やさしい日本語

活用事例

東京都武蔵野市 やさしい日本語で、みんなにやさしい市民サービスを

 
★研修①32

JR中央線の吉祥寺駅・三鷹駅・武蔵境駅にまたがって広がる武蔵野市。市の総人口に占める外国人住民の割合は約2.9%(2026年1月現在)となっており、市内や周辺地域の大学に通う外国人留学生が多いことが特徴のひとつです。日本人も外国人もいきいきと暮らすことができるまちづくりを目指して策定された「武蔵野市多文化共生推進プラン」には、“やさしい日本語の積極的な使用”が明記され、この方針に基づいて、市職員向けのやさしい日本語研修や、外国人向け防災ハンドブックの制作といった取り組みが進められています。

やさしい日本語を活用した取り組みの詳細について、多文化共生・交流課長の高橋さんと、同課職員の押木さんにお話を伺いました。

 

 

市職員向けのやさしい日本語研修を企画

――職員向けのやさしい日本語研修を始めたきっかけを教えてください。

高橋

2023年3月に策定された「武蔵野市多文化共生推進プラン」では、「生活を支えるコミュニケーション支援と情報発信の強化」という基本目標の中で、やさしい日本語の使用を進めていくことが示されています。ただ、恥ずかしながら、私が「やさしい日本語」という言葉を知ったのは、この年の8月に多文化共生・交流課へ異動してきてからのことでした。翌年、初めて外部の研修に参加したのですが、その内容がまさに目からウロコの連続で。やさしい日本語は外国人のためだけでなく、市役所の窓口対応や広報そのものに役立つ大切な考え方だと感じたんです。ここから研修の企画をスタート、すべての課の職員を対象とする研修を2024年度から始めました。

 

――研修の企画に対する庁内の反応はいかがでしたか?

高橋

私の説明の仕方がよかったのか( (わらい) )、市長や副市長、幹部職員にも、スムーズに理解してもらうことができました。背景には、武蔵野市役所全体の課題として、「伝わる広報」が大きなテーマになっていたこともあると思います。役所の言葉は、ただでさえ難しく、だからこそ、一方的な情報発信ではなく、「伝えるべき相手に、どう伝えるか」を考えなければいけません。そうした全庁的な取り組みと、やさしい日本語はとても親和性が高かったのだと思います。広報の担当課には、「やさしい日本語は伝える力のスキルアップにつながる!」、人事課には「窓口でのトラブルを防ぐためにも、やさしいコミュニケーションの大切さを全庁に広めたい!」と熱弁を振るい、共感していただきました。

 

 

それぞれのニーズに合わせて参加できるよう、 (ねん) 3回の研修を実施

――具体的にどのような研修を実施されているのですか?

押木

入門編・情報発信編・窓口対応編の全3回で実施しています。原則として各課1名以上の参加をお願いしていて、研修をスタートした2024年度はのべ83名、2025年度はのべ82名が受講しました。一番受講者が多かったのは、やはり入門編ですね。ただ、2年目は窓口対応編への参加が大きく増えました。研修を周知する際に、この研修がどんな業務に役立つのかがイメージできるよう、1年目の受講者アンケートから拾った声を紹介したのが、効果的だったようです。窓口対応編では、武蔵野市国際交流協会の協力を得て、外国人のトークパートナーにも参加していただき、日本語初級レベルの方との会話を体験するグループワークを行っています。特に力を入れている研修なので、より多くの方に参加してもらえてうれしいですね。

 

★トークパートナーさんとのやりとり2

窓口対応編 外国人トークパートナーとやり取りをしている様子

――全3回の研修という手厚い構成にした理由を教えてください。

高橋

やさしい日本語をまったく知らない人と、ある程度知識を持っている人では、研修に対するニーズが異なります。そこでまずは、やさしい日本語を知ってもらうための入門編が必要だろうと考えました。さらに、書き言葉と話し言葉のやさしい日本語では意識するポイントが違ってくるので、そこを整理して学べるように、アドバンスコースとして情報発信編と窓口対応編を設けました。どの研修から受けるかは、職員次第。去年は入門編、今年は情報発信編、来年は窓口対応編へステップアップ、というように、各自のニーズに合わせて受講できるのがメリットだと考えています。

 

情報発信編(kokohana様より)③加工

情報発信編で制作した、やさしい日本語のお知らせ



研修を続けることで、職員の意識を変えていく

――研修の受講者からの声を教えてください。

押木

入門編の受講者アンケートでは、「外国人の方が自分の気持ちを伝えられて、初めてコミュニケーションが成立するとわかり、まずは寄り添うことが大事だと思った」という声がありました。講師も私たちも、やさしい日本語で一番大切なのは「寄り添う心」だと考えていたので、それがきちんと受講者に伝わったことがうれしかったですね。ほかには、「やさしい日本語は外国人だけでなく、すべての人に対して活用できると思った」「仕事の中で当たり前に使っている用語も、知らない人には難しいと改めて気づいた」などの声がありました。また、情報発信編では、「言葉だけでなく文化の違いも見落としてはいけないと気づかされた」といった感想も寄せられています。

 

――研修の実施により、職員の意識が変化してきたと感じますか?

高橋

職員全員の、というのはなかなか難しいところもありますが、こうした研修に地道に取り組んでいくことで、少しずつ一人ひとりの意識が変わっていってほしいと思っています。特に、現場で困った経験のある人は、やはり意識が高いですよね。研修後に職員から「広報のチラシを、やさしい日本語を意識して作りました」という声があったほか、研修で講師から紹介していただいたコミュニケーション支援ボードをすぐに窓口で導入した職員もいました。

 

押木

外国人からの問合せがあると、まず「外国語で対応しなければいけない」と構えがちですが、研修を受講したことで、「やさしい日本語を使えば、抵抗感なく接することができると気づいた」という声も多く聞かれます。私自身、外国語に苦手意識がありましたが、やさしい日本語の「はさみの法則(はっきり/さいごまで/みじかく)」を意識して話すようになってから、以前より相手から () き返されることが減りました。やさしい日本語は、窓口や電話で対応する職員が一歩を踏み出す力になっていると思います。

 

★研修②32

窓口対応編でのグループワークの様子

 

防災課と一緒に やさしい日本語の「防災ハンドブック」を作成

――「外国人のための武蔵野市防災ハンドブック(やさしい日本語版)」も作られていますね。

高橋

こちらのハンドブックは、防災課と一緒に作成したものです。多文化共生・交流課から声をかけましたが、このときも私の説明の仕方がよかったのか( (わらい) )、とても好意的な反応だったと記憶しています。調布市の先行事例を参考にさせてもらったこともあり、イメージの共有がスムーズで、同じ方向を向いて作業を進めることができました。イラストや写真をたくさん使ってわかりやすくしたほか、「震度」「緊急地震速報」といった覚えてもらいたい言葉は、説明を添えつつそのまま掲載するなどの工夫をしています。制作を通して、防災課の職員とやさしい日本語を共有できたことも成果のひとつです。ハンドブックはPDFをホームページに掲載しているほか、国際交流協会や市内の日本語教室のほか、民間の日本語学校などにも置いていただいています。また、むさしの国際交流まつりなどのイベントでも配布しています。

 
防災ハンドブックP4-5

「外国人のための武蔵野市防災ハンドブック(やさしい日本語版)」

――他の課でやさしい日本語を活用した取り組みがあれば教えてください。

高橋

子ども育成課という保育施設の所管部署が、新たな取り組みとして「保育施設マップ・利用ガイド」のやさしい日本語版を作成しました。多文化共生・交流課に確認依頼が来たので、課内で回覧し、意見を返す形で連携しました。とはいえ、やさしい日本語には正解がないので、何をどこまで意見として伝えるべきか、とても難しかったですね。

 

保育施設マップ・防災ハンドブック

「保育施設マップ・利用ガイド(やさしい日本語版)」

 

みんなにやさしいまちづくりを目指して

――今後のプランや伝えたい思いがあれば、お聞かせください。

高橋

新たな取り組みとして、市民向けのやさしい日本語講座の開催を予定しています(2026年2月)。最近は市民の方々も、地域で外国人と接する機会が増えてきました。言葉の問題で、話しかけるのが怖いと感じている (かた) もいると思うので、講座のグループワークで、やさしい日本語で話すと伝わるんだという成功体験をしていただきたいです。 また、多文化共生・交流課では、広く多文化共生の啓発にも取り組んでいます。現在、2024年2月に発行したリーフレット「多文化共生ってなに?」に続く、動画の制作も予定しています。みんなこの地域の一員なのだから、みんなにやさしいまちづくりをめざしましょう、という呼びかけを続けていきたいですね。

 

押木

基礎自治体の職員は、「市民を一人も取りこぼさない」という意識を共通して持っています。外国人の方も含むすべての住民の暮らしを支えていくために市民サービスを充実させることが第一であり、そのための方法 (ほうほう) のひとつに、やさしい日本語があると考えています。多文化共生・交流課の仕事は (たね) をまくことで、1年後、2年後に目に見える形で効果が現れるものではないかもしれませんが、市の職員として努力し続けていきたいと思います。

 

 

★差し替え版2(明るさ補正2)

多文化共生・交流課職員の押木さんと、同課課長の高橋さん