やさしい日本語

活用事例

NPO 法人 eboard (イーボード) 動画教材に「やさしい字幕」を搭載し誰もが学べる環境に『やさしい字幕プロジェクト』

学習が困難な子どもたちに向け、いつでも・どこでも学べる環境を整備

 NPO 法人 eboard(イーボード)では、「学びをあきらめない社会の実現」をミッションに、学習機会が損なわれている子どもたちに対し、無料のオンライン教材を提供するサイトを運営して学びの場を広げる活動をしています。
 2020 年 8 (がつ)からは動画教材にやさしい日本語で字幕をつける『やさしい字幕プロジェクト』を推進。これらの取組について、代表理事の中村孝一さんにお話を伺いました。

 

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NPO 法人 eboard(イーボード)代表理事の中村さん。

 

 学生時代から学習塾や学習支援の場と関わり、様々な子どもたちの学習課題と向き合ってきた中村さん。子どもたちを支援するなかで、学びに問題を抱える子どもたちは、学校での学習のペースについていけなくなっただけでなく、不登校や家庭環境、経済事情や学習障害、外国にルーツを持つ子など、様々な事情で十分な学びの環境を得られずにいることが分かってきました。

 

 中村さんは、どんな子どもでも学べる環境を作りたいと塾を続けていましたが、実際に子どもたちを集めて支援するには限界がありました。そこで着目したのが動画教材です。中村さんは 2011 年に eboard を立ち上げ、インターネットに動画教材をアップし始めました。2013 年に NPO 法人化し、学校や塾に行くことができなくても「いつでも・どこでも学べる」環境を作っていきました。

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eboard が提供する動画教材。動画で解説をすることで、どのような環境でも学習をすることが可能になっています。

 

多様な子どもの学びをサポートする「やさしい字幕」

 中村さんが動画教材を作成し始めたころから、聴覚障害(難聴)の人向けに字幕を希望する声が寄せられていました。聴覚障害を抱える子どもたちは、複雑な文章や助詞、抽象的な言葉を学びとることが難しく、情報を視覚で補う必要があります。
 また、様々な理由で学習環境が整わずにいる子どもたちに、動画教材をもっと分かりやすくし、誰もが学べる環境にしていくためにも、動画に字幕つけていくことが必要です。

 

 こうした中、新型コロナウイルスの流行が後押ししました。動画教材の需要が急激に高まったのです。2020 年春の緊急事態宣言下で休校となった期間、100 万人以上の閲覧を記録。前年比で 1000% を超える伸びとなりました。

 

 こうした背景もあり、やさしい字幕プロジェクトに向けた動きが始まります。ただ、字幕を付けるといっても、単に話した言葉を文字に置き換えた字幕や通常の書き言葉での字幕では理解しやすくはなりません。このときヒントになったのがやさしい日本語でした。やさしい日本語による字幕にすれば、学びの環境がもっと広がっていくのではと着目し、やさしい字幕をプロジェクトにすることを決意しました。

 

 このプロジェクトは「ろう学校の児童・生徒、難聴児」「外国につながる日本語の支援が必要な子」「発達障害などの学習の困りごとを抱えた子」の3つをターゲットとしています。
 「約7万人の子どもたちの学習機会を保障する取組は、社会的にとても意味のあるものになるはず。NPO として社会課題に取り組む私たちこそ、やさしい字幕プロジェクトに取り組むべきではないかと思ったのです」(中村さん)

 

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やさしい字幕プロジェクトは「学びをあきらめない社会へ」をキーワードに、ろう学校の児童をはじめとした 3 つのターゲットへの字幕の提供を行います。

 

通常字幕から「やさしい字幕」へ 

 やさしい字幕付きの動画教材は、まず音声を自動で文字に起こし、通常字幕を作った(あと)、やさしい日本語を用いた字幕に変換していきます。
 手作業による字幕作成には膨大な作業と時間を要するため、中村さんは在宅ワークで字幕の作業者を募りました。すると、ボランティアでいいからやりたいという人がたくさん手を挙げてくれました。コロナ禍で、自宅でできることを探しているボランティア希望者が多くいると気づきました。そこで、字幕作成をボランティアに、プロジェクトの運営と字幕のレビュー(確認)は eboard のスタッフが行うという仕組みを構築しました。現在は、約 1600 (ぽん)の動画教材に字幕をつけるため、作業を進めています。

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まず動画教材を自動文字起こしにかけた(あと)、誤字や言いよどみを修正し、話し言葉を書き言葉に変え、標準語に整えて通常タイプの字幕を作成します。

 

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その後、重複した表現を削除し、長い文章を分割し、句点をつけ、省略された助詞を補い、教育漢字以上の漢字にはふりがなをつけてやさしい字幕へと整えます。

 

子どもたちが学びをあきらめない社会を目指す 

 2021 年 1 (がつ)現在、登録ボランティアは約 700 名。うち個人が 450 名と 6 割を超えています。なかには大学・高校の学生も約 100 名程登録しています。大半の(かた)はやさしい日本語を知らなかった人たちです。
 やさしい字幕に初めて触れたボランティアの方々は「このような字幕を必要とする子がいると初めて知った」「人によっていろいろなやさしいがあると分かった」などの声もいただき、やさしい字幕プロジェクトを通じて、多様化する子どもたちに対する理解も広がっています。

 

 重要なポイントとなるのが「誰に届けるのか」。誰に伝えようとしているのかを明確にすることで、何が伝わりやすいのかという「やさしい」状態が決まります。
 「耳で聞いて分かる子もいれば、文字を読んで分かる子も、図やイラストを見て分かる子もいます。言葉の理解の程度も、理解の背景となる文化もそれぞれ異なります。これからも丁寧に現場の声を拾って多様な理解のあり方を探りながらやさしさを少しずつ共有していきたい。いつでも、どこでも、誰でも学びやすい教材について、もっとたくさんの人に知ってもらいたいです」(中村さん)

 

「やさしい字幕 」の多言語への自動翻訳 

 やさしい日本語を活用したやさしい字幕を推進するうちに、多言語化への自動翻訳の可能性も広がってきました。日本語をシンプルな構造で分かりやすく整えたことにより、翻訳の精度が上がっていることが分かったのです。まだ試行段階ですが、効率よく多言語に翻訳できるようになれば、やさしい日本語でも理解しきれない外国にルーツを持つ子どもたちの学べる場が一つ増えるかもしれないと中村さんは話します。

 

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動画は、字幕だけでなく、画像などで補完ができるため、様々な児童や学生の学習を支えてくれます。

 

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やさしい字幕を英語に自動翻訳した字幕。

 

eboard『やさしい字幕プロジェクト』ホームページ

https://info.eboard.jp/yasashi_subtitles

 

【取材日:2021 年 1 (がつ) 26 日】

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