クローズアップ
認定特定非営利活動法人 開発教育協会(DEAR) ~開発教育で目指す、一人ひとりが世界の課題を自分ごととして考え行動できる共生社会~
1982年に設立され、2027年に活動45周年を迎える開発教育協会(DEAR)。公正で持続可能な地球社会の実現を目指し、開発教育に関する教材の制作やネットワーク事業を行っています。「世界を変えるチカラ」になるため、精力的に活動を続ける団体の事務局長、中村絵乃さんにお話を伺いました。
- 「知る」だけでなく、主体的に行動する人を増やすために
- 目指すのは、主体的に社会に参加する力が身に着く教材づくり
- 一人ひとりの物語から、多文化共生への理解を深める
- 全国に開発教育の輪を広げるワークショップイベント
- 問いを立て、考え続ける力を育む開発教育
「知る」だけでなく、主体的に行動する人を増やすために
開発教育協会(DEAR)は、1979年に日本で初めて「開発教育シンポジウム」が開催されたことをきっかけに1982年に発足しました。一人ひとりが世界の格差・人権・多様性・環境問題など、開発をめぐる様々な問題を理解し、望ましい開発のあり方を考え、共に生きることのできる公正で持続可能な地域社会づくりを目指し、教材・出版物の発行や、人材育成、研究活動、政策提言、ネットワークづくりに取り組んでいます。
DEARでは職員や会員が大切にするべき価値・姿勢について、
- 変わる・変える(わたしが変わり社会を変える)
- 参加する(一人ひとりへの社会への参加を大切にする)
- 対話する(お互いの意見や気持ちを聴き合い対話をすすめる)
- 問う(わたしたちのあり方・開発のあり方を問う)
- つながる(様々な人とつながり連帯する)」
という5つのバリューを掲げています。
「地域の課題と世界の問題は繋がっています。教材や話し合いを通して学ぶことで、一人ひとりが変わり、社会に参加する一員になっていってほしい、開発教育を通じて社会を変えていきたい、というメッセージがあります。」と話すのは、事務局長を務める中村さん。
現在は全国の約500名の個人(教育関係者や国際協力関係者、学生、会社員など)と、30の団体が会員として団体の活動に参加しています。
目指すのは、主体的に社会に参加する力が身に着く教材づくり
写真提供:DEAR
DEARでは学校や青少年教育、生涯教育の場などで役立つ様々な教材・書籍・ツールを発行しています。
「教材作成は会員を中心に、チームをつくりすすめます。どんな教材を作るかは、会員からの提案によって決まることが多いです。会員が主体的に参加し、教材作りに携わっているのがDEARの特徴です」と、中村さん。教材は専門家の監修を受けたり、教員や学生の意見を取り入れたりしながら、1〜2年をかけて実践的な内容に仕上げていきます。
中でも、2万冊以上の発行部数を誇るのが『ワークショップ版・世界がもし100人の村だったら』(DEAR、2025、初版2003)です。世界を100人の村に置き換えた教材で、世界の多様性と貧富の差を、身体を使いながら体感することができます。
「学生の頃に授業でこの教材に触れ、“忘れられなかった” “自分の授業でもやりたいと思った”と教員になって連絡をしてくれる方もいます。そういった反響を聞くととても嬉しいです。こうした教材は学んで終わりではなく、その後が重要だと思っていて、ただ学習に参加するだけでなく、世界で起きている問題に目を向け、主体的に社会に参加する力をつけてほしいんです」と、中村さんは話します。
一人ひとりの物語から、多文化共生への理解を深める
写真提供:DEAR
写真提供:DEAR
近年はSDGsの普及により開発教育への理解が広がるとともに、多文化共生をテーマにした講師派遣の要請も増えているそうです。
DEARの教材には、多文化共生を分かりやすく理解できるものが多くあります。例えば『レヌカの学び-自分の中の異文化に出会う』は、実在するネパール人のレヌカさんの実体験を基に、ネパールと日本の生活や価値観の違い、考え方の変化をカードゲーム形式で学んでいきます。身近な生活場面から多文化共生を考え、気づかないうちに自分の中にでき上がっている思い込みや偏見に気づくことができるとともに、国単位でない個人の多様性を理解できるのも大事なポイントです。
「問題についてデータや数字を通して現状を知ることも大切ですが、一人ひとりの具体的なエピソードの方が想像しやすく、理解が深まります。教材を通して様々な人の生の声に触れることで、リアルに体感してほしいですね。開発課題は難しいからと、敬遠されがちですが、今社会で起こっていることに誰一人無関係ではいられません。だからこそ、考えるとともに話すべきだと思うんです。明確な意見がなくても、どう思ったのか、様々なニュースに関して自分の気持ちを話すことからでもいいと思うので」と、中村さん。
全国に開発教育の輪を広げるワークショップイベント
写真提供:DEAR
開発教育を推進するため、DEARでは教員や指導者を対象にした研修も行っています。毎年3月には開発教育を様々なワークショップで体験することができる「まなびDE(開発教育)フェスタ」を開催し、2026年は高校生や教員など約80名が参加しました。
「グループワークでは、ファシリテーションが重要になります。教員は生徒に正解を教えるのではなく、生徒自身が主体的に考え、対話できるような場を作っていくことが大切です」と、中村さん。
日本の教員は世界的に見ても労働時間が長く、様々な業務に追われているため、国際課題や開発教育にまで手が回らない人も多くいます。どのように教えたらいいか分からないと感じる教員にとっても、DEARの教材や研修は非常に役立ちます。
「子どもも大人も、誰もが学ぶ力を持っています。テーマ設定や問いかけ次第で、もっと知りたい、なぜ、この問題が解決されないのだろう?と自分でどんどん考えることができます。ワークショップを通して、参加者同士で対話したり、他者の立場に立って考えたりすることで、感情が動き、記憶に残ります。そういう学習環境を実現していきたいと思います」。
近年は高校生からの「自分たちでワークショップを作ってみたい」という相談や、外部団体からの教材共同開発の提案もあるそうです。ワークショップや教材を作る過程で、関わる人たちそれぞれが様々な視点から社会課題に向き合い、学びを深めることができます。
問いを立て、考え続ける力を育む開発教育
写真提供:DEAR
DEARではほかにも開発教育に関する研究論文や実践者からの投稿をまとめた機関誌「開発教育」の発行や、SDGsやジェンダーなどテーマごとの研究会活動も行っています。毎年8月に開催する「d-lab(開発教育全国研究集会)」には、全国の会員や開発教育に関心のある人が集い、事例や研究を共有します。数年に一度は東京以外の場所で開催し、地域課題にも目を向けます。
「北海道のアイヌ民族、沖縄の海外移民、各地の産業や資源など地域における開発の歴史や課題について学ぶことも重要です。足元の課題は、実は国の政策や制度、世界の課題と繋がっています。地域の課題を知ることが、世界を知ることにも繋がりますし、地域同士の連携を深めていくことで、解決の糸口が見えるかもしれません」と、中村さん。こうした開発教育に関わる場を日本全国に広げていきたいといいます。
公正で持続可能な社会づくりをめざす団体がミッションに掲げているのは、一人ひとりが「知り・考え・行動する」グローバル・シティズンシップを育むことです。
「私たちは、日々の生活に追われ、国内外の様々な問題を常に考えることは難しいですが、気になることがあれば、ぜひ、立ち止まってほしいと思います。私たち自身が、今ある問題を知り、自分ではない誰かの立場に立ち、問題の背景や構造に気がつかなければ、社会は変わっていきません。「なぜ、格差があるのか」「公正とはどのような状態か」などについて、関心を持ち、考え、理解を深めたり広げたりするきっかけづくりを行っていきたいです」と、中村さんは力強く語ります。
DEARの活動は、多文化共生社会の実現に向けた確かな一歩を私たちに示してくれています。
*本記事は取材時点での情報をもとに作成しています。最新の情報については、団体へ直接お問い合わせください。