クローズアップ

ぱすれる ~日本語教育と保育の専門性を活かしたサポートで、外国につながる親子と小学校をつなぐ“架け橋”に~

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写真左から「タタタハウス」を運営する高野雄太さん・森美恵子さん親子と、
「ぱすれる」の井上裕子さん、栃木亜寿香 (あすか) さん、目良 (めら) 秋子さん

子どもが日本の小学校に行くときに困らないよう、外国につながる親子や、外国につながる園児のいる保育園・幼稚園をサポートする団体「ぱすれる」。日本語教育や保育を専門とするメンバーが中心となり、さまざまな背景をもつ親子が安心して小学校につながれるよう、寄り添いながら活動を行っています。今回は「ぱすれる」のメンバーの井上裕子さん、栃木亜寿香 (あすか) さん、目良 (めら) 秋子さんにお話を伺いました。

 

支援が足りていない就学前の親子と小学校をつなぐ“架け橋”に

活動への思いを語る井上さん、栃木さん、目良 (めら) さん

2022年から活動を開始した「ぱすれる」は、世田谷地域を中心に活動する団体です。日本語教育と保育を専門とする白百合女子大学の教員4名が集まり、活動しています。団体発足のきっかけは、代表の井上さんの子育てをしている中での気づきでした。
「子どもを幼稚園に通わせる中で、外国につながるご家庭が多いことは感じていました。幼稚園の先生たちも『最近すごく増えている』と話していて。外国につながる保護者の方が先生とのコミュニケーションで困っている様子を何度か見るうちに、このまま公立小学校に上がってしまうと、ますますわからないことが増えてしまうのではないか、と思いました」と、井上さん。

当時、小学校の取り出し授業で日本語指導員をしていた栃木さんと話す中で、小学校以降の日本語支援は少しずつ充実してきているものの、就学前の子どもや保護者への支援はまだまだ足りていないことに気がついたといいます。

外国につながる親子が安心して小学校に進めるように、と団体の活動を開始。「就学前の親子を小学校につなぐ、人と人をつなぐ架け橋になれるよう」という想いを込めて、団体名はフランス語で“架け橋”を意味する「ぱすれる」(passerelle)としたそうです。

同じ地域に暮らす親子が気軽に集える場を目指して

クローズアップ2026年5月号_02-1
おやこサロンの様子
写真提供:ぱすれる
クローズアップ2026年5月号_02-2
プレスクールで子どもたちとお母さんと一緒に
野菜の名前を勉強する様子
写真提供:ぱすれる

ぱすれるが外国につながる親子をサポートするために団体発足当初から毎月開催しているのが「おやこサロン」です。外国につながる親子がつながる場、子どもを遊ばせる場として場を開きながら、困りごとや相談にも対応します。
「イタリア人のママ友は、『日本の幼稚園で子どもが何をして過ごしているのか正直わからない。子どもが楽しいと言っているから () い場所なのだろうけど…』と話していて、それは不安だろうなと感じました。外国につながる保護者の方たちに頼まれて、幼稚園からのお手紙を読む会を設けるようになり、それが現在のおやこサロンに繋がっています」と、井上さんは話します。

予約不要で出入り自由、土曜開催のため、夫婦で参加する方も多いそうです。子どもを遊ばせに来る方や、困りごとがあって足を運ぶ (かた) もいれば、同じような境遇の保護者と子どもの進学のことなど情報交換するために通っている (かたもいるといいます。
「子どもたちを一緒に見ながら、思い思いの距離感で交流するのを見守っています。ここでは教える・教えられる関係性ではなく、いつでも気軽に遊びに来られる () にしたいね、とメンバーで話しています」と、栃木さん。

また、公立小学校に進学予定の子どもが日本語を学ぶためのプレスクールも実施しており、五十音や数字、図形の名前などを一緒に勉強しています。日本語の発話が少なかったというお子さんも、プレスクールに通って少しずつ自分から話すようになってきたといいます。付き添いで来たお母さんが子どもと一緒になって学んでいることもあるそうです。

現場で試行錯誤する先生たちに寄り添うサポート

多文化共生ワークショップの様子
写真提供:ぱすれる

さらに、ぱすれるでは、外国につながる園児のいる幼稚園・保育園のサポートも行っています。アンケートやヒアリングを通し、「園での子どもの様子を伝えたいが、コミュニケーションが難しい」「持ち物などの指示がなかなか伝わらない」など、現場の先生たちが試行錯誤しながら外国につながる親子に対応していることがわかりました。そうした先生たちの困りごとに寄り添うため、近隣の幼稚園で先生向けの多文化セミナーを始めたといいます。
「外国につながる子どもが増えていることを受けて文科省からガイドラインが出ていますが、必要性は感じながらも取り組む余裕がない、というのが現場の本音です」と、保育を専門とする目良 (めら) さん。
セミナーでは現在日本に住んでいる外国人家庭の背景や、多文化の保育に関するさまざまな園での取り組みを紹介するほか、やさしい日本語を使った幼稚園で使える簡単なやり取りの () () え練習などを行ったそうです。

また、幼稚園や保育園で配られるお便り・プリントのテンプレートをやさしい日本語と写真やイラストで作成し、HPで無料公開しています。
「作成にあたり、園の先生たちにどういうお便りが外国につながる保護者の方に伝わりにくいか聞き取りをしました。作成したテンプレートを先生たちに見せると、『日本人の保護者の方もやさしい日本語の (ほう) がわかりやすいかも』と言っていただけました」と、井上さん。

地域の仲間と協働しながら、活動を広げたい

おやまちプロジェクトは、商店街・ 小中学校・大学・地域住民と、様々な人たちが垣根を越えて集まるコミュニティです。写真は、学生たちが () いた「尾山台まちじゅうラボ化プロジェクト」。

ぱすれるが (おも) に活動する世田谷区尾山台エリアでは、地域のさまざまな人たちが集まり、まちでの暮らしをより豊かにする活動を行う「おやまちプロジェクト」が展開されています。おやこサロンをはじめとする、ぱすれるの地域活動も、このプロジェクトの住民活動の一環として実施しているそうです。 「都市部では多くの人が暮らしていますが、自分のコミュニティ以外の人とはなかなか知り合うきっかけがありません。そこで、地域の中に新しい出会いやつながり、共助し合える関係を作っていくためにプロジェクトを始めました。外国につながる方々にも、おやこサロンなど地域活動に参加することで、地域の人と繋がってもらえたらと思います」と、タタタハウスの高野さん。


その (ほか) にも、2026年1月には世田谷地域で多文化や多様性をテーマに活動する子育て関連の団体が集まる「せたがや・せかいファミリーDAY」にも参加。日本の小学校の入学までの準備についてまとめた冊子の配布や、相談を行ったそうです。 「今後はおやまちプロジェクトの他の活動とも協働したり、地域で活動する他の団体とも協力したりしながら、活動を広げていけたらと思います」と井上さんも意欲を見せます。

目の前の一人ひとりに届けるための活動を

白百合女子大学で保育を学ぶ学生たちが行った「パネルシアター」。
自分の国の食べ物が出てくると、子どもも大人も盛り上がります。
写真提供:ぱすれる

ぱすれるの活動には、保育や日本語教育を学ぶ学生たちも積極的に参加しています。
「参加してくださる学生さんたちにはオープンにしていきたいなと思っています。また、子どもたちや学生さんたちを見ていると、言葉の違いってあまり関係ないんだな、と感じます。絵本や歌を通じて自然と一緒になって楽しんで時間を過ごしていて」と、井上さん。

先日はおやこサロンで目良 (めら) さんの教える保育学生たちが、パネルに絵を貼ってお話を楽しむパネルシアターを実施したそうです。世界中で愛される絵本を少しアレンジし、主人公が世界各国の食べ物を食べ歩くストーリーにしました。参加者の出身国の食べ物を用意したところ、 (おお) 盛り上がりだったといいます。その (ほか) にも、日本語教育を学ぶ学生が絵本の読み聞かせを担当するなど、学生たちにとってここでの活動が学びの実践の場となっています。

 

ぱすれるのメンバーのみなさんも、日々の活動を通じた気づきがあるそうです。
「異なる分野だと思っていた日本語教育と保育が、人を相手にする、という意味では共通する部分も多く、あまり垣根がないというのを私自身勉強する機会になっています。他の分野の方が加わることで新たなアイデアが生まれると思うので、一緒に絵本を読むとか、気軽な参加からでもぜひ、ぱすれるに関わっていただきたいです」と、栃木さん。
井上さんも、今後の抱負について、次のように話します。
「団体を立ち上げてから、活動をどう広げていくか模索しながらやってきました。小さな活動ではありますが、目の前の一人ひとりに届くよう、これからも続けていきたいですね」。

外国につながる親子も、日本人の親子も、安心して共に子育てができる社会を目指す「ぱすれる」の活動は、まだ始まったばかりです。

 

*本記事は取材時点での情報をもとに作成しています。最新の情報については、団体へ直接お問い合わせください。