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認定NPO法人 e-Education ~「最高の教育を世界の果てまで」映像教育を届け、教育格差を超える~

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認定NPO法人 e-Educationで代表を務める三輪 (みわ) 開人 (かいと) さん

すべての子どもたちが当たり前のように教育が受けられるよう、バングラデシュをはじめとした開発途上国におけるICTを活用した教育事業と、日本国内の海外ルーツの子どもたちに向けた教育プログラムの提供を行っている 認定NPO法人e-Education
「最高の教育を世界の果てまで」をミッションに掲げ、2010年の創業以降、計15の国と地域で5万人以上の中高生に教育を届けてきました。創業メンバーであり、現在団体の代表を務める三輪 (みわ) 開人 (かいと) さんにお話を伺いました。

 

街灯の下で勉強する子どもたちの未来を教育で切り拓く

深夜に街灯の下で教科書を音読していた青年。「家族を幸せにするために、 () い仕事に就きたい」と語る姿に感銘を受けた三輪さんは、e-Education発足を決意しました。
写真提供:認定NPO法人 e-Education

社会起業家に憧れていた大学生の頃、インターンで初めてバングラデシュを訪れたという三輪さんは、農村部で深夜に、子どもたちがわずかな街明かりで勉強している姿を目にしたそうです。
「家族のために、昼に仕事や家事をしながら、深夜に勉学に励む子どもたちのエネルギーと可能性に触れて、感銘を受けました。より良い教育環境を届け、子どもたちの未来を切り拓きたいと強く感じたんです」。
同じように社会起業家を目指していた税所篤快 (あつよし) さんと二人で、高校時代に通っていた予備校の映像授業の仕組みが活かせるのではないかと考えたそうです。国内トップレベルの講師の授業映像を配信することで、全国どこからでも質の高い授業を受けられるこの仕組みを活用して、農村部の子どもたちに質の高い教育を届ける「e-Education」の挑戦が2010年に始まりました。

創業には税所さん・三輪さんの他に、二人の想いに共感した、バングラデシュ出身のマヒンさんという青年が携わっています。
農村部から国内最難関のダッカ大学に合格した背景をもつ彼は、現地でプロジェクトの推進に貢献し、今では現地の教育課題に挑むヒーローとして様々なメディアに出演しています。
「現地の課題は、現地の人たちだけが解決できると考えます。日本人が (おもて) に出るのではなく、その国のリーダーを見つけ、子どもたちが憧れるロールモデルとしてスポットライトを当てていくことを大切にしています」と、三輪さん。今では100名以上の海外メンバーがe-Educationに関わっています。

それぞれの国の教育事情に合わせたプログラムの考案

e-Educationはバングラデシュで初となる映像学習塾を立ち上げました。
そのモデルはバングラデシュ全国に、そして、国外でもどんどん広まっています。
写真提供:認定NPO法人 e-Education

バングラデシュは学歴社会で、首都ダッカだけでも100以上の予備校があります。一方で、農村部をはじめ、深刻な教員不足 (ぶそく) も課題となっていました。そこで、首都ダッカの予備校で活躍するカリスマ講師 の協力を得て、映像授業の制作を行いました。現地の言葉で話す講師の授業を届けることは、団体として当初から大切にしているこだわりです。映像授業は都市部から遠く離れた村に届けられ、最初の生徒である高校生18名がダッカ大学をはじめとする難関大学への進学を実現しました。そこは、共同創業者の一人、マヒンさんが生まれ育った村でした。
「村の人々は、『地元のヒーローであるマヒンが言うなら』と勉強場所を貸してくれ、村の各家庭の電気を集め、受験生に協力してくれました。みんなで勝ち取った大学合格でした」と、三輪さん。創業から15年、今では計500名以上の若者が難関大学に合格しています。

e-Educationは現在バングラデシュの他に、フィリピン・ミャンマー・ネパールの4カ国で主に活動する中で、それぞれの国特有の課題に合わせた教育プログラムを考案しています。
例えばフィリピンではコロナ禍の影響で長期間の休校・自宅学習を強いられ、ネット環境やデジタル端末の有無、家庭の経済状況や居住地域の違いによる教育機会の格差の拡大が問題となっています。また、算数・数学のレベルが国際的な水準よりも著しく低く、社会課題とされています。そこでe-Educationは日本で教科書を出版する啓林館と協同し、現地の数学講師をサポートするプログラムの開発などを行っています。「今後はさらに事業を拡大し、2027年度までに10カ国で活動することを目標にしています」と、三輪さん。

また、コロナ禍以降、約6,000 (ぼん) のオンライン教材を無料で開放し、多くの子どもたちの学びの継続を支えてきました。

卒業生たちがロールモデルとなって支える、受験への道筋

フィリピンでは、120名以上の⽣徒がフィリピン国内の最難関大学への受験に挑戦しています。
写真提供:認定NPO法人 e-Education

 

大学受験は、得意分野を伸ばすか、苦手分野を克服するか (とう) 、個別の学習計画が欠かせません。そこでe-Educationは映像授業の提供だけでなく、一人ひとりの受験勉強に伴走する「ライフコーチ」が存在します。ライフコーチはかつてe-Educationの支援を受けた大学生たちが主に務めており、学習計画はもちろん、生徒のメンタルサポートも行います。
「ライフコーチは受験生たちの未来の姿、ロールモデルなのです。悩みを抱える受験生たちに対して、自分も同じような経験を乗り越えたと語る彼らの姿を見ていると、胸がいっぱいになります」と、三輪さん。

また、団体では学費が足りない学生を支援したり、合格できなかった学生一人ひとりに連絡して話を聴いたりと、受験後のサポートにも力を入れています。
「特に印象に残っているのは、第一志望の大学に合格できなかった子の言葉です。『e-Educationが人生を変えてくれた。受験自体を諦めていたけれど、e-Educationのおかげで実力を出し切れた。僕は僕の人生を誇りに思う』と語ってくれました。第一志望の大学に落ちてもその経験を人生の糧にすることはできるし、受験が終わっても人生の旅は続いていく。そう改めて気づかせてもらいました」と、三輪さん。「人生に誇りを、社会には想いやりを」というe-Educationのビジョンもこの経験から生まれました。

日本に住む海外ルーツの子どもたちにも、安心して学べる教育環境を

算数や数学を母語や継承語(家庭内で用いられている言語)で教わることで、子どもの苦手意識を解消します。
写真提供:認定NPO法人 e-Education

e-Educationが2024年から新たに取り組んでいるのが、日本に住む海外ルーツの子どもたちへの支援です。独自で行った調査において、日本に移住した外国人家族にとって、教育が医療や労働環境以上に大きな不安材料となっていることが分かりました。一方で、海外ルーツの子どもたちに十分なサポートを行えていない自治体がまだ多いのが現状です。
そこで、e-Educationは静岡県にあるプレスクール「虹の架け橋教室」で、母語を活用したオンラインの学習支援を開始し、日本語教育と算数個別支援を行っています。
「数字の書き方や計算方法が国によって違うため、小学校では算数に苦戦する子が多いんです。そういった課題から、算数に焦点を当てたサポートを行っています」と、三輪さん。

オンライン授業はe-Education卒業生である現地の大学生が一対一 (いったいいち) で行うため、子どもたちは母語で算数の授業を受けることができます。「指計算や棒計算(線を引く計算方法)を使って計算間違いをしていた子どもたちも、ひと月経たないうちに筆算での計算ができるようになりました。母語で会話ができるため、子どもたちの心の拠り所にもなっているようで、嬉しいです」と、三輪さん。

教育を通じて、世界とつながる機会を

e-Educationへの想いを熱く語る三輪さん。

現在、e-Educationでは日本全国の海外ルーツの子どもたちの学びをサポートするため、リソースの少ない自治体でも支援が提供できるよう、調整を進めているそうです。取り出し授業の時間を活用し、海外ルーツの子どもたちがオンラインでe-Educationの学習支援を受けられる仕組みだといいます。
「このモデルなら、予算の関係で支援員を配置する余裕のない自治体でも、端末さえあれば低予算で学習支援を提供できます。外国人の居住者が少なく、支援が足りない散在地域などにもサポートを届けられるはずです」と、三輪さん。少しずつ自治体からの問い合わせも増えており、e-Educationの学習支援の輪は日本国内でも広まりつつあります。

三輪さんは今後の目標に「国際協力の逆転」というキーワードを掲げています。「もともと支援していた教え子たちが、今は日本の教育課題の解決に大きく貢献してくれています。 国際協力の活動を続けてきて思うのは、途上国と呼ばれる国の人々のパワーの凄まじさです。日本では、“やりたいことがない”という若者が多くいます。そういう子たちが彼らのパワーに触れることで、僕自身がそうだったように、人生が変わるきっかけになるんじゃないかと思うんです。教育を通じて、世界とつながる機会を作っていけたらいいですね」と、三輪さんは話します。

e-Educationのロゴは、日本で大学受験合格の象徴である「桜」が、5大陸を意味する5色の花びらで表現されています。「最高の教育を世界の果てまで」。e-Educationの教育課題への挑戦は続いていきます。

 

*本記事は取材時点での情報をもとに作成しています。最新の情報については、団体へ直接お問い合わせください。