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中野秘密基地 ~誰もが集える「秘密基地」から生まれる、ゆるやかな共生の輪~

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「中野秘密基地」を運営する山本真梨子さん

中野の住宅街にひっそりと佇む古民家「中野秘密基地」。ここは、年齢や国籍も異なる地域の様々な人々が集まる憩いの場になっています。
代表を務めるのは、かつてバックパッカーとして世界を旅した山本真梨子さんです。多文化共生こども食堂の開催などを通じて、中野の多様な人たちがゆるくつながる場を目指す古民家コミュニティを取材しました。

 

コロナ禍を機に改装した古民家に、「中野秘密基地」が誕生

縁側や引き戸など、古民家ならではの雰囲気が外国人にも人気です。
写真提供:中野秘密基地

高校卒業後にワーキングホリデーでオーストラリアに渡った後、バックパッカーとして世界50カ国を旅してきた、山本さん。帰国後、2002年に中野区でゲストハウス1号店「やどやゲストハウス」をオープンしました。

「旅をしながら、バックパッカー仲間たちと “帰国後は宿屋をやったらいいんじゃないか” という話をしていたんです。旅の中で出会った友人たちに、日本に遊びに来てよ、と言っても、日本は高いから行けない、と言われる時代で。安い宿があれば日本に遊びに来てくれるのかな、と考えたんです」。

 

そこから中野地域を中心に外国人が多く訪れるゲストハウス・シェアハウスを複数運営してきましたが、2020年のコロナ禍を転機に、一度立ち止まることとなります。
「もう全部なくしてしまおうか、とも考えました。でもこんな素敵な古民家を手放してしまうのはもったいないし、もう少し何かやってみようと決めたんです。そこで多様な人がゆるくつながる場を作れればと思い、自分たちでDIYして改装しました」と、山本さん。大工さんの力を借りながら、昔ながらの古民家の雰囲気を残して「中野秘密基地」は誕生しました。山本さんがこの場所を「私の秘密基地」と呼んでいたところ、いつの間にか訪れる人からも「秘密基地」と呼ばれるようになっていったそうです。

目指すのは、多様な人たちがゆるやかにつながり、
安心できる場コミュニティ

平均年齢80歳の女性たちを中心に地域で活動する「共に生きる会」を中野秘密基地で定期的に開催しています。様々なゲストを迎え、お話に耳を傾けながら“ともに生きる”ことについて考えます。
写真提供:中野秘密基地

ゲストハウス運営時は社員やアルバイトを雇っていましたが、コロナ禍以後 (いこう) は友人やボランティアの方たちの手を借りながら、基本的に一人で準備から運営まで進めたという、山本さん。中野秘密基地の事業計画については、大学の卒論のテーマにもしていたそうです。
コロナ禍中も、オンラインで海外在住の日本人から現地の今の状況を学ぶ会を開催するなど、可能な範囲で活動を行っていました。そんな中、地域の人たちとの交流の中で、中野秘密基地の方向性が見えたといいます。
「コロナ禍になって、地域の人と話をする機会が増えたんですが、いろいろ新しく知ることが多かったです。近くに住んでいるおばあちゃんたちがシェアハウスのゲストに声をかけてくれていたり、彼女たちが『なでしこ会』(現在の『共に生きる会』につながる会)という活動をされていたり。そうしたコミュニケーションを通じて、中野秘密基地が、地域の多様な人たちが親しんでくれる場になったらいいな、という想いが強くなりました」。

中野秘密基地は現在、「たぬどん食堂」など様々なイベントが開催されているほか、近所の人たちや、山本さんが運営するシェアハウスで暮らす人々の憩いの場になっています。
「私たちがこの場所を作っている、というより、来てくれる人たちが場を通じてゆるやかにつながって、安心できる場・コミュニティになったらいいなと思っています」。

“多文化共生”を体現する、多文化共生こども食堂「たぬどん食堂」

「たぬどん食堂」には、年齢、性別、国籍、身分などを超えて、多様な人たちが集います。
写真提供:中野秘密基地
流しそうめんのほか、かき氷やミニ射的など夏祭りブースも作られました。
写真提供:中野秘密基地

 

中野秘密基地で毎月開催する多文化共生子ども食堂「たぬどん食堂」は、山本さんの友人・さとみさんをリーダーに、ボランティアたちの手でつくられる、だれでも安心してごはんを食べられる食堂です。
「最初は“だれでも来ていい場所”と書きたかったんですが、“だれでも”とすると、逆に誰も来ないんですよね。こどもが無料というのと、外国人にも気軽に来てほしいというのを伝えたくて、多文化共生こども食堂という名前にしました」。

2023年1月に試験的に第1回を開催してみたところ、40名以上の人が集まりました。
「地域の掲示板で広報しただけだったんですが、想像以上の人が集まって、驚きました。この地域に必要とされている活動なのだと思い、毎月継続して開催するようになりました」と、山本さん。

 

ここでは、参加者たちのアイディアで、工作ワークショップや様々な国の遊びなど、様々な活動も行われます。イエメン出身の参加者が、イエメン料理を振る舞ったこともありました。
「提供者と参加者で分かれるのではなく、集まっている人たちがフラットに、ゆるくつながれるように心がけています。来てくれた人たちが自然と仲良くなって連絡先を交換したり、どこかに一緒に出かけたりしている様子を見ていると嬉しくなります」と、山本さん。

毎年夏に開催される流しそうめんの回は特に好評で、今年は70名もの人が集まりました。竹を割るところから手作りで行い、子どもたちや外国人の参加者たちの笑顔が溢れていました。

「最終的には多文化共生という言葉をわざわざ掲げなくても、たぬどん食堂はそういうところだよね、と思ってもらえるようになるのが目標です」と、山本さんは話します。

食を通じた交流を生み出す、「中野区エスニックマップ」

大学のゼミ活動で中野秘密基地をテーマに研究を行う中で、
エスニックマップの構想が生まれたそうです。
写真提供:中野秘密基地

山本さんが中野秘密基地の運営の傍ら、実行委員会を立ち上げて2025年3月に発行したのが、中野区で外国人が経営する飲食店を掲載する「中野区エスニックマップ」です。マップでは、かつてのバックパッカー仲間などと共に実際に訪れ、取材したという24店舗を紹介しています。
「なぜ日本に来たのか、どんな思いで経営されているのかなど、店主の人柄が分かる記事を通じて、身近に感じてもらい、訪れるきっかけにしてほしいと考えました」。

 

取材を断られたり、約束を忘れられていたり、予定通りにはいかないことも多くありました。お店に見知らぬ日本人が来ることで警戒されることもあったそうです。それでも制作を続けたのには、山本さんの強い想いがありました。
「卒論で中野区の調査を見ていたら、人口の7.2%が外国人である一方、約85%の日本人住民が『外国人と接点があまりない・全くない』と回答していたんです。お互いに知り合うきっかけがあれば、そこから偏見や怖さがなくなっていくのではないかと考え、食を通じて交流を楽しんでほしいという想いで、マップの制作を決めました」と、山本さん。

 

現在すでに第2弾のマップ作りを進めているといいます。
「第1弾ではわかりやすいように『外国人』と大きく記載しましたが、第2弾では『外国人』『日本人』関係なく、エスニック=民族的なお店を紹介することで、多彩な民族の雰囲気が出るマップを作りたいと考えています」と、山本さん。中野区エスニックマップは中野区役所や区民活動センター、地元の映画館などで紙冊子をもらうことができるほか、サイト上でも情報を見ることができます。

視点を少し変えるだけで、いつもの道も旅する気分になれる

「稼げる事業ではないから、大変です。それでも好きなんでしょうね」と、山本さん。

そのほかにも、山本さんは中野区観光協会の理事としての顔を持つなど、中野地区でさまざまな活動をされています。
「いろいろなことをやっていますが、全ての活動がリンクしているんです。今リニューアルを進めている観光協会のサイトでは、基本的な中野の情報を載せつつ、多様な人たちや面白い文化の多い中野のマニアックな部分を出したいと思っていて、暗渠マニアの方や、忍道家 (にんどうか) の方など、中野にゆかりのあるマニアックな方々にコラムを書いてもらう予定です。日常の視点がちょっと変わるようなコラムを通じて、街を歩くときの気分も変わり、旅をしているような気分になってもらえるといいなと思っています」。

 

これまでの活動を振り返って、山本さんは次のように話します。
「ゲストハウス・シェアハウスというフィールドでさまざまな国からのお客さんを中野に迎え入れてきたことが、今の活動にしっかり繋がっているなと感じます。やってきたことが、少しずつ形になっているなって」。

国籍も世代も越えて、地域の多様な人々が集う、「中野秘密基地」。それはだれもが自由に出会い、ゆるくつながる、新しいコミュニティの形でした。

 

*本記事は取材時点での情報をもとに作成しています。最新の情報については、団体へ直接お問い合わせください。