クローズアップ
NPO法人 日本ミャンマー・カルチャーセンター(JMCC) ~大好きなミャンマーのために、人々に寄り添い、日本とミャンマーの架け橋になる~

ミャンマー人のマヘーマーさんが所長を務め、ミャンマー人主宰のNPO法人として在日ミャンマー人の心の拠り所となっているNPO法人 日本ミャンマー・カルチャーセンター(JMCC)。
高田馬場に拠点を置きながら、日本全国、そしてミャンマーからも相談が相次ぐJMCCの活動について、所長のマヘーマーさん、理事長の落合清司さんにお話を伺いました。
※2025年3月19日の取材をもとに作成した記事となります。
ミャンマーの僧院での経験を原点に、NPO法人を創設

ミャンマー人が故郷を思い出し、ホッとできる場所となっています。
2002年に創設し、2005年からNPO法人として運営されている日本ミャンマー・カルチャーセンター(JMCC)は、ミャンマー人のマヘーマーさんが所長を務め、日本に住むミャンマー人から厚い信頼を寄せられています。「日本とミャンマーの架け橋になりたい」というマヘーマーさんの願いから始めた団体の活動は、日本人に向けたミャンマー語教室や文化の紹介から、在日ミャンマー人に対する生活支援や日本語教室、そしてミャンマー本国への支援活動と多岐にわたります。
マヘーマーさんは学生時代に出身地であるミャンマーのメイッティーラー市の僧院で、寺子屋教室で英語と日本語を教える僧侶ウ・ダマタラ師の一番弟子として師範代を務め、ミャンマーの子どもたちに日本語を教えていました。
「ウ・ダマタラさんはお坊さんでありながら、仏教徒以外の人も受け入れ、英語や日本語を教えていました。外国人旅行者も多く訪れ、ミャンマー文化の素晴らしさを伝えられることは大きな喜びとなりました。色々な人に開かれた場所を作るというのは、JMCCが目指す理想像です」と、マヘーマーさん。
理事長の落合清司さんは、ミャンマー文化の研究に勤しむほど、ミャンマーという国に魅了された一人です。マヘーマーさんとは公私ともにパートナーであり、団体の発足当初から活動を支えてきました。2018年からはJMCCの専従となり、日本語教室を担当しています。元教師で、憧れの恩師が「実際に世界のことを知らないのに世界史を教えられない」と世界一周旅行に出かけた姿を見て、自身も様々な国を訪れるようになりました。そうした中で最も心惹かれた国がミャンマーだったそうです。
「1990年当時、ミャンマーは最貧国であったにも関わらず貧しさをまったく感じませんでした。街に物乞いをする人もいないですし、外国人である私に対しても親切で、人々から誇り高さを感じました。カルチャーショックを受けました」。
ミャンマーの文化を伝えるミャンマー語教室

写真提供:JMCC
JMCCがミャンマーの魅力を伝えるため、活動開始当初から続けているのがミャンマー語教室や文化の紹介イベントです。
ミャンマーの僧院でも日本語を教えたマヘーマーさんが開催するミャンマー語(ビルマ語)教室には、落合さんのようにミャンマーに魅了された人や、文化に興味がある人、いつか旅行に行きたい人のほかに、ミャンマー文化の研究家、政府・外務省関連、作家、仏教を勉強している人など様々な人が参加しています。
文化については、料理教室や、竪琴教室、伝統舞踊教室、民族衣装を着るイベントなどミャンマー文化に触れられる多彩な機会をこれまで提供してきました。「料理教室は長く続けています。ミャンマー語教室でも、言語だけでなく文化を伝えることを心がけています」と、マヘーマーさん。
コロナ禍には現地とZoomで繋いだ文化紹介イベントの中で、オンライン旅行を実施し、多くの旅行会社などが参考にするべく団体を訪れたと言います。「ブームになると、多くの人が類似の活動をしますが、一定時期を過ぎると少なくなってしまいます。私たちは淡々と、どんなに小規模になっても長く続けることが目標です」と、落合さんは話します。
ミャンマー人がミャンマー人の価値観で運営するからこそ、語られる本音

写真提供:JMCC
JMCCはミャンマー人が主催し、ミャンマー人の価値観で運営している団体のため、日本に住む多くのミャンマー人にとって心の支えになっています。マヘーマーさんの元には全国の在日ミャンマー人から相談が寄せられます。文化や価値観の違いから、日本での生活に戸惑う人は多いといいます。
「ミャンマーでは親やお手伝いさんが子どもの身の回りの世話をするのが当たり前なので、日本でもそのまま子どもの荷物をお母さんが持って登校したらなかなか友達ができなくて、仲間はずれにされてしまったという相談も過去にありました。就労ビザで来た人も職場や寮生活で発生したトラブルを、周囲の人にはなかなか相談できないでいるようです。口コミで私のことを聞いて、メッセンジャーや電話で連絡がきます。日本人の前ではなかなか話せない不満や不安など、さまざまな思いを打ち明けてくれます」と、マヘーマーさん。毎日多くの人の相談に親身になって答えます。
毎週日曜日には子どもたちのための子ども会を開催しています。ミャンマールーツの子どもたちに向けてミャンマー語を学んだり、ミャンマー文化や日本文化に触れたりする機会を提供することで、アイデンティティの育成や日本社会への適応を支援します。日本人の子どもたちも参加できることから、子どもたちの国際交流の場にもなっているそうです。また、親御さんに対しては学校からのプリントを翻訳するなど、相談にも乗っています。
「ワーダナー」をキーワードに前向きに助け合うミャンマーの人々

支援は2021年から継続的に行われています。
JMCCでは2003年にハンセン病治療所や孤児院、僧院への支援を始め、毎年ミャンマーへの現地支援を行っています。国際的な援助が行き届かないような少数民族の暮らす地域にも入って行き、細やかな支援を行ってきました。オンラインでいくらコミュニケーションを取っていても、現地に行くとそこでしか聞けない話があると言います。
「お金儲けのためにやっている活動ではないからこそ、他ができないような、本当に必要とされていることをしたいんです。小規模な団体だからこそ柔軟に、痒い所に手が届くような活動をしていけたらと思っています」と、マヘーマーさん。
こうした現地での支援活動や日本での活動は日本に住む多くのミャンマー人の手によって支えられています。2008年に発生したサイクロン・ナルギスによる大規模災害が発生した際は、在日ミャンマー人からJMCCに200万円もの寄付が集まったそうです。
寄付する人の割合や意識の高さについて測る世界寄付指数(World Giving Index)で日本は2021年に最下位、2024年は下から2番目と寄付が浸透していない一方で、ミャンマーは何度も1位になるほど寄付や助け合いが当たり前だそうです。日本の災害時にも、ミャンマー人はいつもいち早く寄付をしてくれるといいます。「ミャンマー人にとって、生きることと寄付をすることはセットです。少しでも余裕があれば寄付をします。ミャンマー語でワーダナーという言葉があります。直訳すると趣味と訳されますが、意味合いで言うと天職、ライフワークの方が近いかもしれません。楽しくて、自分の存在意義に繋がるから、寄付をされているんです」と、落合さん。
本国での情勢悪化により、参加者が殺到する日本語教室

写真提供:JMCC
JMCCが今一番力を入れているのは、ミャンマー人に向けた日本語教室です。ミャンマーは国軍のクーデター以降、情勢が悪化しており、在日ミャンマー人はクーデター以前の3万5000人から11万人と加速度的に増加しています。さらに2024年からは徴兵制も始まり出国制限もある中で、特定技能や技人国、留学などで来日を目指す人が多いのだそうです。
「本国ではエリートとされるような優秀な人たちがやむなく日本に来て、働きながら夜間に英語や日本語を勉強しています。向上心に溢れるミャンマーの方々を見ていると頭が下がりますし、パワーをもらっています」と、落合さん。
日本語教室では在日ミャンマー人はもちろん、本国からのオンライン参加もあり、毎月100人前後が受講しています。もともと日本語教室は、2002年から日本人のボランティアの先生たちと共に日曜日に活動をはじめ、20年以上にわたり活動を続けています。落合さんは5年ほど前から教え始めて、いまでは90分の授業を週に17コマ行っているといいます。
ミャンマーについて、「もっと日本の人たちに知ってほしい」と話すマヘーマーさんと落合さん。
「世界では様々な国が大変な状況ですが、ミャンマーのことも忘れないでほしい。直接何かできなくても、ミャンマーに関心を持つことが、彼らを元気づけ、勇気づけることに繋がると思います。今は大変な状況が続いていますが、豊かな文化と自然があり、素晴らしい国です。状況が落ち着いたら、ぜひ一度足を運んでみてほしいです」と落合さんは語ります。
20年以上、ミャンマーと日本の架け橋となり、唯一無二の存在感を放ち続けているJMCC。
その根底にはマヘーマーさんと落合さんの「楽しみながら助け合いたい」という深い愛情があります。
ミャンマー大地震 被災者支援について
2025年3月28日、ミャンマーでマグニチュード7.7の大地震が発生しました。
JMCCでは、現地の信用できる提携団体を通じて直接支援を行っています。ご協力をお願いいたします。詳しい情報は下記リンクよりご覧ください。
https://jmcc.jp/shien/jisin2025/
*本記事は取材時点での情報をもとに作成しています。最新の情報については、団体へ直接お問い合わせください。