国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害情報・支援センター やさしい日本語による情報提供で、発達障害に関する心配ごとに寄り添う

埼玉県所沢市の国立障害者リハビリテーションセンターに設置されている発達障害情報・支援センターは、発達障害のある当事者や家族、全国の支援機関等に対して、発達障害に関する信頼できる情報を広く発信し、啓発をはかることを目的とした機関です。
同センターでは、近年、外国につながる子どもや若者の中に発達障害とされるケースが増えていることを受け、当事者や家族、支援者・関係者などへの支援体制を充実させることを目的として、やさしい日本語を活用した情報提供に力を入れています。発達障害や各種サポートについてまとめ、やさしい日本語と多言語で提供している2種類のパンフレットの制作について、発達障害情報分析専門官の与那城さんにお話を伺いました。
発達障害について、信頼できる正しい情報を発信
――まず、発達障害情報・支援センターについて簡単に教えてください。
発達障害情報・支援センターは、発達障害に関する情報提供を行う国の機関として2008年に開設されました。国立障害者リハビリテーションセンターの企画・情報部に設置されています。当センターの大きな役割は、発達障害に関する信頼できる情報を広く発信し、理解を促進することです。発達障害に関する情報はあふれるほど多くありますが、必ずしもすべてが正しい情報とは限らず、当事者の方々の中には信頼できる情報を見つけることに苦労されている方も少なくありません。そこで当センターでは、『発達障害ナビポータル』というウェブサイトの運営を通じて、信頼のおける情報の提供に努めています。
――どのような経緯で外国人向けの情報提供に力を入れることになったのですか。
在住外国人の増加に伴い、外国につながる子どもや若者の数も増えてきています。発達障害の特性を持つ人は国や文化圏を問わず一定の割合で存在するため、当然、発達障害の特性を持つ外国につながる子どもや若者の数も増えてきていると推察されます。けれども、外国人保護者はこどもの発達に不安を感じても「どこに相談すればよいのか」がわかりにくく、情報や支援にアクセスしづらい状況があります。支援機関側も相談に来ていただいても、言葉や文化の壁があるため、障害への理解や必要な社会資源について的確に伝えることが難しいという問題がありました。国の調査でも同様の課題が示されており、さらに当センターが全国の発達障害者支援センターを対象に実施した調査でも、社会資源に関する情報や説明用資料の多言語化、通訳の確保などに各施設が苦慮していることが明らかになっています。こうした実態を受け、発達障害のある外国につながる子どもや若者とその家族が、必要な支援や情報に円滑にアクセスできるよう、情報提供の充実に取り組むことになりました。
外国につながる子どもや保護者をサポートするパンフレットを発行
―― 具体的にどのような取り組みを行われましたか。
2018年に、就学前の子どもを持つ外国人保護者向けのパンフレット『お子さんの発達について心配なことはありますか?〜日本で子育てをする保護者の方へ〜』を発行しました。お子さんの発達について不安を感じたときに、必要な情報やサポートにつながっていただけるよう作成したもので、これまでに やさしい日本語を含む25の言語で提供しています。
その後、関係機関など支援現場の方々より、学齢期以降の子どもについての相談件数が増加していることから「もう少し年齢が上の子どもを対象にしたものがほしい」といった声や、「発達障害の特性に関する具体的な記述を増やしてほしい」という要望が寄せられたことから、2025年4月に姉妹版となる【学齢期用】パンフレット『こんなとき、どうすればいいですか?〜小学生から高校生と家族の皆さんへ〜』を発行しました。こちらは現在、やさしい日本語を含む12言語で提供しており、今後さらに多言語化を進めていく予定です。あわせて、支援者・関係者向けに通常の日本語版も作成・公開しています。
―― パンフレットの制作はどのような体制で行われたのですか?
制作にあたっては、センター内に作業部会を設置しました。医療・福祉・教育・外国人支援・国際交流・通訳など、発達障害支援を専門とする方に加え、外国人支援に携わる専門家や現場の方々にも参画していただきました。
実際に、このパンフレットを使って当事者や家族に情報を届けるのは、身近な支援者や関係者であることが多いと考えられます。そのため、できるだけ幅広い立場の方々に制作段階から関わっていただくことにしたのです。
やさしい日本語で多くの人にわかりやすい情報提供を
―― パンフレットにやさしい日本語を採用した理由を教えてください。
最初のパンフレットを作成する段階から、やさしい日本語の重要性は認識していました。発達障害のある方への支援では、いかにその人に伝わるように情報を届けるかが大切です。読み書きに困難を抱え、複雑な文章を処理するのが苦手な方にとっても、やさしい日本語は理解しやすく、有効な伝達手段となります。また、当時の行政文書は必ずしもやさしく書かれたものばかりではなかったため、やさしい日本語を活用すれば、外国人だけでなく、多くの人たちにとって役立つだろうと所内でも話し合っていました。
―― やさしい日本語版の制作で苦労したことはありますか?
最初のパンフレットでは、自分たちで やさしい日本語の原稿を作成しましたが、どこまで簡潔にしてよいのか、その判断が難しかったですね。発達障害のある外国につながる子どもや若者とその家族の支援について専門的知見を持つ児童精神科医に全体の監修をお願いしていたので、その先生にも助言をいただきながら作成を進めていきました。
【学齢期用】パンフレットの やさしい日本語版の作成においては、やさしい日本語の専門家に書き換えと監修を依頼しました。事務局で作成した日本語版の原稿をもとにやさしい日本語に書き換えていただきましたが、発達障害の各特性の説明については、表現を単純にすることでニュアンスが微妙に変わってしまうこともありました。誤解を招かない表現にするために、全体監修の医師、やさしい日本語の監修者、事務局の三者で丁寧に検討を重ねながら進めました。わかりやすさと専門的な知見による正確さの両立という観点で、双方の専門家に関わっていただけたことは、本当に良かったと思います。

―― パンフレットについての反響はいかがですか。
当事者や保護者の方から直接お話を伺う機会は多くはありませんが、「このパンフレットがあって助かった」というお声をいただくことはあります。昨年実施した支援者ユーザーからの意見聴取(WEBアンケート)でも、パンフレットを活用しながら外国につながるお子さんや家族を支援している支援者の方々からは、必要な情報を提供するのに役立っているという肯定的な声を多くいただきました。また、ウェブサイトに掲載しているパンフレットの2021年度から2024年度までの言語別閲覧数を見ると、最も多かったのは やさしい日本語版でした。在住外国人の多国籍化が進む中で、すべての言語ニーズに応えることは容易ではなく、やさしい日本語による情報提供の重要性を改めて感じています。今後も、情報発信を行ううえで欠かせないものになると考えています。

情報を必要とするご家庭に届くよう、地域の身近な支援者から手渡してもらうことを想定しています。
――今後の事業展開について教えてください。
現在、作業部会では、支援者向けの研修動画コンテンツの作成に着手しています。発達障害のある子どもへの支援については社会資源もだいぶ充実してきましたが、外国につながる子どもや家族への対応については、現場で試行錯誤しながら取り組まれているのが現状です。特に、外国につながる発達障害のこどもとその家族への支援には、「異文化の中で育ち暮らすことによるバリア」と「障害によるバリア」という二つの課題を同時に捉える視点が求められます。こうした状況を踏まえ、発達障害のある子どもの支援や外国人支援に携わる方々に広く活用いただけるコンテンツとして、約20本の研修動画の制作を進めています。動画の中には、やさしい日本語の[基礎編]と[実践編]の2本も収載し、外国につながりのある発達障害児を育てる保護者(在日外国人および海外在住の日本人)による講話も含む予定です。2026年4月に『発達障害ナビポータル』上で公開しますので、多くの方々にご活用いただければ幸いです。

発達障害のある方を支える取り組みは、誰にとってもやさしい社会につながります。やさしい日本語の考え方とも深く結びつき、これからの地域づくりに欠かせない視点だと感じています。


