やさしい日本語

活用事例

ひらがなネット株式会社 家庭料理を作りたい外国人のために料理レシピを「やさしい日本語」で発信

「ひらがなレシピ」の誕生と試行錯誤

 日本人と外国人をつないでよりよい社会をめざす取組を行っているのが、ひらがなネット株式会社です。
 代表取締役の戸嶋浩子さんは、起業前から外国人に日本語を教えるボランティアをしており、その活動を通じて日本語を教えるだけでは彼らの困りごとを解決できないと気づきました。そして、外国人も支援される立場になるだけでなく、日本で外国人にもっと活躍してほしいという思いから、2012 年に吉澤弥重子さん(取締役)とひらがなネット株式会社を設立。

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左から、戸嶋さん、吉澤さん。2 人が手に持っているのはひらがなネットが発行する「ひらがなネットしんぶん」です。

 

 外国人たちと一緒に街を歩く「みんなで散歩」や、自治体職員向けのやさしい日本語研修、日本人向けに外国人との接し方を教える冊子や動画づくりなど、外国人スタッフと一緒に様々な事業を展開しています。
 そんな取組のうちの一つが料理教室。結婚などで日本にやってきて、家庭料理を作りたいと思っている外国人たちに向けて開催しています。

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料理教室の参加者の(かた)と。実際に教室を開くことで、より近い距離でコミュニケーションを図ることができています。

 

 そもそもは、起業前から戸嶋さんが知人の外国人にひらがなでレシピを書いて和食の作り方を教えていたことがきっかけだそう。3年ほど続けているうちにどんどんレシピが溜まっていき、「日本に住んで和食を作りたいと思っている外国人はたくさんいるのでは」と思い、作成したのが「ひらがなレシピ(https://www.hiragana-net.com/recipe/)」のサイトでした。

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日本人には馴染みの深い家庭料理レシピがたくさん。レシピだけでなく、調味料や調理器具についての説明のページもあります。

 

 「料理が得意だから教えていたわけではなく、和食を作りたい外国人たちに少しでも楽に作ってもらえればと思って始めた」と言う戸嶋さん。当初はやさしい日本語については全く知らず、外国人に分かりやすい表現を自分なりに考えてレシピを作成したそう。日本語ボランティア教室で教えていた経験から、外国人はまずひらがなから日本語を学ぶので、レシピは基本的にはひらがなで書き、日本語学習の教科書のように分かち書き(文節ごとに空白を入れて区切る書き方)にしました。

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ボランティア時代に作成された最初のレシピ。様々な工夫を経て、現在の「ひらがなレシピ」にたどり着きました。

 

 また、読むことが難しい人のためにも全ての工程に写真をいれる工夫もしていました。
 頭を悩ませたのは、サイトを閲覧する外国人たちの日本語レベルがバラバラであること。ひらがなしか読めない人から漢字も問題なく読める人まで、様々な習熟度の外国人たちに対応するため、同じレシピを漢字表記バージョンにも切り替えられるようにしました。

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漢字レシピへの切り替えボタンを設置。最初はひらがなしか読めなくても、だんだん漢字も分かってくるからです。

 

動画でさらに分かりやすく 

 ひらがなレシピはさらに進化し、現在積極的に発信しているのが YouTube でのレシピ紹介(https://www.youtube.com/channel/UCH70hdMASEGoi_KFU3H99YQ)です。

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2020 年 4 (がつ)からスタートした YouTube での発信は、50 以上の料理動画を公開しています(2021 年 3 (がつ)現在)。

 

 新型コロナの影響により料理教室の開催が難しくなったため、レシピを動画で伝える取組をスタートしました。和食レシピだけでなく、タイ出身とモンゴル出身のスタッフによる母国料理の紹介もあります。「YouTuber になってください」と言う戸嶋さんからのオファーに応えたスタッフたちが自ら撮影し、編集までを手掛けているのです。
 YouTube では、ゆっくりはっきりしゃべること、字幕をひらがなでつけることなど、やさしい日本語での動画作りを意識しています。また、動画の長さにも注意し、全て 3 〜 5 分程度になるようシンプルな手順と編集を心がけています。

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お米を洗うときの回数まで細かく伝えます。

 

 選ぶレシピは「外国人たちが食べたことはあるけれども作り方がよく分からないもの」が中心になっていて、様々な外国人からの声を参考に、スタッフ同士で相談の上決定しています。
 また、タイ料理やモンゴル料理も紹介しているので、日本ではなかなか手に入りにくい調味料は、代用できるものをきちんと伝えています。
 視聴した外国人からは「作ってみたらおいしかった!」「これ作ってみたかった!」という嬉しい反応も。また、タイ料理やモンゴル料理は日本人の視聴者も多いそうで、様々な人へ広まっています。

 

外国人がもっと日本で活躍できるように「やさしい日本語」を日本人に知ってほしい

 現在、ひらがなネットでは日本企業への外国人人材の紹介にも力を入れており、「外国人を受け入れる企業にもっとやさしい日本語を普及させたい」と、吉澤さんは言います。企業側がやさしい日本語を知らないため、コミュニケーションがうまくとれず、外国人が孤立したり仕事が円滑に進まなかったりということがあるからです。

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一人ひとりの幸せを見守っていきたいという人材紹介事業のパンフレット。

 

 また、「英語で話しかけられることに困惑する外国人は多い」と吉澤さんは言います。
 「そこに外国人がいたら『なんて話しかけたらいいんだろう』と悩む人もいるかもしれませんが、まずは気軽に挨拶をしたらいいと思います。日本に住む外国人は、日本語を一生懸命学んでいる人が多いので、まずは日本語で話しかけてください。そうすることで、彼らは自分たちが受け入れられていると感じるのです。そのためにも、やさしい日本語がもっと広まって欲しいですね」(吉澤さん)

 


 

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 ひらがなネット ホームページ

https://www.hiragana-net.com/

 

【取材日:2020 年 11 (がつ) 27 日】

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