埼玉県ふじみ野市 やさしい日本語の「まちさんぽ」を通じて、同じまちで一緒に暮らす“フレンズ”に
埼玉県ふじみ野市では、在住外国人と地域住民の交流を進めるとともに、市の歴史や文化に親しむ市民を増やすことを目指して、やさしい日本語を活用したユニークな取り組みを始めました。貴重な文化財やまちの魅力を やさしい日本語でわかりやすく伝えるツアーガイドを養成し、ふじみ野市の見どころを外国人に紹介する「まちさんぽツアー」や交流の場となる「にほんごカフェ」などを開催。市内の施設や事業所、保存会などとも連携して、さまざまなコラボ企画を実現しています。
ふじみ野市社会教育課副課長の鍋島さんと文化財保護係長の岡崎さん、そしてツアーのボランティアガイドとして活躍する深瀬さん、石井さんにお話を伺いました。
文化財保護係の発案で、やさしい日本語を活用した取り組みがスタート
――まず、ふじみ野市について簡単に教えて下さい。
ふじみ野市は、埼玉県南西部にある人口11.4万人の市です。2005年に上福岡市と大井町が合併して誕生した新しい市ですが、地域には古くからの歴史があります。市内を流れる新河岸川では、江戸と川越を結ぶ舟運が発達し、回漕問屋を中心に物流の拠点として賑わっていました。また、川越街道沿いに宿場町として栄えた大井宿がありました。神社や寺院も多く、古墳時代や奈良時代の遺跡が発掘されるなど、多くの文化財が今も残されています。
――やさしい日本語を活用する取り組みは、どのような経緯で始まったのですか?
前任の担当者の発案で、外国人住民の増加やコロナ収束後のインバウンド需要を念頭に、やさしい日本語を使った取り組みを企画することになりました。埼玉県の補助金を活用できる見通しが立ったこともあり、2022年度から「やさしい日本語でめぐるまちさんぽツアー事業」がスタートしました。自治体の社会教育や文化財保護の担当部署が やさしい日本語に取り組んでいる例は、全国的にも珍しいのではないでしょうか。
ふじみ野市では事業開始の時点で、住民の37人に1人が外国人となっており、今も少しずつ増えています。文化財を活用して地域で暮らす外国人に市の歴史や文化に親しんでもらうこと、そして、地域住民との交流を深め、ふじみ野への愛着や郷土愛を育んでもらうことがこの事業の目的です。さらに、地域の魅力をSNSなどで発信してもらうことで、観光で訪れる人が増えてほしいとの期待も込められています。
学びと楽しみの両方が得られる体験型のツアーを企画
――まちさんぽツアー事業の概要を教えてください。
2022年度に実施した事業をご紹介すると、①やさしい日本語で史跡や文化体験などを案内するツアーガイドの養成、②ガイド向けの「文化財ガイドブック」と「まちさんぽガイドマップ」の制作、③在住外国人を対象とするモニターツアー、④スマホを片手に やさしい日本語で作られた「なぞ」を解きながら市内の史跡をまわるイベント、参加者への市内店舗の割引キャンペーン、⑤市指定文化財等の写真をSNSに投稿してくれた方への「ふじみ野ブランド詰め合わせ」プレゼントなどです。
今、まちさんぽツアーのガイドを務めてくださっているのは、この年の養成講座を修了した皆さんです。

ガイドブック(左)とガイドマップ(右)は、2025年に改訂版が作成されました。
――今、何名の方がガイドとして活動されていますか?
2022年7月に やさしい日本語を市民に知ってもらうための講演会を開催、そこでガイド養成講座の案内をしたところ、9月から11月まで全7回の講座に26名の方が申し込まれ参加してくださいました。連続講座の前半では、やさしい日本語やさんぽコースの作り方について学び、後半では、市内の事業所で働く外国人や留学生にご協力いただいて、実際にやさしい日本語でコースを案内する体験を織り込みました。講座修了後にガイドとして活動しているのは12名です。
まちさんぽツアーは年に2回実施しており、ガイドの皆さんは やさしい日本語の読み原稿に加えてイラストや写真も準備するなど、とても熱心に取り組んでくださっています。抹茶や折り紙のかぶと作りを楽しんだり、ほうき作りに挑戦したり、けん玉やこま回しなどの昔遊びをしたり、防災館(入間東部地区事務組合)を見学して非常食を試食してみたり。ツアーには必ず何かしらの体験を入れて、外国人参加者にとってもガイドの皆さんにとっても、学びと楽しみの両方が得られるようにしています。
また、今年度(2025年度)、2年ぶりにツアーガイド養成講座を開催していて、現在10名の方が参加してくださっています。

「ほうきを作ってぎんなんを食べよう」のひと時

「図書館に行ってみよう-マンガとカルタを楽しもう-」でのカルタ大会の様子
事業の主役はツアーガイドを務める市民ボランティア
――ボランティアのお二人は、どのようなきっかけでガイドになろうと思ったのですか?
私はこの事業を企画した担当者と大学の同期で、最初の講演会の告知をSNSで目にしたんです。ちょうどコロナ禍で家にいることが増え、何か地域に関わる活動ができたらと思っていたタイミングでした。養成講座は宿題も出て結構ハードでしたが、充実感がありましたね。自分で考えたまちあるきのコースを自転車で回ってみるなどして、やさしい日本語で案内ができるように準備しました。これまで知らなかった地域の魅力を知ることができましたし、文化財に詳しい先輩方からいろいろと教わることが楽しくて。その道の達人や保存会の方との世代間交流やさまざまな団体とのコラボもできて、毎回新しい出会いにワクワクしています。
私は別の地域でおさんぽツアーの手伝いをした経験があり、これから増えるであろう外国の方に対応できる日本語を学びたいと思って参加しました。前職で外国人の就労支援をしていて、やはり日本語の壁は大きいと感じていたこともあると思います。やさしい日本語を学んで、これまでの自分の日本語がわかりにくかったことに気づかされましたし、今もいろいろと勉強させてもらっています。また、ガイドになって外国の方と話す機会を得たことで、海外から来た人が生活の細々としたところで困ったりつまずいたりしていることにも気づかされました。相手を知らないがゆえの誤解や思い込みが、一緒に遊んだり食べたり、おしゃべりしたりすることでなくなっていき、お互いの理解が深まっていく。そんなつながりが広がっていってほしいですね。

外国人参加者と話をする中で、地震に対して強い不安を感じていると気づいたことから生まれた企画です。
――ガイドをジャパニーズフレンズ、外国人参加者をワールドフレンズと呼ぶそうですね。
養成講座の講師の提案で、そう呼んでいます。これまで参加してくれたワールドフレンズは、ベトナム、ネパール、中国、タイ、インドネシアなど、ほとんどがアジア圏の出身で、周辺の製造業で働いている方が多い印象ですね。外国人と日本人のご夫婦や、お子さん連れで参加した方もいらっしゃいました。
ワールドフレンズが活躍する企画も出てきています。2023年の後半から、ワールドフレンズと自由におしゃべりをする「にほんごカフェ」を開催しているのですが、そこから生まれた料理教室の企画がとても好評なんです。先日は、ミャンマー出身の方が料理を教えてくれましたし、次はペルー出身の親子が手を上げてくれていて、この企画はまだまだ続いていきそうです。

ジャパニーズフレンズと呼ばれるガイドの皆さんには、ツアーのアイデア出しから、企画、コラボ先との折衝まで担っていただいています。市は役所関係との調整や事務的なサポート、広報などのお手伝いをしていますが、まちさんぽツアー事業の中心となっているのは、市民ボランティアの皆さんです。今では月1回の定例会が定着し、番外編の自主ツアーが行われるようにまでなりました。
市民ボランティア側としては、この取り組みを官民共創だと考えています。行政と一緒に事業を進めていることで信用や安心感が生まれ、そのおかけでいろいろな人や団体とのコラボがしやすくなって、とてもありがたいです。
ワールドフレンズとともに、まちさんぽツアーの運営を!
――今後のプランや期待したいことがあれば教えてください。
ツアーに参加してくれたワールドフレンズにも運営側に入っていただいて、一緒に事業を進めてもらえたらと考えています。すでに定例会に参加されている常連の方もいらっしゃいますが、今後はさらに参加するワールドフレンズを増やしていきたいですね。
「自分の国の料理を食べてもらいたい」という声から料理教室が生まれたように、メインのツアーについてもワールドフレンズと話し合いながら進めていったら、より企画の幅が広がっていくのではないかと思います。
あるタイ人の女性がツアーに参加した後、こんなコメントを書いてくれたんです。「素直に楽しくて、貴重な体験でした。この活動を日本にやって来たみんなに知ってほしい。わたしの心に響くまちです」と。 この事業の良さは、「一緒にこのまちで暮らしていきましょう。一緒にイベントを楽しんで、困ったことがあるときは寄り添いますよ」というゆるい感じにあると思うんです。こういうスタンスの人が増えていけば、まちもよりやさしく、変わっていくはずです。ほかの地域にも、こういう取り組みが広がっていくといいですね。
