医療 ×「やさしい日本語」研究会 誰にとっても「やさしい日本語」を医療現場へ
動画やツールで紹介する、医療現場で必要とされる「やさしい日本語」
日本語を母語としない方や、高齢者、障がいのある方、子どもたちなど、言葉の理解に不安のある方々が安心して医療を受けられるよう、「やさしい日本語」を医療従事者に広める活動が進んでいます。順天堂大学医学部教授の武田裕子さんもその一人です。『医療×「やさしい日本語」研究会』を設立し、聖心女子大学教授の岩田一成さん、帝京大学大学院教授の石川ひろのさん、NPO 法人国際活動市民中心(CINGA)コーディネーターの新居みどりさんと共に、医療現場への「やさしい日本語」の普及に取り組んでいます。
武田さんに「やさしい日本語」の活用について伺いました。
武田さんは、「外国人との会話は英語」と思い込んでいる日本人は多く、「医療従事者も例外ではない」と言います。実際は、日本で暮らす外国人は英語よりも日本語を理解する人の方が多く、病院内でも受付や検査など「やさしい日本語」で十分伝わる場面も多くあるというのです。
そこで、「やさしい日本語」を医療者に普及するという課題で「東京都と大学との共同事業」に順天堂大学(武田さん)、帝京大学(石川さん)、聖心女子大学(岩田さん)とチームを組んで申請し、活動することになりました。そのプロジェクトのなかで、医療で用いる「やさしい日本語」動画教材(https://www.youtube.com/playlist?list=PLFwRLsRI_gpDgJMNrFIbkZJ13xU-DeWA8)が作成されました。
動画教材は、医療従事者の間でまだ認知度の低い「やさしい日本語」の基礎知識や言い換えのコツ、実際に医療現場で使える事例別のフレーズ、外国人が考える「やさしい医療」のインタビューの 3 つのポイントで構成されています。順天堂医院の各部門から、患者さんによく用いるフレーズを集め、医師や看護師をはじめ、技師や薬剤師、ソーシャルワーカー、事務職員が登場し、様々な現場での会話が再現されています。

伝わりやすくするために注意すべきこととは ?
武田さんは、「やさしい日本語」を医療現場で取り入れる際に、役立つポイントがあると言います。動画教材では、10 のポイントを紹介しています。その中からいくつか例を挙げてもらいました。
まず、尊敬語や謙譲語、「お薬」などの「お」や「ご」をつける美化語を使わないこと。外国人には、まったく別の単語に聴こえてしまいます。
加えて、オノマトペ ( 擬音語、擬態語 ) もできるだけ使わないこと。意外かもしれませんが、オノマトペは日本語特有の表現であり、外国人には通じません。ただ、医療者にとって「ズキズキ」「チクチク」「ガンガン」などのオノマトペは、症状から診断する際にとても重要で、診療ではどうしても必要な情報となることもあります。そのため、医療×「やさしい日本語」研究会のホームページでは、医療現場でよく使われるオノマトペを多言語に翻訳して掲載しています。
また、話す前に整理して、大事なポイントを率直に伝えることも大切です。医療現場では相手の気持ちに配慮して、遠回しな表現や丁寧な言い方をすることが多々あります。文化的な配慮はもちろん必要ですが、「何を伝えたいか」を事前によく整理し、できる限り「簡潔に」「単刀直入に」伝えることが求められます。
さらに、外国人が話す日本語に慣れる必要もあります。相手は一生懸命日本語を話しているのに、「英語は分からない」と背を向けてしまうのは残念です。外国人の話す日本語を先入観なく受け入れ、じっくり耳を傾けることも大切なことだと武田さんは話します。
「『やさしい日本語』に正解はなく、相手に合わせて伝わることばを探る必要があります。また、相手が理解したかどうかを確認するステップも重要です。ただ『分かりましたか?』と尋ねるだけでなく、『では、言ってみてください』と、伝えた内容を相手に繰り返してもらうと理解度が分かります。忙しい医療現場では、外国人の患者さんに丁寧に向き合うことが難しい場合もありますが、一歩踏み込んでみましょう」(武田さん)
適切なことばで伝えることができれば、結果的に、より良い医療をより速く提供することにもつながります。根気強く「やさしい日本語」を活用してほしいです。慣れてくると、会話に要する時間もずっと短縮します。
一方、医療通訳者の存在は不可欠だと、武田さんは強調します。「より詳細な情報を得る必要があるとき、難しい決断が必要なときの説明など、医療通訳者を必要とする場面は必ずあります。『やさしい日本語』で全てが解決するわけではないことを知っておいてほしい」と言います。さらに、「やさしい日本語」は、医療通訳者や手話通訳者にとっても通訳しやすい話し方であり、翻訳アプリを用いるときにもより正確に訳されるとのこと。医療者にはぜひ修得してほしいものです。
誰もが「やさしい日本語」を知っている、話せる社会に
武田さんは、岩田さんや新居さんの協力を得て、研修やシンポジウムなどのイベントも積極的に開催しています。
研修には、できる限り日本語を母語としない外国人にも参加してもらい、実践的な研修が行われています。当事者と直接会って話をすることが、医療者側の苦手意識や思い込みを払拭するのに役立つとのこと。一方、協力してくれた外国人参加者からは、自分たちのために四苦八苦しながら医療者が「やさしい日本語」を学んでいる姿を見てとても嬉しかった、という感想が必ず出るそうです。
「今後、中学や高校の教育課程において『やさしい日本語』を学ぶ機会が設けられることを願っています。学校生活でも、外国につながりのある同級生が増えてくるのではないでしょうか。『やさしい日本語』は話し方のスキルであり、相手の状況や立場に寄り添って物事を考えるマインドを育てるツールです。それは、たくさんの気づきにつながると思います。その学びを経て、彼らが大人になり医療に従事する者も出てくる将来、誰もが『やさしい日本語』を知っていて、必要に応じて話せることが当たり前の社会になることを期待しています」(武田さん)
医療×「やさしい日本語」研究会 ホームページ
https://easy-japanese.info/
オノマトペ多言語シートや「やさしい日本語」リーフレットなど教材
https://easy-japanese.info/leaflet
「やさしい日本語」で PCR 検査を伝えた例
2020 年 4 月、順天堂医院の協力を得て、通訳同行が困難な PCR 検査場面で使えるフレーズを動画で公開。アニメーションを用いて伝え、再生時間も 1 分 40 秒とコンパクトにまとめられています。
https://youtube.com/watch?v=nwne978lJBc
動画では、検査をする際に必要なフレーズを「やさしい日本語」で説明するほか、伝え方のコツなども解説しています。

【取材日:2020 年 12 月 22 日】