やさしい日本語

活用事例

せたがや国際交流センター(クロッシングせたがや) やさしい日本語の交流から広がる、多文化共生のまちづくり

 
 
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外国人のための日本語教室(Japanese Class for Beginners)の学習者の皆さん

 

公益財団法人せたがや文化財団が運営する、「せたがや国際交流センター(通称:クロッシングせたがや)」。約3万人、150以上の国籍・地域にルーツを持つ外国人が暮らす世田谷区の国際交流拠点として、「誰もが安心して暮らせるまち」の実現に向けたさまざまな取り組みを行っています。

同センターの事業の特徴のひとつが、世田谷区が推進する やさしい日本語を積極的に活用していること。ワークショップや展示を通して区民にやさしい日本語をアピールするほか、外国人住民と日本人住民がやさしい日本語で交流する場として、「にほんご交流会」や、日本語を学ぶ外国人とボランティアが一緒に商店街をめぐる「まち歩きツアー」などを実施。様々なルーツを持つ区民の交流の機会を広げるとともに、外国人住民が地域活動へ参加するきっかけを創出しています。

やさしい日本語に関する取り組みの詳細について、マネージャーの黛さんと、スタッフの亀井さん、桑原 (くわはら) さん(いずれも、せたがや文化財団 世田谷文化生活情報センター 国際事業部所属)に伺いました。

 

 

区とともに、多文化共生のまちづくりを推進

――クロッシングせたがやについて教えてください。

「世田谷区多様性を認め合い男女共同参画と多文化共生を推進する条例(2018年)」を受けて策定された、「世田谷区多文化共生プラン」に基づき誕生しました。オープンしたのは、コロナ禍の2020年。当初は国際交流拠点として期待された活動が制限され、試行錯誤が続きました。現在は対面の企画が可能となり、にほんご交流会やまち歩きツアー、多文化理解講座、せたがや日本語サポーター講座、外国人のための日本語教室などを開催しています。運営を担っているのは、部長と私とスタッフ3名、日替わりで勤務する留学生を含むアルバイトの方々です。留学生の皆さんには、講座やワークショップにスタッフとして参加してもらうこともあります。

 

亀井

「世田谷区第二次多文化共生プラン(2024年)」では「誰もが安心して暮らせるまちの実現」のための施策として、行政情報の多言語化、やさしい日本語化の推進が挙げられています。実は私も知らなかったのですが、それ以前から2017年に作成された「世田谷区 多言語表記及び情報発信の手引き」で既にやさしい日本語の使用が提唱されていました。2025年8月発行の区のお知らせ「せたがや」(区報)で組まれた「多文化共生」特集でも、やさしい日本語が大きく紹介されました。

 

ワークの様子2_DSC03528

「やさしい日本語ワークショップ(実践編)」の様子

ワークショップや展示を通して、区民にやさしい日本語を紹介

――クロッシングせたがやの、やさしい日本語普及の取り組みについて教えてください。

亀井

2021年から多文化理解講座のテーマとして、やさしい日本語を取り上げています。毎回、40名の定員が埋まるくらいの申し込みがあります。今年度は入門編と実践編を開催し、内容もケーススタディを取り入れたワークショップ形式にしました。入門編には、先ほどお (はな) したアルバイトの留学生2名に参加してもらい、インタビューを通して、自分たちのやさしい日本語が本当に伝わるのかを受講者に体験してもらいました。また実践編には、区内の大学の留学生8名にグループワークに参加してもらい、外国人にとって日本語の何が難しいかを参加者と話してもらいました。

やさしい日本語をテーマとした講座には、高校生や大学生も含め、幅広い世代の区民が集まります。参加者にこの講座の受講を申し込んだ動機を聞くと、共通して「何か外国人の方の役に立ちたい」と思っている (かた) が多いのですが、特に海外での生活に苦労した経験があり「今度は恩返しをしたい」という思いを持っている (かたが多いことに気づきました。

 

 

――館内でやさしい日本語の展示を行うこともあるそうですね。

期間を区切って、さまざまな館内展示を行っているのですが、2025年度は4月から7月にかけて「『やさしい日本語』で伝えよう~つながろう」というテーマの展示を実施しました。やさしい日本語の基礎知識や事例についてわかりやすく伝えるパネルは、スタッフが作成しました。やさしい日本語の書き換えクイズのパネル等も工夫して作りました。「せたがや区民ふるさとまつり」や「せたがや国際メッセ」など、地域のイベントにブースを出展する際にも活用し、やさしい日本語を紹介しています。

 

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やさしい日本語を実践する上でのポイントや、活用事例を紹介したパネル展示



日本人にはやさしい日本語を使う機会を、外国人住民には地域につながるきっかけを

――まち歩きツアーでは、やさしい日本語で交流するそうですね。

(はら)

まち歩きツアーは、主に「外国人のための日本語教室」の学習者や留学生と、日本人のボランティアがグループになって、やさしい日本語で交流しながら三軒茶屋の商店街をめぐるイベントです。50名ほどが10チームに分かれ、お花屋さんや八百屋さん、お菓子屋さん、金物屋さん、草履屋さんなど、あらかじめ協力をお願いしておいた店舗や施設をチェックポイントとして訪問します。各チェックポイントでは、外国人参加者が勉強した日本語を使って「ここはいつできましたか?」「何が一番売れますか?」など、店員さんへの質問にチャレンジ。質問に答えてもらい、まちの中にちらばるクイズの答えを協力して見つけられれば、ミッションクリアです。

 

お店の人たちが笑顔で話をしてくれるのはもちろんのこと、立ち飲み屋で居合わせたお客さんが説明してくれることもあり、貴重な地域交流の機会になっています。3回目のまち歩きでは、交番をチェックポイントのひとつにしました。いざというときに駆け込む場所を知ってほしいと考えたのですが、世田谷警察署の協力で実現することができました。このイベントが外国人参加者にとって、まちを知り、地域の方とコミュニケーションする機会になればうれしいですし、同時に、やさしい日本語を使って外国人のサポートを体験した日本人参加者が、その後、日本語支援ボランティアとして活躍するきっかけになってくれればとも思っています。

 

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やさしい日本語でまち歩きツアー「さんちゃ・にほんご・まちたんけん」の様子

――世田谷区の日本語支援ボランティアの状況について教えてください。

亀井

区内には東京都つながり創生財団の「東京日本語教室サイト」に掲載されている教室だけでも現在25くらいあるのですが、日本語を勉強したい人が急増していて、常にボランティアが足りていない状況です。日本語支援のボランティア活動を始めたい (かたを対象とした「日本語サポーター講座(基礎)」は、毎回50名の定員を超える応募がある人気の講座となっています。ただ、教室のスケジュールや場所の都合が合わない場合もあり、「週1回の活動をできるだけ長く続けてほしい」という教室側の希望に応えられるか不安に感じる (かたも多くいらっしゃいます。また、教室側の受け入れ状況によっては、すぐに活動につながらない場合もあります。こうした理由から、講座修了後、すぐに活動を始められる (かたはそう多くはないのが実情です。今後もボランティアに関心のある (かたと地域の教室をつなぎ、ボランティアと外国人が日本語を学び合える機会を地域の中で増やしていきたいと考えています。

 

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日本語サポーター講座「実践」の様子。(「基礎」講座はオンラインで実施)

――「にほんご交流会」についてもお聞かせください。

亀井

日本人と外国人区民が やさしい日本語で交流するイベントとして2021年から開催しています。現在は、近隣の大学の日本語クラスの先生たちのご協力により、年に4、5回開催しています。地域の日本人と交流する機会がほとんどない留学生も多いそうで、毎回多くの留学生が参加してくれています。内容は、例えば前半は、学生たちが世田谷について調べたことを日本語で発表する会に参加し、チームに分かれて発表内容を問題にしたクイズ大会をしたりします。後半は発表のテーマに合わせてテーブルを囲んでグループトークを行います。世田谷のオススメのお店を紹介し合ったりして先生方も驚くくらい話が盛り上がっています。もっと留学生以外の外国人住民の方にも参加して欲しいですね。

 

とてもシンプルですが、やさしい日本語を使って交流することで、外国人住民にもっと地域になじんでもらえたらと考えています。外国人の皆さんは、地域に顔なじみの人が増えることで安心して暮らせるようになる。一方、日本人の方も、相手を知ることで、壁を感じることなく付き合えるようになると思います。

 

 
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「にほんご交流会」の様子


やさしい日本語のマインドを忘れずに

――最後に、やさしい日本語についての思いをお聞かせください。

亀井

ワークショップ参加者へのアンケートでは、「外国の人が日本語の何を難しいと思うかわかった」「英語を使わなくてもいいと気づいた」といった感想のほか、「世代が違う人との対話に使える」「夫婦の会話にも役立つ」などの意見もありました。外国人のためというだけでなく、身近なコミュニケーションにもやさしい日本語が役立つという声が聞けたのは、とても印象的でした。書き言葉にはAIなど発展するテクノロジーが活用されていくのでしょうが、人と人が話すコミュニケーションについては、優しい心で伝えようとするマインドの大切さは変わらないのではないかと思います。

 

相手に対する配慮、マナーとして、やさしい日本語が自然に出てくるようになればいいですよね。できるだけわかりやすく伝えようとするマインドが身につくと、相手に合わせた説明の仕方やツールの選び方がわかってきて、多様な人とコミュニケーションしやすくなるのではないかと思います。これからも講座、ワークショップ、にほんご交流会やまち歩き等のイベント、パネル展示など今の事業を磨いて進化・継続させていきながら、普及に努めたいと思っています。

 

 

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せたがや国際交流センターのみなさん
左から、中国人留学生でアルバイトの徐さん、スタッフの亀井さん、黛さん、桑原 (くわはら) さん、井口さん