一般社団法人やさしいコミュニケーション協会 医療現場でも「やさしい日本語」でコミュニケーションを
専門家とともにつくる医療版の「やさしい日本語」
一般社団法人やさしいコミュニケーション協会は「ことばとデザインでコミュニケーションをもっとスムーズにする」をミッションとして 2019 年 5 月に設立されました。
フリーランスの日本語教師として活躍される黒田友子さん。外国人に日本語を教える日々の中で日本人にも「日本語で外国人と話してほしい」と考えており、時を同じくしてやさしい日本語を知ったことで、「これだ!」とその必要性を感じ、「自分もこれを広めたい!」という強い思いを抱きました。当時流行していた感染症の注意喚起のチラシをやさしい日本語に書き換えをして、国立国際医療研究センターの国際感染症センター国際感染症対策室に送付。そのチラシを見た、国立国際医療研究センターの堀成美さんから、医療現場でのやさしい日本語の普及について協力依頼を受け、医療従事者に向けたやさしい日本語の講座を共同開発・開催しました。
現在は、主に医療機関や医療従事者向けにやさしい日本語の普及啓発を行っています。単発の講義ややさしい日本語への書き換えのご依頼をいただいた際には、必要に応じて同協会の理事である六車彩子さんや、東京都看護協会の危機管理室アドバイザーとして活動しながら特別顧問を務める堀さんからチェックや助言を受けられるように体制を整えて臨んでいます。
「医療現場では患者さんに必要な説明をすべて伝えることが大事なのですが、やさしい日本語だと伝えきれない部分がどうしても出てくる。どこまでやさしくできるのかというのは、医療者とともに考えていかなくてはいけない」と黒田さんは話します。
医療現場で必要な「やさしい日本語」のスキルをレクチャー
やさしいコミュニケーション協会では、やさしい日本語(医療)研修として 3 つの講座を提供しています。
1 つ目は「やさしい日本語(医療)サポーター養成講座」。これは、やさしい日本語の基礎を理解し、現場の仲間や同僚などにやさしい日本語とは何なのかを説明できることをゴールとしています。
2 つ目は「やさしい日本語(医療)インストラクター養成講座」で、現場でやさしい日本語を使う人に対してアドバイスできるようになることを目指します。養成講座で学んだやさしい日本語をブラッシュアップし、実際に講座の中で外国人とロールプレイを行い、実践していきます。
また、やさしい日本語だけでは限界がある医療現場で、どのタイミングで医療通訳にバトンタッチするのかなどのアドバイスも行っています。
3 つ目の「やさしい日本語(医療)トレーナー養成講座」では、受講者自身が職場などでやさしい日本語のセミナーを開けるようになるための講座で、講座の中でデモ講座を作り、講師として実施してもらいます。
いずれの講座でも、参加者からは「いかに自分たちが難しい言葉を話していたかが分かった」「外国人だけでなく、高齢者にも使えそう」などの声が寄せられています。
また、医療通訳を介して患者と話す場合にも、医師をはじめとした医療従事者がやさしい日本語を使う必要があると堀さんは指摘しています。医療分野は広く深いので、医療通訳者がすべての分野に精通しているわけではありません。また通訳者が日本人でない場合もあるため、内容を誤解なく伝えるために、医療従事者が通訳者に対して分かりやすく伝えることが求められるからです。
さらに、高齢者とのコミュニケーションの問題を解決するには、やさしい日本語の考え方と共通する部分があると六車さんは言います。
「高齢者の場合は耳が聞こえにくいとか認知症があるとか、コミュニケーションがスムーズにいかないことが多いので、やさしい日本語の『短く言う』『区切って話す』『ゆっくり話す』などは共通のポイントですね。また、同音異義語もなるべく避けるようにしています」(六車さん)
医療現場のコミュニケーション課題と「やさしい日本語」の役割
現場で使われる 医療用語は難しい言葉が多く、日本人ですら理解しづらいものがあります。医者や医療従事者も、コミュニケーション論を学ぶ中、難しい言葉を使うことはやめましょう、という教育を受けていますが、医学教育 6 年間、研修医 2 年間、と医療用語を日常的に聞いて育っていくので、医療用語が特殊な言葉という感覚が薄れがちです。 また、医者などの立場上賢そうに見えるようにあえて使っている、という人もいます。
そのほかにも、医者同士、看護師同士で会話をする際に、医療用語で話す方が楽なことがあります。どうしても時間に追われてしまう医療現場で、コミュニケーションに時間をかけることが医療者同士の間ではストレスになりうることも、こういった医療用語の使用を避けられない原因だと言います。
それゆえに、どうしても医療用語を使いがちですが、医療は本来、患者に伝えるべきことを全て伝える、ということが国籍問わず必要であり、患者に分かりやすく伝えるという点では、やはりやさしい日本語はとても有効です。
また、外国人患者受け入れのサポートには医療通訳や翻訳機能付きタブレット、ICT ツールなどが活用されていますが、実際に入院生活を送っていく中では、それだけでは足りない部分があります。「日常の場面でのコミュニケーション」の際にも、やはり医療従事者と患者の会話が必要なのです。
外国人とのコミュニケーションにおいては、簡単な日本語なら通じる場合も多くあります。「言葉が通じない」「外国人=英語」というマインドを変えていくことが、今後の課題になると思います。その考え方のきっかけとしてやさしい日本語には大きな存在意義があると六車さんは考えています。
黒田さんは、講義の際に伝えていることとして「よく考えてから話す」ということを教えてくれました。
「やさしい日本語にするときには『これは何を伝えようとしているのか』を整理する必要があります。そのために少し考える時間を取りましょう。具体的に何を伝えて、患者さんにどういう行動を起こしてほしいのかを考えてからやさしい日本語にすることが大切です」(黒田さん)
今後は、現在続けているやさしい日本語の講座を継続しながら、医療という広い分野を職種別に分けて、それぞれの悩み、例えば保健師や薬剤師が「この言葉をやさしくしたい」など抱えている悩みを解決できる講座や場所を作っていきたいと黒田さん。また、医療は行政との関わりも深いので、自治体向けにもやさしい日本語を普及させていきたいと、話してくれました。
活用例
予防接種や母子保健のチラシを外国人に渡せるようにやさしい日本語版を作成するアドバイスをしています。また、結核患者の追跡を行う際の問診票をやさしい日本語にしたことで、情報収集がしやすくなったとの声も池袋保健所から上がっているそうです。
さらに、やさしいコミュニケーション協会では、東京都から依頼を受け、新型コロナウイルスに関する知事メッセージ(やさしい日本語編)への協力も行いました。
https://tokyodouga.jp/uiaddq3safo.html

やさしいコミュニケーション協会 ホームページ
【取材日:2020 年 12 月 18 日】