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認定NPO法人カタリバ ~外国ルーツの高校生たちが自由にキャリアを描き実現できる、多様性豊かな社会を目指して~

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Rootsプロジェクト(外国ルーツの高校生のキャリア支援)を担当する山口洸輝 (こうき) さん。
2つの〇は、ナナメの関係を表すポーズ。

10代向けのさまざまな対話プログラムを通じて、多様な出会いと学びの機会を届ける、認定NPO法人カタリバ。中でも「Rootsプロジェクト」では企業と連携したインターンシッププログラムなど、外国ルーツの高校生へのキャリア支援を行っています。プロジェクトを担当する山口洸輝 (こうき) さんにお話を伺いました。

 

親や学校とは異なる第三者の立場から、「ナナメ」の関係を届ける

対話とナナメの関係が活動の軸となっています。
写真提供:認定NPO法人カタリバ

2001年に設立された認定NPO法人カタリバは、「どんな環境に生まれ育っても未来をつくりだす力を育める社会」を目指し、親や学校とは異なる第三者の立場から10代の若者が意欲と創造性を手にできる居場所を提供しています。社会の分断と格差の拡大が進む中で、災害や貧困、過疎など生まれ育った環境や受けた教育によって、子どもたちの意欲と創造性を育む「きっかけ格差」が広がらないよう、多様な出会いと学びの機会を届けます。カタリバという団体名には、本音で対話する、語り合う場を作りたい、という思いが込められています。親や先生(タテの関係)ではない、友だち(ヨコの関係)でもない、少し年上の先輩との「ナナメ」の関係を通じた対話を大切にしているといいます。

 

カタリバでは東京本部と、都内、岩手、福島、島根にある5つの拠点で現在17の事業を展開し、これまで約15万人の子どもを支援してきました。活動を続ける中で、外国ルーツの高校生たちの課題と出会い、2019年に「Rootsプロジェクト」が立ち上がりました。
「外国ルーツの子どもたちが年々増えている一方で、支援制度や育成プログラムの整備は追いついておらず、現場の先生たちの対応に依存してしまっています。また、言語や異なる文化・背景を持つ生徒の中でも分断のようなものが生まれており、外国ルーツの生徒たちの高校中退率も非常に高い状態でした。先生や生徒とは異なる立場の我々が入ることで、何か突破口を作れないかと思い、活動を始めました」と、山口さん。

外国ルーツの高校生たちが卒業後に関わっていく企業や社会へのアプローチ

外国ルーツの生徒の中には、親や兄姉 (きょうだい) 以外に深く話せる大人がおらず、職業の選択肢が狭まってしまっている人も多いといいます。
写真提供:認定NPO法人カタリバ

Rootsプロジェクトの設立から3年間は学校内でのプログラムとして、出張授業や放課後の居場所支援などを行っていたそうです。授業は多文化共生について考えるものから、言語からの解放として手話でコミュニケーションを取るもの、自分自身の興味を表現するものなど、外国ルーツの生徒たちが中心となって参加できることを意識したといいます。
「学校が自分の居場所だと思ってもらうことを大切にしました。取り組みによって、Rootsプロジェクトで支援したある学校では外国ルーツの生徒たちの中退率をゼロにすることができました。しかし、高校卒業後の進学率の低さや非正規雇用率の高さという新たな課題が見つかったんです。『子どもたちを送り出すのが不安』という先生たちの声もあり、次の展開として、卒業後に彼らと関わっていくことになる企業や社会にアプローチしていくことにしました」。

 

2023年度から、企業で仕事を体験する「Rootsインターン」を新たに開始。実際に足を運ぶことで、さらに企業や社会との関わりを広げる狙いだそうです。
「ダイバーシティ推進や、将来的な人材獲得・地域貢献の観点から興味を持ってくださる企業が多いです。日本のインターンは採用を前提 (ぜんてい) に行われることが一般的ですが、Rootsインターンでは生徒たちがまだ何がしたいか定まっていない状態でも参加できるのが特徴です。企業で働く大人との深い対話を通じて、自身のキャリアについて考える教育プログラムになっています」と、山口さん。

仕事の選択肢を広げ、自分自身の将来のイメージを掴むきっかけに

価値観やチームワーク、キャリアについて考えるプログラム内容を企業の担当者とRootsの担当者が一緒に考案します。
写真提供:認定NPO法人カタリバ

Rootsインターンでは、キャリア対話の時間の (あと) に企業の事業や業界に関連したプログラムが行われ、生徒は職場体験や社員インタビューを通して仕事への理解を深めていきます。インターンシップ終了後は、生徒が得た学びを発表する報告会を行い、企業担当者や学校の先生も参加します。学校以外の場で一生懸命学ぶ生徒の姿を見ることで、勉強や部活動では見えなかった一面が見え、先生たちの生徒への理解も深まるといいます。
「最初はあまり乗り気でなかった生徒が、最後の報告会で堂々と話す姿を見ると、先生たちも変化に驚いています。インターンを通して自分の興味や関心がわかり、一人ひとりが生き生きとした姿を見せてくれます。また、報告会は日本語で発表するため、その成功体験が自信に繋がり、アルバイトを始めたり、日本語能力試験の受験など、生徒たちの新たなアクションに繋がっています。言葉の壁を感じてしまって一つ目の成功体験を積むのが難しい生徒もいる中で、ポジティブなエネルギーに満ちていく姿を見られるのが嬉しいです」と、Rootsインターンの担当者の一人は話します。

 

生徒たちは、プログラムを通じて将来のイメージを掴むきっかけを得るとともに、自分の関心や強みをさまざまな分野で活かせることに気づき、より広い視点でキャリアを考えるように変化するといいます。
「就職活動ではないからこそ、自分自身の幅を広げてもらえると思います。自分の言葉やルーツを活かした仕事の選択肢が拡がったらいいですよね。一直線に自分の強みを活かすだけでなく、選択できる道筋や可能性が拡がると思うんです」と、山口さん。

生徒にも企業にも新たな視点を取り入れるきっかけをもたらす、対等な対話

少人数で話すことができるため、深い対話が生まれます。
将来のキャリアプランの相談だけでなく学校生活について相談をする生徒もいるそうです。
写真提供:認定NPO法人カタリバ

プログラムにはこれまで、さまざまなルーツやバックグラウンドを持つ生徒が参加してきたといいます。外国ルーツの生徒と話をする機会がこれまで無かったという企業も中にはあり、実際にインターンで会った生徒の熱量や一生懸命な姿に感銘を受けていることも多いそうです。ある企業からは、「次世代を担う多様な人材が活躍できる環境づくりの大切さに気付き、企業にとっての価値観の捉え直しのきっかけになった」という声もあったとか。
「参加を迷う企業さんからよく“英語ができないんです”と言われるのですが、そもそも生徒たちも英語が第一言語の子ばかりではありません。想いを伝えようとしているときに向き合って自分の話を聞いてくれる存在がいること自体が、生徒たちの勇気に繋がります。伝え合いたいという気持ちがあれば、さまざまな手法でコミュニケーションを取ることができます」と、山口さん。企業側が生徒に向けて一方的に何かを教えるのではなく、問いを投げかけ、一緒に考えながら対話することで、生徒も企業もお互いに新たな視点を取り入れるきっかけになっているといいます。

10年後を見据えて、外国ルーツの子ども達が活躍できる環境を整えたい

山口さんは2024年からRootsプロジェクトにメンバーとして加わりました。

Rootsプロジェクトでは、2026年2月に外国ルーツの高校生と社会(企業)が繋がる場を創出する「#meet5000フェス」を開催。会場には8社の企業と、首都圏、滋賀県、静岡県から計90名の生徒が集まるという、大きなキャリア対話イベントです。
「生徒たちがより気軽に参加でき、同世代の外国ルーツの友だちと繋がれる場にもなったらと考え、企画しました。将来のことを考えるきっかけになったり、新しい人との出会いによってもう少しチャレンジしてみようと思ったりする機会になればと思っています」と、山口さん。

「『#meet5000』の5000は、国内の日本語指導が必要な高校生の人数を表しています。ただ、その5000人という数字も文科省の調査で把握できている範囲のもので、高校につながれていない若者もいます。カタリバとして、せめてその5000人には進学や就職に繋がるような選択肢を提供できるよう、1人 (ひとり) でも多くの生徒と出会う場を増やしていきたいです」。現在は首都圏を中心に活動を展開していますが、地方の団体や企業、自治体とも連携を始めており、その輪を広げています。

「外国ルーツの子どもたちは年々増えています。いま小学校では、35人学級に1人 (ひとりは外国ルーツの子どもがいる割合です。ということは10年後、中高大学 (ちゅうこうだいがく) を経て、企業に新卒入社する社員も35人に1人は外国ルーツの人になります。10年後を見据えて、行政や企業、地域で活動する団体などと連携しながら準備を進めていきたいです」と、山口さん。子どもたちの多様で創造的な未来を目指して、Rootsプロジェクトの挑戦は続きます。

 

*本記事は取材時点での情報をもとに作成しています。最新の情報については、団体へ直接お問い合わせください。