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公益財団法人 パスウェイズ・ジャパン ~難民・避難民の若者たちの未来への道筋を市民の力で支える~

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公益財団法人 パスウェイズ・ジャパン 代表理事の折居徳正さん

2021年の設立以降、200名以上の難民・避難民を支援してきた公益財団法人パスウェイズ・ジャパン。戦争や人権侵害を理由に故郷を追われ難民・避難民となった若者たちを受け入れ、日本語教育や進学・就職支援を提供しています。若者たち一人ひとりの未来への道筋を作っていけるよう尽力する、パスウェイズ・ジャパン代表理事の折居徳正さんにお話を伺いました。

 

難民認定率の低い日本で、市民社会主導による貢献の形を模索

全国にある日本語学校や大学と連携し、日本語教育と生活基盤づくりの支援を行っています。
写真提供:パスウェイズ・ジャパン

「パスウェイズ・ジャパン」はシリア内戦激化によって何百万人もの人々が難民となった2015年の難民危機をきっかけに、NPO法人 難民支援協会のプロジェクトとして始まりました。
「各国が難民をどう受け入れるかと議論している中、日本は難民認定数が年間二桁程度と、最も低い時代でした。市民社会主導で何か貢献できないかと模索する中で、政府と協力しながら民間主導で多くの難民を受け入れる、カナダのプライベート・スポンサーシップという難民受け入れプログラムが参考になると考えました。この日本版を作るため、現地に難民支援協会からスタッフを派遣し、受け入れについて学びました」と、話すのは代表理事の折居さん。
折居さん自身はアメリカ同時多発テロ事件が発生した翌年 (よくとし) からアフガニスタンの難民支援に携わり、その後もイラク・ミャンマー・パレスチナ等で難民支援を行ってきたといいます。
「難民は世界で解決しなければいけない課題です。日本は難民の受入れ人数が他の先進国と比べてまだまだ少なく、日本社会がもっと貢献できる分野でもあると思います」。

パスウェイズという言葉は、2015~2017年頃に各国で進んだ民間主導による難民受け入れプログラムを、国連が定型化する際に用いられた表現だといいます。難民が日本に来る「道筋」を作ること、また戦争によって教育の機会を奪われた若者が未来に向かっていく「道筋」を作ることへの願いを込めて「パスウェイズ・ジャパン」という団体名がつけられました。

 

祖国を追われ難民・避難民となった若者たちが、日本で自らの未来を切り拓くチャンスを

2025年3月に来日したアフガニスタンの学生。母国では教育を受けることができず、日本で高等教育を受けることを希望する女性が増えています。
写真提供:パスウェイズ・ジャパン

パスウェイズ・ジャパンでは祖国を追われて難民・避難民となった若者たちが日本で自らの未来を切り拓いていけるよう、日本語教育機会の提供と、大学進学や就職のサポートなどを行っています。団体として受け入れた難民・避難民は来日前にオンラインで日本語教育を受け、来日後はオリエンテーションを経て、アルバイトで生計を立てながら日本語学校に通い、大学進学や就職を目指します。毎年シリア・アフガニスタン・ウクライナからの難民・避難民を20名程度、2022年はウクライナ避難民を約100名受け入れました。プログラムで受け入れる難民・避難民は17〜33歳までの年齢層で、男女比については、シリアは男性が多め、アフガニスタン・ウクライナは女性が多めと、国によって状況が異なります。
「シリアでは、女性だけで国外の大学に行かせようと考える家庭が比較的少ない一方、アフガニスタンでは、女性の教育と就労が禁止され、何とか教育を続けるために来日を希望する若者が増えています。ウクライナでは、戦時下で男性の出国が難しい現状が影響しています」と、折居さん。

 

来日前に大学で日本語を学んでいた (かた) や、日本のアニメや文学が好きで、YouTubeやアプリで日本語を勉強していたという (かたも多いそうです。
「アニメをきっかけに日本に関心を持った人は多いです。また、ライトノベルやJ-POP、太宰治・芥川龍之介・村上春樹などの純文学といった、幅広い日本文化に関心を持っている人がいます」と、折居さん。

受け入れた若者たちが、日本で自立できるまでの伴走支援

受け入れた学生たちが集まる「学生リユニオン・デイ」。出身国を超えて、先輩から後輩に経験を共有したり、疑問や悩みを相談し合ったりと、情報交換の場になっています。
写真提供:パスウェイズ・ジャパン

 

「私たちは受け入れて終わりではなく、彼らが就職し、経済的に自立するまで伴走するのが責任だと考えます。一人ひとりに寄り添ってサポートしていくことを心がけています」と、折居さん。難民・避難民となった若者たちは、壮絶な経験を経て来日しています。そのため、メンタルヘルスのサポートも重要です。特に周囲と関係性を上手く築けないと、孤立し、メンタルを崩しやすいのだそうです。パスウェイズ・ジャパンでは日本に受け入れた学生が孤立しないよう、学生や卒業生のコミュニティの構築や、地域コミュニティとつながる機会の提供、日本語学校・大学、医療団体や地域の心療内科との連携などを積極的に行っています。
来日後に行うオリエンテーションでは卒業生が講師を務め、日本の生活における時間管理の重要性や、お金のやりくりの仕方、アルバイトの面接練習など、実践的にサポートします。卒業生のリアルな体験談が語られるだけでなく、同じ難民・避難民という背景を持つ若者が繋がるきっかけにもなっています。

 

アルバイトは工場作業や飲食店の洗い場、ベッドメイクなどから始まり、日本語の習熟度に合わせてコンビニやホテルのフロントといった日本語でのコミュニケーションが求められる職種にステップアップしていきます。「アルバイトの経験は生活費を稼げるというだけでなく、日本語でコミュニケーションが取れるという自信にも繋がります。また、面接で自分について話すこと、時間を守ることなど、就職にも必要なスキルを学ぶことができます」と、折居さん。

難民・避難民となる困難な経験を乗り越え、学び続けようとする若者を支える奨学金

奨学金の授与式の様子。各奨学生がこれまでの経験と今後の抱負をスピーチしました。
写真提供:パスウェイズ・ジャパン

パスウェイズ・ジャパンでは難民・避難民の背景をもつ若者の高等教育への進学を支援する奨学金の提供も行っています。自身が奨学金で米国に留学し、ビジネスに成功した経験を持つという渡邉利三さんの寄付によって設立された「渡邉利三国際奨学金」では、年間15〜20名程の難民・避難民の背景を持つ若者に、学費と生活費を支援する返済不要の奨学金が贈られます。選ばれた奨学生は希望する専門分野の短大・大学学部・大学院を自身で選択し、進学します。

近年急増する難民・避難民の背景をもつ人々の高等教育への進学率は、全世界で7%(2023年現在)と、一般の若者に比べて著しく低くなっています。この奨学金を通して、これまで日本で奨学金応募の機会が限られていた若者たちが、難民・避難民となる困難な経験を乗り越えて学び続ける機会を得られています。
「奨学生には、学問のための学問ではなく、学んだり研究したりしたことがキャリアにどう結びついていくのか、将来どのように社会に貢献していくのか、考えて進学してほしいと思っています」。

 

若者たちの未来への道筋が閉ざされず、未来への道筋が広がり続けるように

難民・避難民の学生向け就活セミナーなど、企業と学生がお互いを知るためのイベントを実施しています。
写真提供:パスウェイズ・ジャパン

 

難民・避難民の背景を持つ学生の就職先はIT企業を中心に、メディア関連や翻訳、人事など多岐にわたりますが、就職活動の際に課題となるのが、日本特有の就活文化です。
「日本では大学3年生から就職活動が始まりますが、日本の就職システムは外国出身の学生たちにとっては複雑です。予め説明していても早くから就職活動を行う必要性を感じられない人もいますし、『もしかしたら国に帰れるかもしれない』という思いもある中で、将来を決める難しさはあると思います」、と折居さん。
団体では難民・避難民の学生向けの就活セミナーや企業と学生がお互いに知り合うための交流会などの機会を設けています。
「採用の際、学生に日本語能力試験(JLPT)のN1~N2取得を採用要件とする企業が多いですが、N1~N2を取得していなくても、日本語を流暢に話せる学生は多いです。逆にN1~N2を持っていても、会話を苦手とする学生もいます。日本語力をどう測るか、という点について企業側の理解を促していく必要があるなと感じます。交流会などを通じて実際に学生に会って話してもらう中で、学生たちのスキルや経験などを知ってもらえたらいいなと思います」。

団体が発足して4年、これからの活動について折居さんは次のように話します。
「活動を続けてきて、受け入れ学生やプログラムの卒業生も増え、コミュニティとしてできることも増えてきていると思います。彼らの力も活かしてより良いプログラムにしていきたいですし、今受入れの対象となっていない国の方々 (かたがた) に向けても機会を広げられないか模索していけたらと思っています」。
パスウェイズ・ジャパンが支える、さまざまな可能性をもつ若者たちの未来への道筋は広がり続けています。