人形劇が見せる力強いパフォーマンス -八王子車人形-
世界各地で、さまざまな形で娯楽として親しまれている人形劇。日本の伝統的な人形劇の1つに「文楽」がありますが、その文楽と同様に人形を用いて、独特の技法で力強い演技を見せるのが、東京都八王子市に伝わる「八王子車人形」です。
「八王子車人形」は、1800年代の半ば、江戸時代末期に初代西川古柳によって考案されました。その後も西川家により代々受け継がれ、現在は13歳で祖父と父に弟子入りした五代目西川古柳が、西川古柳座の家元を務めています。そして、このユニークな人形劇は、東京都指定無形文化財や国の選択無形民俗文化財にも指定されています。
八王子車人形を初めてご覧になる方は、精巧に作られた顔や、装束からのぞく手足などから、文楽とあまり差がないと感じるかもしれません。しかし一般的に文楽では、人形遣い三人で人形一体を操るのに対し、八王子車人形では小さな箱形の車に座る人形遣い一人で操ります。大きな車輪ひとつと小さな車輪ふたつを備えた「ろくろ車」と呼ばれるこの箱車は、八王子車人形の大きな特徴となっています。
人形遣いは、右手で人形の右手を、左手で人形の左手と首を操作します。また、人形のかかとに付いた"かかり"と呼ばれる短い棒状のものを自分の足の指に挟むことで、歩く動作や踊りなど、人形の足の動きをリアルに再現します。こうしてろくろ車に腰かけた人形遣いは、人形と一体になって舞台の上を動き回ることで、よりしなやかで自然な動きを生みだしていくのです。
西川古柳座では、日本の古典文学や歴史上の有名な出来事を題材にした幅広い演目を用意しています。
また、海外の人形劇を研究し、スウェーデンで車人形の指導をしたり、ヨーロッパやアメリカで定期公演を行う西川氏は、車人形でフラメンコダンサーを演じるなど、演目に他国の舞踊の要素を取り入れる試みを行っています。
文楽に詳しい方は、八王子車人形ならではの見事な動きに魅了されるでしょうし、日本の伝統芸能に初めて触れる方は、人形に命を吹き込むかのような人形遣いの職人技に、きっと心を奪われることでしょう。
西川古柳座は1年を通じて「八王子市芸術文化会館」で公演しています。詳しくはこちらのウェブサイト(日本語のみ)をご覧ください。
この記事はノーム・カッツが執筆しました。
*この記事は、2018年02月13日に東京都国際交流委員会が運営していたLife in Tokyoに掲載したものです。