな違いがあると感じることが多かったんです。海外出身の方が日本でより暮らしやすくなったり、国籍に関係なく人と人としてコミュニケーションできるようになったり、そんな取り組みに関わりたいと思い、活動しています。
留学生のサポートをきっかけに生まれた、異なる言語を持つ患者と医療従事者をつなぐツール
――医療の指さし会話帳『HELP YOU』についてお聞かせください。
私が新潟の大学で留学生のサポートをしていたとき、矯正歯科のクリニックを探していた台湾出身の留学生に出会ったことをきっかけに生まれたツールです。慣れない異国の地で医療機関を見つける難しさや、日本語に不慣れな人が自分の困りごとを伝える大変さを知り、まずは、外国人が病気や症状を伝えるのに役立つ「指さし会話帳」を作ろうと考えました。無料のイラスト素材を使った自作の会話帳を地域の病院に配るところからスタートし、2020年に『HELP YOU』英語版の発行にこぎつけました。 『HELP YOU』の特徴は、130以上のイラストやピクトグラムを使って医療に関する言葉を視覚化していること。異なる言語の患者と医療従事者が、指さしでコミュニケーションできるツールとして制作しました。現在、英語版・中国語版・やさしい日本語版の3言語を展開、言語は今後、追加していく予定です。

医療の指差し会話帳『HELP YOU』
――『HELP YOU』のやさしい日本語版の制作に取り組んだきっかけを教えてください。
あるメンバーから「やさしい日本語のニーズが高いのではないか」という提案があったんです。制作にあたっては、発案者でもあるプロジェクトメンバーを中心に原稿を作成しましたが、やさしい日本語の専門家に確認していただくと、「ここをこうしたら、もっと伝わりますよ」という指摘がいくつもありました。その後、医学の専門家に監修に入っていただいたのですが、今度は言語的なわかりやすさと医学的な正確さという点で違う意見が返ってきたんです。両者の意見をすり合わせる調整が大変でしたが、その分、良いものが出来上がったと感じています。
――やさしい日本語版を制作してみて、いかがでしたか?
以前は、やさしい日本語は日本語ネイティブではない方に対して使うものだと思っていたんです。でも、制作の過程で、漢字をひらがなにしたり、別の日本語で言い換えたりする作業を重ねるうちに、自分たちにとっても言葉の意味を改めて考え、再解釈する機会になるのだと気づきました。やさしい日本語版は2025年に発行したばかりですが、これから多くの方に活用していただけたら嬉しいです。 『HELP YOU』は、留学生をはじめとする日本語が母語ではない方に使っていただくことを想定して制作したツールですが、病院や大学など、受け入れ側にも活用していただいています。イラストをふんだんに使っているため、翻訳アプリだけでは伝わりにくい部分も補うことができるようです。最近は、ニュースや新聞に取り上げられたことで問合せが増え、地域のクリニックや病院、大学、専門学校、公共施設など、全国800以上の施設で活用されています。

――外国人向けの医療機関検索アプリも開発されていますね。
医療機関検索アプリ「mikke(みっけ)」は、ウェブブラウザ上で多言語対応の医療機関を探せるアプリです。こちらも、先ほどお話しした台湾出身の留学生との出会いから制作に取り組みました。現在、新潟県版と静岡県浜松市版があり、日本語・英語・中国語・ポルトガル語の4言語で検索できます。掲載している医療機関の情報は、自分たちで独自に調査して集めたものです。最初に新潟版を作成した際は、県のホームページの情報を参考に、外国語対応している県内約1,000の医療機関へ、各言語の対応状況を確認する手書きのアンケートを送るところから始めました。営業にも回りましたが、趣味の延長線上のような感覚で取り組んでいたからか、楽しさの方が勝っていましたね。


言語から解放されたときに生まれるコミュニケーションから学ぶこと
――言葉に頼らないコミュニケーションを考えるワークショップも提供されていますね。
イラストやジェスチャーなどの身体表現、手話といった非言語のコミュニケーションを体験するワークショップ「ことばのほぐし」です。イラストや文字で伝える自己紹介や、ドリンクやクッキーの味を言葉以外の方法で共有するワークなどを行っています。参加者からは、「コミュニケーションの参考になった」「言語の異なる相手への伝え方の勉強になった」といった声を頂くことが多いです。
言葉以外の表現で相手に何かを伝えるのは大変ですが、その分、相手に伝わったときの面白さ、楽しさがあると感じています。各ゲームの後には、何を表現していたのか、伝えたかったのか、「答え合わせ」をする時間を設けているのですが、自分たちが使っている日本語というツールを手放した時にこそ生まれるフラットなコミュニケーションがあると気づかされます。そうしたコミュニケーションを体験したり、共生のきっかけになるような気づきを得る機会を、これからも提供していきたいですね。


――活動を通して、ご自身のコミュニケーションの仕方や考え方に変化があれば教えてください。
団体の活動でも本業の仕事でも、チームでプロジェクトを進めていますが、会話の中で表情など言葉以外の情報から相手の気持ちを汲み取る力が伸びたと感じています。メンバーの表情がパッと明るくなったときに、「あ、こういうことがやりたいたいんだろうな」と分かる場面が増えてきました。
これまでは、海外のクライアントと仕事をするとき、「自分が英語で頑張らなければ」とばかり考えていたんです。でも活動を通してやさしい日本語を知り、コミュニケーションは、どちらかが一方的に歩み寄るものではないということに気づかされました。互いに歩み寄ることから共生が生まれるという視点を持つことができました。
仕事でグローバル人材教育を担当していますが、多様な人たちが共に生きる世界になっているからこそ、言葉が流暢に話せることより大切なことがあると考えるようになりました。日常的にアンテナを高くしておくこと、相手の背景を理解すること、こうした学びを仕事にも、団体の活動にも還元していきたいと思います。