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江戸時代へタイムスリップ!「深川江戸資料館」
東京都現代美術館やサードウェーブコーヒーブームで賑わう、東京都江東区の清澄白河。最近ではお洒落な街として注目を集めていますが、元々は江戸文化の歴史が残る下町情緒たっぷりのエリアです。
そんな清澄白河の駅のすぐ近くにあるとっておきの歴史体験スポット、一歩足を踏み入れれば180年前の江戸の町へとタイムスリップできる、深川江戸資料館を訪ねました。
当時の江戸・深川を体感してほしい
2016年11月で開館30周年を迎えた、深川江戸資料館。ここは、江戸時代後期の深川佐賀町の町並みを実物大で再現した展示室を中心に、小劇場とレクホールを備えた文化施設です。
今回、館内を案内してくださったのは資料館の池田秀治さん。「当館の特徴として、再現エリアには文字による解説が一切ありません。説明があると、どうしても頭がそちらに集中しちゃうでしょう。お客様には180年前の江戸・深川にタイムスリップしてほしいので」とのこと。
再現エリアは、表通りの大店と長屋が並ぶ路地、火の見櫓がそびえ立つ火よけ地、掘割(水路)がある水辺の3つに分かれています。中に入ると家や調度が小さく感じられますが、「当時の女性の平均身長が、ちょうどこの絵姿くらい。現代人よりだいぶ小柄でした」という池田さんのお話を聞いて納得。こうして展示物のサイズでもかつての日本人を表現するなど、深川江戸資料館の展示には細かな工夫が随所に凝らされているのです。
猫が招く深川佐賀町
大空間に広がる深川佐賀町の町並みにワクワクしていると、ふいに「ニャー!」と猫の鳴き声が。
池田さん曰く、「当館のマスコット、実助です。死んだときに戒名をもらったと伝えられる、江戸時代の実在の猫がモデル」なんだとか。このまめ助、じつは入場者をセンサーで感知し、館内スタッフに伝える役割も果たしています。なかなかの働き者です。
「こちらは八百屋です。こうした建築から野菜などの小道具も、すべて30年前に作ったもの。今はこれほど精巧なレプリカを作る職人がいないので、これ自体が貴重です」と池田さんが教えてくれました。
隣の米屋では、足踏み式の精米機を動かすこともできます。実際に店に上がったり、置かれたものを触ったりできるのも、深川江戸資料館のいいところ。海外から訪れる旅行者にも喜ばれているそうです。
風情ある船宿でひと休み
大通りを抜けると、水をたたえた風情のある掘割があらわれます。船着場に停めてあるちょき舟とよばれる小舟は、今でいうハイヤーのような存在。船宿で予約すると、希望の場所へ運んでくれるシステムだったそう。
当時は、吉原へちょき舟で行くのが粋な遊びでした。こんな船で隅田川に漕ぎ出したら気持ちいいだろうな...と思いを巡らせていると、夕方の鐘の音とカラスの鳴く声がして、空があかく染まってきました。再現エリアでは、場内の音響と照明を変えることにより、江戸の1日を演出しているのです。
掘割の前には2軒、いいムードの船宿が並んでいます。宿といっても宿泊施設ではなく、ちょき舟に乗る人が腹ごしらえをしたり、船頭がひと休みしたりする場所。池田さんのお気に入りは、「升田屋」さん。
「ちょっと路地が見える、ここからの眺めが一番好きなんです。お客様も、この縁側に腰かけて、くつろいでいらっしゃる方が多いんですよ」(池田さん)
火事を「華」とうそぶく江戸っ子気質
再現エリアでひときわ目を引く、高さ10メートルの火の見櫓。実際に上までのぼることもできますが、残念ながら危ないので観覧者には許されていません。
火の見櫓の周りは、火事が起きたときに逃げ込む「火よけ地」という広場。ふだんは人々の憩いの場であり、水茶屋(当時の喫茶店)やそば屋、寿司屋といった食べ物屋が集まる場所だったとか。
今でいうフードコートのような感じでしょうか。 火事と喧嘩は江戸の華――といわれたくらい、大きな火事が多かった江戸の街。緊急避難場所を憩いの場所に変えてしまう江戸っ子に、前向きさとたくましさを感じます。
亡き父が愛した思い出の場所
深川江戸資料館は、元深川区役所の跡地に建てられました。時代劇ではおなじみの深川ですが、実際にどんな場所なのかを知っている人は多くはありません。もっとたくさんの人に深川の魅力を知ってほしいと、資料館の建設が決まったのだそう。
最近は外国人の来館、とくにマンガ好きのフランス人の訪問客が増えてきたとのこと。池波正太郎や時代劇のファンが多く、ボランティアスタッフを質問攻めにする熱心さなのだとか。日本在住の外国人が、海外から遊びに来た友人を連れてくる場所としても人気を集めています。
「スタッフに聞いた話ですが、あるとき火の見櫓の下に、ずーっと立ち尽くしている女性がいたそうです。お話を聞いたら、亡くなったお父さんのお気に入りの場所だったと。自分も来てみて、なぜ父がここを好きだったかわかった――と仰ったそうで、私までほろりとしました。
今では親子2代でお越しになる方もいて、『30年前と変わらない展示が懐かしい』と喜んでいただくことも。もはや畳を知らない子もいますから、かつての日本の暮らしを伝える場として、これからもたくさんの方に楽しんでいただきたいですね」(池田さん)
濃厚な江戸体験にワクワクし通しで、「行かないと損!」と実感した深川江戸資料館。古き良き時代の懐かしさと、その魅力を伝えようとする地元の方、スタッフの方のあたたかさに、ますます江戸への憧れがつのる場所でした。
深川江戸資料館
TEL:03-3630-8625
住所:〒135-0021 東京都江東区白河1-3-28
観覧料:大人(高校生含む)400円、小・中学生50円
*この記事は、2017年03月29日に東京都国際交流委員会が運営していたLife in Tokyoに掲載したものです。