やさしい日本語

活用事例

株式会社メルカリ 「やさしい日本語」と「やさしい英語」でコミュニケーションをインクルーシブに

現場をみたら課題は母語話者のほうにあった

 株式会社メルカリには、多国籍のスタッフが在籍し、東京オフィスのエンジニア部門では日本語を母語としないスタッフが約 50% に。社内の円滑なコニュニケーションのため、専属の言語トレーナーをおき、「やさしい日本語」と「やさしい英語」による『やさしいコミュニケーション』を展開しています。メルカリ流インクルーシブなコミュニケーションの取組について、日本語トレーナー&やさしい日本語トレーナーのウィルソン雅代さんにお話をお聞きしました。

 

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株式会社メルカリで日本語トレーナー&やさしい日本語トレーナーとして活躍するウィルソン雅代さん。

 

 コミュニケーションの問題に取り組むにあたり、ウィルソンさんはまず「現場の状況を知る」行動を起こしました。スピーキングテストで社員の語学レベルを確認し、コミュニケーション力をチェック。次に、各チームのミーティングに出席し、実際に行われているやりとりを確認し現場の実態を調査しました。その結果気付いたのが、母語話者側の調整力の必要性でした。母語話者側の調整力があれば、コミュニケーションが上手くいっただろうというシーンがいくつか見えてきたのです。

 

 「語学の習得を山登りに例えると、母語話者でない人が言語習得の山を登るのは、何年かかるか分からない。母語話者が山を下りていけば、ずっと早く話ができます。言葉の習得が目的ではないんです。お互いに意見を言い合ったり、伝え合ったりできることが大事です」(ウィルソンさん)

 

 職場では、言語学習をしながら、日々コミュニケーションをとり続けなければなりません。学習する側だけに負担をかけるのでなく、母語話者や上級話者が学習者に歩み寄ることが大切です。

 

 互いに近づく方法として取り入れたのが、やさしい日本語とやさしい英語によるコミュニケーションでした。

 

 

トレーニングでチームにとっての「ベストプラクティス」を探す

 やさしい日本語・やさしい英語によるトレーニングのゴールは語学学習ではなく、チーム内のコミュニケーションがベストになる状態、「ベストプラクティス」を見つけることです。

 

 トレーニングは、一緒に仕事をするチームやプロジェクト単位で行い、「事前課題」「トレーニング」「フィードバック」の 3 ステップにより、チームにとってのベストプラクティスを探します。

 

 初めに、事前課題では、自分は相手にどのくらい分かりやすく話そうと配慮していると思うか、自己評価をし、反対にチームのメンバーは自分にどの程度配慮してコミュニケーションをしてくれていると感じているか、チェックリストを使ってコミュニケーションの現状を数値化します。加えて、動画教材で現場のコミュニケーションにおける課題を具体的な事例を交えて確認し、どのような言葉が「やさしい」のかなど、基本的な内容についての自習も行います。

 

 次に、チームで集まってトレーニングを実施します。チームのメンバーが業務上のやりとりで実際に困っていることや、難しいと感じていることを全員で出し合います。みんなが課題を共有したところで、チームとして自分たちのコミュニケーションがどうしたら良くなるかを話し合います。

 

 ここでのポイントとなるのが、「自分たちにとってのベストプラクティス」を考えること。具体的に、チームが動くためにどのような状態がいちばん良いかを探り出します。

 

 最後の重要なステップがフィードバックです。トレーナーがトレーニングの2〜3週間後に再びミーティングに参加し、学んだことが生かされているか、コミュニケーションがどのように改善されたかを確認します。チームメンバーは各自でもう一度評価を行い、事前の数値と比較してコミュニケーションのどこが良くなったかを具体的に確かめます。

 

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※ 2019 年 10 (がつ)撮影

 

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ベストプラクティスの一例を日本語と英語でそれぞれ列挙したものを参考に、社員の(かた)にやさしい日本語のトレーニングを行います。

 

やさしいコミュニケーションの実践ノウハウを社外へも展開 

 メルカリには社内に専属の言語トレーナーがいますが、多くの企業は日本語学校などに語学教育を外部委託する、自主学習を促すなどしており、企業が主体となって実施する場合、どのようにしたらよいか分からないという声も多いとウィルソンさんは言います。

 

 このような課題を抱える企業向けに、メルカリではトレーニングのノウハウや実践例を伝えるセミナーも実施しています。

 

 「まずは課題がどこにあるのか、現場を見に行ってください。やさしい日本語が導入されれば解決するわけではありません。コミュニケーションの何に困っているのか、当事者の声を聞く。そこから次のステップが見えてくることも多いのです」(ウィルソンさん)

 

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メルカリのLET (Language Education Team) は、人事や D&I 施策を担当している企業の関係者向けウェビナーを開催しています。

 

やさしいコミュニケーションは多文化共生の第一歩 

 やさしい日本語・やさしい英語のトレーニングにより、チームメンバー同士の向き合い方が変わってきているとウィルソンさんは言います。

 

 「こちらから言わなくても自分たちが気づいて、『今日のミーティングはやさしい日本語でいこう』とか、『イベントで使うスライドにやさしい英語の作り方を入れてみた』とか、さり気なくそれぞれで行動するようになっています。『ここではやさしい日本語使いまーす ! 』『ありがとう!』と会話の中で自然と使われるようになり、お互いに助け合う社内のカルチャーが育ちつつあることを実感します」(ウィルソンさん)

 

 やさしい日本語・やさしい英語は、単に言葉をやさしくするツールではありません。お互いの立場に歩み寄り、思いやる中で相手の文化に思い至り、自分の配慮のあり方に気づく。ゴールはマインドセット、「やさしいコミュニケーション」へと向き合い方を変えていくところにあるのです。

 

 「メルカリは、やさしい日本語・やさしい英語のあり方にこだわりません。大切なのはチームとして意思決定するときに、関係者が全員参加して、互いの考えや意見を安心して言い合い、分かり合い、一つにまとまっていこうとする『インクルーシブ(包括的)』な関係です。その環境を、『ベストプラクティス』としてみんなで共有していくのです。一人ひとりの背景を認め合う多文化共生の関係性がとけあった『インクルーシブなコミュニケーション』が、メルカリの目指すやさしさなのです」(ウィルソンさん)

 

 


 

やさしい + WFHコミュニケーション・ベスト・プラクティス

 在宅勤務(Work From Home)が続いていることから、メルカリでは、リモート会議を効果的かつ効率的に実践するために、「やさしい + WFH コミュニケーション・ベスト・プラクティス」を作成しています。



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株式会社メルカリ やさしい日本語に関するホームページ
「日本語話者も英語話者も歩みよる、インクルーシブなコミュニケーション実現のためのメルカリ独自の言語支援施策」
https://mercan.mercari.com/articles/20363/

 

【取材日:2021 年 1 (がつ) 20 日】

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