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日越ともいき支援会 ~ベトナム人の若者が「働き続けたい」と思える“ともいき”社会にするために~

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日越ともいき支援会 代表の吉水慈豊 (よしみずじほう) さん

日本で働くベトナム人の命と人権を守るため、さまざまな活動を展開するNPO法人「日越ともいき支援会」。ベトナムの若者が失踪したり命を落としたりすることなく、働き続けたいと思える共生社会を日本で実現するべく、精力的に活動する団体の代表 吉水慈豊 (よしみずじほう) さんにお話を伺いました。

 

日本に暮らすベトナム人の命と人権を守りたい

吉水さんのお父さんとベトナム人僧侶の皆さん。
日本に来ていたベトナム人僧侶に、母国の惨状を見に来てほしいと頼まれて渡越 (とえつ) したのがベトナム人支援のきっかけだったそうです。
写真提供:日越ともいき支援会

代表の吉水 (よしみず) さんがベトナム人の支援に携わるようになったのは、僧侶のお父さまの影響があったといいます。「父はベトナム戦争中の1965年頃から、優秀なベトナム人僧侶を国外に避難させるため、身元保証人となって日本に呼び寄せ、お寺で生活支援を行っていたんです」。
2011年に東日本大震災が発生した際は、ベトナム大使館からの依頼により、震災で住む場所を失ったベトナム人たちを保護し、1ヶ月間生活支援を行いました。そこから、僧侶だけでなく、日本に暮らすすべてのベトナム人に向けた支援へと拡大することとなったそうです。

「コロナ禍の2~3年前くらいから、日本に住むベトナム人、特に技能実習制度で来日した若者が過酷な労働環境や生活困難に直面し、自ら命を絶ってしまうことが増えました。ある実習生は、『職場でいじめられて、どこに相談をしていいか分からなかった。夢と希望を持って(日本に)来たのに、家族に何もしてあげられなかった』と遺書を残していました。日本で暮らすベトナム人の命と人権を守るため、このままではいけない、私たち日本人がなんとかしなければいけないと思いました」。
幅広い活動を展開していくため、吉水さんは2014年にNPO法人「日越ともいき支援会」を立ち上げました。「日越ともいき支援会」という名前には、浄土宗の教えである「共生 (ともいき) 」の精神が反映されており、ベトナム人と日本人で構成された専従社員6名、青年部14名にて活動しています。

 

「あなたたちを守ろうとしている日本人がいる」ということを日本に暮らすベトナム人にまず知ってほしい

ボランティアで日本語教室を行っています。コロナ禍にはJICAも協力し、毎日3時間の講座を朝・昼・晩の3クールで実施。最短2ヶ月で日本語能力試験N4レベルの取得を支援しました。
写真提供:日越ともいき支援会

団体では、日本に暮らすベトナム人が生きていくために必要なサポートを届ける「生活支援事業」と、日本の人々や企業・行政にベトナムの文化やベトナム人の声を届ける「普及啓発事業」を行っています。生活支援事業の中では生活に必要な情報や物資の提供とともに、有志企業や管理団体などと連携した就労先確保や出国支援、日本語学習支援など多様なサポートを展開します。
「技能実習生として来る若者たちの中でも、日本語レベルがあまり高くない人ほどトラブルに巻き込まれやすくなります。例えば、ベトナム語では“退職をする”と“休む”という意味の単語が同じであるため、“休みたい”と管理団体に伝えたつもりが“退職したい”と誤訳され、解雇や強制帰国に追い込まれてしまうことがあります」と、吉水さん。「明日空港に連れて行かれてしまうから助けてほしい」と連絡を受け、緊急支援を行うことも多いそうです。

さらに、コロナ禍発生後は職やお金、住む場所を失った若者が急増したことから、団体としてお寺で彼らを保護し、生活支援を行いながら、再就職に向けて日本語教室と技能試験講座を実施しました。
「仕事を失って失踪したけれども、私たちの団体のことを聞いて連絡をくれ、支援を受けながら再就職先を見つけた子もたくさんいます。日本で困っているベトナム人に、あなたたちを守ろうとしている日本人がいるよ、ということをまずは知ってほしいですね」と、吉水さんは話します。

ベトナム人の若者たちが決めた進路のために、共に戦い、支えたい

技能実習中にトラブルに巻き込まれて解雇となり、
新たな受け入れ企業を見つけて再び実習に戻ることができた実習生。
日越ともいき支援会の働きかけと、外国人技能実習機構の尽力によって再出発先が見つかりました。
写真提供:日越ともいき支援会

 

「ベトナム人の若者たちをサポートしていると、様々なケースがありますが、再就職を目指すのか、帰国するのかなど、最終的にどうしたいのかは選択肢を示した上で本人に決めてもらっています。彼らの選択に応じて、必要があれば一緒に戦うし、彼らが生活していけるように支えます」と話す、吉水さん。
関係機関との交渉や調整、行政に向けた政策提言、ベトナム人の若者を取り巻く労働環境課題の発信など、団体として日本に住むベトナム人の権利を守るため、さまざまな形でサポートを行います。不当解雇や残業代の未払いを行う企業に対しては労働環境改善のための助言や指導をし、改善しない場合にはユニオン(労働組合)を通じて交渉を行ったりしています。
「私たちの元には年間1万5千件以上の相談が寄せられます。その6割が技能実習、2割が特定技能に関する相談です。対応した数だけ支援のノウハウが増えていきます。これまでの知識や経験を活かして、1件1件誠実に対応します。もちろん () い企業がほとんどですが、1割から2割、不当な対応をする企業があります。そういった企業に対しては毅然と振る舞い、若者が犠牲にならないように力を尽くします」と、吉水さん。

時代に合った支援で、しっかり情報を届ける

2025年には豊島区と協力し、ベトナム人を対象とした「住民登録の流れ」について解説するショート動画を制作し多くの反響がありました。
写真提供:日越ともいき支援会

団体では困っているベトナム人に一人でも多く繋がり、必要な情報を届けるため、積極的に広報・啓発活動を行っています。「どんなに () い支援をしていても、ベトナム人の若者たちと繋がっていなければ意味がありません。Facebookアカウント開設後はまずベトナム人僧侶やベトナム大使館の方との写真にタグ付けしてもらい、団体を信用してもらった上でフォロワーを増やして“日本にはベトナム人を支援する日本人がいる”ということを周知しました」と、吉水さん。

 

さらにTikTokアカウントでは、50 (ぽん) 以上の動画をアップしています。動画の内容は住民登録の流れから新幹線のチケットの買い方、救急車の呼び方、日本の生活に便利なアプリなど様々です。団体のベトナム人スタッフが実際に日本で困ったことや、支援をする中で大切だと感じたことをまとめ、動画を制作しています。反響が大きくアカウントのフォロワーは5万人に増え、50万回再生を超える動画もあります。
「若者たちは紙で制作したチラシをなかなか見ません。ベトナム人にとってTikTokはさまざまな情報を収集する重要なSNSツールですから、そこで発信するべきだと思いました。時代に合った支援をしていく必要があると感じています」。

 

日本に来た外国人が「働き続きたい」と思える労働環境をつくる

ベトナム人の若者に対する熱い思いを語る吉水 (よしみずさん。
技能実習生の現実を赤裸々に綴った著書『妊娠したら さようなら』も発売しています。
写真提供:日越ともいき支援会

 

また、団体では2ヶ月に1度ベトナムを訪れ、日本から帰国した元技能実習生や留学生の様子を聞いたり、これから日本に来る予定のベトナム人に向けて日本の生活に関する情報提供を行ったりしています。吉水さんは、これまで支援をしたベトナム人たちから「ママ」「先生」と慕われており、ベトナムを訪れると皆さんが空港まで迎えに来るそうです。
「彼らは私のことを日本の母親のように思ってくれているようで、子どもが増えた感じがしています。ママありがとう、と言われるとやはり嬉しいです」と、吉水さん。

 

吉水さんたちは、これまで支援現場で得たベトナム人の若者の声や、現状の制度の課題などを行政や各方面に届けるなど、制度や体制の改善のために働きかけています。そうした働きかけによって、新たな救済措置の運用に繋がったケースもあったといいます。
「少しずつ制度に改善は見られるものの、まだ不十分な点もあります。失踪を選択してしまう外国人がいるということは、困っている人が支援に繋がれていないということですよね。それが課題だと感じます。外国人技能実習機構がプラットフォームを作るなどして、今後さらに機構と支援団体が連携していく必要があると思います」と、吉水さん。
ベトナム人の若者が「働き続けたい」、そして「働いてよかった」と思える日本、そしてともにいきる社会にしていくため、日越ともいき支援会は活動を続けます。

 

*本記事は取材時点での情報をもとに作成しています。最新の情報については、団体へ直接お問い合わせください。