法テラス 難しい法律の言葉をやさしく、間違いなく伝える

借金や離婚、相続といった法的トラブルを抱えてしまったときに必要な情報を提供し、解決へと導いてくれるのが日本司法支援センター(通称「法テラス」)。在住外国人に対するサポートにも力を入れており、三者間通話による電話通訳を介して日本の法制度や相談窓口を紹介する「多言語情報提供サービス」を10言語で展開しています。
また、ホームページにやさしい日本語のページを設け、日本で暮らす外国人に向けて法テラスの業務内容を案内。併せて、法律や裁判で使われる難しい言葉をやさしい日本語で解説した用語集と、よくある困りごとを集めてやさしく説明した事例集を掲載しています。
「法律や裁判で使うことば 【用語集】」を一部、ご紹介すると…


また、「困っていることは何ですか 【事例集】」では、困りごとの事例を掲載、その解決方法や相談窓口を案内しています。

わかりやすさを追求しつつ、リーガルチェックで法律本来の意味合いも守る
法テラスがホームページでやさしい日本語での情報提供を始めたきっかけは、「やさしい日本語のニーズが高いことがわかったから」。そう教えてくれたのは、日本司法支援センター本部国際室の櫻庭由佳子さんです。

「外国人在留支援センター(FRESC)内にある法テラス国際室には、いろいろな外国人の方が相談にいらっしゃるのですが、電話も含めていちばん多い対応言語はやさしい日本語を含めた日本語なんです。令和4(2022)年度は国際室への問い合わせの約4割が日本語対応でした(令和4年度版法テラス白書より)。また、2018年に東京都国際交流委員会(現在の東京都つながり創生財団)が在住外国人を対象に行ったアンケートで、『情報発信で一番使ってほしい言語は何ですか?』という質問に対し、100人のうち78人が『やさしい日本語』と回答していると知ったことも、きっかけのひとつとなりました」
ならばと、まずはホームページで紹介している法テラスの業務内容について、やさしい日本語にして掲載。さらに、よくある相談事例や法律用語をやさしい日本語で説明すれば、外国人の方だけでなく、外国人を支援する行政の窓口担当者や国際交流協会にも役立つだろうと考え、事例集と用語集の作成に取りかかったのだそう。
ただ、相談事例や法律用語をやさしい日本語で説明するのは、決して簡単な作業ではありません。
まずは、国際室に来ている弁護士に通常の日本語でテキストを作成してもらい、それをやさしい日本語にします。
「やさしく、わかりやすくすることに注意を向けすぎると、法律本来の意味合いから遠ざかってしまったり、誤解が生じる言い回しになってしまったり。そのため、やさしい日本語化したテキストには、必ず、弁護士のリーガルチェックを入れています」
「たとえば、『解雇』について、私たちは『辞めさせられた』としたんですが、最終チェックで『ふつうに「クビにした」のほうがわかりやすいですよ』といわれて(笑)。こういうときはやはり、日本語が母語でない人に見てもらって良かったな、と思います」
作成に携わった職員にも新たな発見が

このように、事例集・用語集の作成にはかなりの手間を要します。電話や窓口での相談業務と同時並行で進めていることもあって、ホームページの更新頻度は3〜4か月に1回程度。大変な苦労をして発信しているやさしい日本語の情報ですが、ひとつ心に留めておかなければいけないことがあるそうです。
「法律用語のなかには、裁判などを経て定義されているものや、法律の条文で定められている用語もあります。会話分析の専門家にご意見を聞いたところ、『法律に関する言葉の意味合いを、100%やさしい日本語で表現することは難しく不可能』といわれました。そのため、用語集のページに、『この用語集は、わからないことばの、大体の意味を理解するために使ってください』と注釈を入れているんです」
一方で、この事例集・用語集の作成に関わることは、櫻庭さんたち職員にとって大きな学びになっているようです。たとえば、「逮捕」「勾留」という言葉――。
「相談窓口には、『息子が捕まったけど、これからどうなるのですか?』といったご家族の方からの問い合わせがあったりするんです。言葉の通じない外国で逮捕されたらすごく不安ですよね。逮捕されて何日間取り調べを受ける可能性があるか、何日間勾留されるのか、日本人であっても詳しく知らない刑事事件の手続きが用語集の説明を見るとよくわかるんです」

逮捕は長くても3日。長い間、逮捕されているように感じるのは、その後勾留されているからなんだ――日頃よく聞く言葉でわかっているつもりでいた用語が、「実はこういうことだったのか」という発見があると教えてくれました。
「日本人にもわかりやすいですよね。一般の方でも法律に興味がある人にとっては面白いでしょうし、外国人相談の窓口担当者はもちろん、警察署などで接見通訳をする方、法廷通訳の方などにも参考にしてもらえるのではないでしょうか」
日本人への対応にも役立つからこそ、法テラスの利用者対応でもっと活用したい

やさしい日本語での情報発信を始めて3年。在住外国人から「やさしい日本語の情報が役立ちました!」という声を直接聞くことは、なかなかありませんが、外国人の支援をしている方から「相談のときに使っています」という声が寄せられているそうです。
「今後の取り組みとしては、やさしい日本語のページがホームページのとてもわかりにくい場所にあるので、もっと外国人の方や支援者さんたちの目にとまりやすい場所に移動させたいというのがひとつ。それから、作成途中の事例集・用語集の原稿がいくつもあるので、情報更新の頻度を上げていきたいですね」
さらに、やさしい日本語を各都道府県にある法テラスの地方事務所でも、もっと活用してほしいという思いも。
「国際室とは違って、法テラスの地方事務所への問い合わせは、日本語を母語とする人がほとんどです。でも、だからやさしい日本語は必要ない、ということではないと思うんです。法律や国の制度についての理解度は人によって異なります。やさしい日本語をうまく活用できると、より相手が理解しやすい表現を工夫しながらコミュニケーションできるようになります。相手が日本人であっても外国人であっても、相手に伝わる言葉で話すやさしい日本語はコミュニケーションの役に立ちます。そこで、やさしい日本語の活用を促進するための取り組みをしている東京出入国在留管理局在留支援部門に、法テラスの職員向けの研修を3年連続でやっていただきました。今後も、やさしい日本語の研修や勉強会を行っていきたいと考えています」