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福を呼ぶ招き猫の寺 -世田谷区 豪徳寺-
東京世田谷区、住宅街の一角に佇む「豪徳寺」。日本各地にある古い寺院とさほど変わらぬ、けれど美しい門構えのお寺です。風格ある山門に招かれて境内に足を踏み入れると、そこには本堂へと続く長い石畳の道が。両脇には木々が立ち並び、緑が生い茂っていました。
石畳に沿って先に進むと、古い仏殿に突き当たります。残念ながら内部は非公開ですが、正面の扉の小さな覗き窓から、中に祀られている仏像の凛とした姿を窺うことができました。
仏殿の西側へと足を向けると、他のお寺ではあまり見かけないものが目に飛び込んできます。大きな木製の絵馬掛けに掛けられた色とりどりの「絵馬」。いずれの絵馬にも、右の前足を上げて手招きをする白い猫が描かれています。これが、豪徳寺が発祥と言われる「招き猫」です。
絵馬掛けの奥にある小さなお堂の周りには、一帯が真っ白に見えるほど、たくさんの白い猫の置物が。近づいて見てみると、形も大きさもさまざまな猫の置物が、奉納所を埋め尽くしていました。古いものから新しいものまで、棚はもとより、棚の脇に祀られている菩薩像の足元まで覆い尽くしています。
豪徳寺の招き猫にまつわる言い伝えは、江戸時代(1603年~1868年)にさかのぼります。当時、とても貧しかった豪徳寺には、一人の和尚と一匹の猫がつつましく暮らしていました。和尚は猫を我が子のように可愛がり、食べ物も分け与えていたそうです。ある日、和尚は猫に「もしもお前が恩を感じているならば、このお寺に福を運んでおくれ」と頼みます。
それから数カ月が過ぎたある夏の午後、お寺に数人の武士たちがやってきました。鷹狩りの帰りだという武士たちは、馬から降りて和尚にこう言いました。「お寺の門の前を通り過ぎるとき、右の前足をあげて手招きをする猫を見た。あまりに奇妙な猫のふるまいに驚き、どういうことかとやって来たのだ。」
それを聞いた和尚は武士たちを中に招き入れ、お茶を振る舞います。武士たちが一服していると空は暗くなり、やがて激しい雷雨に。嵐が去るのを待つ間、和尚は武士たちに説法を聞かせました。その説法に武士たちは、ありがたい教えが聞けたと大変喜んだそうです。この武士の一行を率いていた彦根藩(現在の滋賀県北部を領有していた江戸時代の藩)の藩主もたいそう心を打たれ、このお寺を立派に改修できるようにと、広大な田んぼと畑を授けたのです。
この、手招きをする猫がお寺に福をもたらした話が広まり、豪徳寺は猫の寺として知られるようになりました。招き猫の置物は、この話を忘れないようにと作られたもので、今では家内安全や商売繁盛、心願成就のお守りや、お寺への奉納として、多くの人が繰り返し買いに来るそうです。
敷地の広い豪徳寺は、のんびりと散歩するのにもうってつけ。木造の立派な仏塔や手入れされた木々を眺めながら、じっくりと境内の静けさを味わうこともできます。
豪徳寺へは「新宿」駅から小田急線に乗って「豪徳寺」駅下車。オシャレなコーヒースタンドやレストランが並ぶ小さな商店街を通り抜ける、徒歩10分ほどの道のりです。スマホや地図アプリを手に進めば、迷うこともありません。商店街の街灯の旗には、猫のキャラクターが。それを目印に豪徳寺へ向かうのも楽しいでしょう。
この記事はノーアム・カッツが執筆しました。
*この記事は、2017年12月25日に東京都国際交流委員会が運営していたLife in Tokyoに掲載したものです。