クローズアップ

つながろう会 Multicultural Japan ~外国にルーツを持つ当事者視点を活かしたチームワークで、人と想いをつなげる~

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NPO団体 つながろう会の力石 (ちからいし) マルシアさん

2022年に活動を始めたNPO「つながろう会 Multicultural Japan」。八王子を拠点に、性別・年齢・国籍や障がいの有無を関係なく、人それぞれの違いを受け入れ、認め合い、互いを支え合うインクルーシブな社会を目指して活動しています。設立者で代表の力石 (ちからいし) マルシアさんにお話を伺いました。

 

阪神大震災の経験から日本でのボランティア活動を開始

つながろう会の設立経緯と活動について語る力石 (ちからいし) マルシアさん。
八王子市市民活動支援センターで働きながら、団体の運営をしています。

ブラジル出身で日系二世の力石 (ちからいし) マルシアさんは、神戸大学大学院進学のために1994年に来日。翌年に阪神淡路大震災が起こり、外国人たちの混乱を目の当たりにしました。水道・ガスが止まり、電気しかない中で、ボランティア活動に参加したり、日本語のニュースを翻訳したりしたマルシアさん。震災のボランティアで感じたのは、支援があっても、言語の壁によって必要としている人にその情報が届かないということ。震災をきっかけに日本でのボランティア活動をスタートしました。

 

活動している中で、『困っている外国人を助けたい』という思いがあるのに、支援する団体と外国人との間に時々ズレが生じることがあると気付いたそうです。
「支援する側とされる側という役割が固定してしまい、先入観や勘違いで、提供されるサポートと外国人のニーズにズレが発生し、もったいないと感じました。お互いのことを理解できるため、当事者目線も活用し活動することで、色々な思いを繋げられるのではないかと考え、団体を設立しました」と、マルシアさん。
現在はブラジル、グアテマラ、ドイツ、インドネシア、中国、日本など、様々なルーツを持つ30代から80代まで幅広い年齢の人々が活動に参加しています。

 

必要な人に届けるため、Facebookで多言語で情報を発信

八王子市の「ごみカレンダーアプリ」について、やさしい日本語、英語、スペイン語、ポルトガル語で発信しているポスト

「つながろう会」という団体名は、「つながろうかい?」という優しい呼びかけが含まれています。日本語が分からない人にも「ここは話を聞いてくれるかも」と思ってもらえるよう、「Multicultural Japan」という名称を追加しました。
団体では外国人をサポートするため、Facebookを中心に多言語で情報を配信しています。住居地の届出や在留手続き、外国語人権相談ダイヤルなど、在住外国人に必要な情報をやさしい日本語・英語・スペイン語・ポルトガル語、できる時には他の言語にも翻訳して発信しています。

 

Facebookを見た人や、人づてにつながろう会のことを知った多くの人から、さまざまな相談の電話が寄せられています。
「2024年度は260件以上の相談がきました。貧困、育児、孤独・孤立、差別・人権相談は外国人だけではなく、日本人からもきます」と、マルシアさん。これまでにボランティア活動で繋がったネットワークを活用し、公的機関、他団体や施設を紹介しています。
「自分たちが対応できないとき、安心して任せられる団体等に繋いでいきたい。寄せられる相談や課題も単純ではなく複雑化していると感じるので、ネットワークがものすごく重要です」と、マルシアさん。

 

お互いの文化を知り合う国際交流イベント

エクアドル出身で着物着付けの資格を持つ (かた) が先生を務めました。
日本、グアテマラ、アメリカ、中国、インドネシア、ブラジル出身の参加者が、手打ちうどんや野菜の天ぷらを作りました。

「つながろう会」では、外国人をはじめ、誰もが地域社会に入っていきやすくなるよう、様々な団体とコラボして国際交流イベントを行っています。これまで八王子産の野菜を使ったブラジル料理の料理教室をしたり、子ども食堂や障がい者施設で国際交流をしたりしました。活動をしていく中でメンバーたちは、外国の文化を紹介するだけでなく、外国人に日本の文化を知ってもらうことも重要だと気付きました。
「お互いの文化を知ることで見え方が少し変わるし、それぞれが持っている壁を取り払うことができます」と、マルシアさん。

 

日本文化や料理を楽しく学ぶイベントの参加者には、意外にも日本人から「私も参加していいですか」と問い合わせが多く、日本を含めた多国籍の人々が参加しています。「最初は外国人だけが来るのかなと思っていたら、日本人の方もたくさん来てびっくりしました。今では、リピーターの (かた) もたくさんいます。国籍や年齢は関係なく、どんな人が来ても楽しめる、インクルーシブなイベントになるよう心がけています。イベントを通して色々な人と出会い、自然とつながることで、お互いの違いを受け入れ、認め合うきっかけづくりができたらいいですよね」と、マルシアさんは話します。

多様な人たちが気軽に参加できる場づくり

手遊び (うた) 「幸せなら手を叩こう」を日本語とポルトガル語版で歌ったり、多言語で絵本を読んだりします。

「つながろう会」は月に一回、「親子つどいの広場東町 くりちゃん広場」で、0歳から3歳までの子どもと親に向けた「世界とつながろうかい?!」を実施しています。外国語の挨拶や多言語での絵本の読み聞かせ、ブラジルの楽器体験、お絵かきや外国の手遊び (うた) の紹介などを行っています。遊んだ (あと) は、子育てについて気軽にトークができます。「ママたちが多様な人たちとおしゃべりすることで、一人で悩まず、楽に楽しく子育てできたら嬉しい」と、マルシアさん。

さらに「ゆるい交流会」では、子育てや教育について話す場と、国際交流会を行っています。外国語おしゃべり会は500円の参加費で、英語、スペイン語やポルトガル語などを体験できます。外国にルーツのある (かた) に加え、日本人の海外駐在経験のある (かた) や、学生、子育て中の (かた) などが参加します。外国にルーツのある (かた) からは「日本語グループを作ってほしい」という要望もあり、今後の開催内容を現在検討しています。

 

互いを理解し合い、ポジティブな社会を作りたい

舘ヶ丘 (たてがおか) 団地秋祭りでは、拓殖大学の留学生と一緒に企画しました。
イベントではブラジル楽器・サンバと中国のうちわづくりをみんなで体験しました。

団体として、インクルーシブな社会の実現のため、「サポート」、「啓発」と「交流」という三本の柱でさまざまな活動を展開していますが、活動はすべてボランティアの力によって運営されています。もともとは少人数でスタートした団体でしたが、少しずつその輪は広がり、現在は20名を超えるメンバーが活動に携わっています。今後の活動については、メンバー同士で意見を出し合いながら考えています。
「ボランティア活動なので、できる人たちが、できる時にできることをしたらいいと思います。私たちと同じ想いと考えを持ついろいろな (かた) が活動に参加してくれることで、社会は少しずつ変わっていくのではないかと思います。メンバーが活動でやりがいを感じ、一緒に活動し続けていただけたら嬉しいです」。


マルシアさんは、これからの活動について次のように話します。
「私自身、文化の違いに悩み、差別を受け、辛い思いをした経験があります。日本には独特のコミュニケーションがあって、空気を読むのは難しいです。お互いを理解し合う機会を作ることで、インクルーシブでポジティブな社会に近づけると思います。毎年、少しずつでも繋がりを広げていきたいですね」。

つながろう会の温かくポジティブなパワーは、多様な人を巻き込みながら、八王子を超え、どんどん広がっていっています。

*本記事は取材時点での情報をもとに作成しています。最新の情報については、団体へ直接お問い合わせください。