クローズアップ
多文化クラブDANRO ~DANROから広がる、町田のあたたかい多文化共生の空気~

町田市で外国にルーツを持つ方を含めた現役ママパパたちが集い、つながり、地域で一緒に子育てを楽しむ多文化クラブ DANRO。メンバーそれぞれの持つ文化や力を生かしてさまざまな活動を展開しています。町田での多文化共生の輪を広げながら、「町田に住んでよかったな」とみんなが思える、思いやりあるあたたかなコミュニティを目指しているといいます。ママやパパたちがパワフルに活動するDANROについて、西田真美さん、小杉ルーシーさん、大貫優さんにお話を伺いました。
DANRO活動のきっかけは、ルーシーさんの言葉

写真提供:多文化クラブDANRO
町田市で活動するDANROは、アメリカ・カナダ・イギリス・中国・オーストラリア・インドネシア・バングラデシュ・タイ・フィリピン・レソト王国など多様な国のルーツを持つ方々が参加しています。
DANROの活動は、代表の西田真美さんと、アフリカのレソト王国から日本に来たルーシーさんが抱いた1つの疑問から始まりました。子どもの年齢が近い二人は地域の子育てカフェで出会い、ママ友として交流しながら一緒に子育てを楽しんでいたそうです。
「ある日、ルーシーが言ったんです。『他の外国人のママやパパたちはどうやって育児をしているのだろう、日本の文化や言葉を一緒に学べるような友達がいたらいいのに』と。言われてみれば、その子育てカフェや子育て支援センターでも、外国人のママやパパを見かけていなくて、地域の子育てサービスを外国人のママやパパたちは活用できてるいのかな、という話になったんです」と、西田さん。
当時、町田地域には子育て中の外国人のママやパパたちが安心して参加できる場があまりなく、「ならば自分たちで何か活動をやってみよう」と話し合った二人は、同世代のママパパたちに声をかけ、2020年にDANROを立ち上げます。
「DANROという名前は、『だんろのまえで』という絵本から付けました。あたたかな暖炉の前に様々な動物たちが集まってお話をして、元気になって外に出ていく、というお話です。多様なルーツを持つ人たちが、楽しく安心をしてお話ができる場所を作りたいという思いが込められています」と、西田さん。
違いや文化の壁を越えて、ママやパパたちが一緒に子育てを楽しめる場

写真提供:多文化クラブDANRO
西田さんとルーシーさんはお友達や、幼稚園・公園などで見かけた外国人のママ達に声をかけ、徐々に活動の輪を広げてきました。「DANROにはママパパが多く参加しています。子育ての悩みに共感したり、幼稚園や学校のプリントを一緒に読んだりできるのは、子育て中という同じ立場のわたしたちが繋がれる強みだと思います」と、西田さん。
DANROの活動は主に、「親子クラブ」「日本語クラブ」「いっしょに活動する」の3つに分けられます。
親子クラブは月に1回、平日の昼に行われ、絵本の読み聞かせや歌、季節の行事などを楽しんだ後、みんなでご飯を食べます。長期休みには遠足に出かけることもあります。イースターやハロウィンのお祝いはもちろん、中国の春節など、様々な国の行事を知り、楽しむことができます。
DANRO第1回目の活動では、ルーシーさんが母国のレソト王国について紹介しました。2022年の夏休みには、レソト王国の大使館に訪問をしました。ルーシーさんが当時の大使と知り合いであったことから実現したイベントです。大使はゼリーを作って待っていてくれ、多くの子どもたちがレソト王国についての話を聞きました。日本人メンバーで笛 の奏者がいたため、レソト王国の国歌と唱歌の「故郷」を演奏し、大使館の皆さんからはお返しにレソト王国のダンスが披露されました。西田さんは「子どもを受け入れよう、みんなで一緒に育てていこうという、レソト王国の温かいお国柄を感じられました」と、振り返ります。
リラックスした環境で日本語を学べる日本語クラブ

写真提供:多文化クラブDANRO
日本語クラブは月に1回、週末に開催されています。開催場所は、大貫さんが働いている放課後等デイサービスなどを行う特定非営利活動法人レ・マーニの施設です。「おもちゃなども置いてあるので、大人も子どもも落ち着ける場所です。こういう活動は場所もとても大事だと思うので、皆さんが安心できる空間を利用できるのはありがたいです」と、西田さん。
日本語クラブは日本語教師をしているメンバーが参加していますが、教える側、教わる側という形ではなく、思いやりを持っておしゃべりを楽しみながら、日本語でのコミュニケーションを広げていくことを目指しています。「日本文化や日本の生活について話したり、絵本を読んだりして、リラックスして過ごしてもらえるように心がけています」と、大貫さん。
国によっては夫婦揃ってでなければこうした場に参加しにくかったり、一人では日本語の習熟度が心配だったりする人もいます。週末に開催することで、家族みんなで参加し、家族同士で仲良くなれる場になっています。
参加者の多くは口コミによってDANROの日本語クラブの存在を知ります。
「SNSでの発信や、スーパーにチラシを置くなどの広報もしていますが、こういった場所に初めて行く時は勇気がいると思います。友達と一緒に行ったり、勧められたりして参加してくださることが多いです」と、西田さんは言います。
DANROで仕事や家事以外の、自分の役割を見つける

写真提供:多文化クラブDANRO
代表の西田さんは2011年から2015年の4年間、夫の転勤のため、ニューヨークで子育てを経験しました。「地域に友達が欲しい、自分が持っているもので地域に関わりたい」という気持ちから、折り紙で作った栞を図書館に置く活動をスタートさせ、駐在のママたちに声をかけて、図書館や小学校、老人ホームで折り紙を伝えるボランティアに発展したといいます。
「自分の役割を持って地域で生活することで、友達ができて充実するし、安心して生活できることに気がつきました。それがDANROの活動の原点です。DANROに集まるママやパパたちの文化や力を生かして活躍できる場を一緒につくりたいし、もしみなさんに地域でやりたいことがあれば、DANROのみんなでお手伝いしたい」と、西田さんは話します。

写真提供:多文化クラブDANRO
そうした思いが、DANROの3つ目の活動「いっしょに活動する」にもつながっています。この活動で特に人気なのが、ルーシーさんの母国レソト王国の「シュエシュエ(Shwe Shwe)」という布を使った小物づくりのワークショップです。コットン100%の素材に幾何学模様がプリントされており、洋服やヘアアクセサリー、小物などを作ります。「民族 によって使用するカラーが異なります。私の民族はグリーンを使います」と、ルーシーさん。
鮮やかな色合いと個性的な柄は多くの人を惹きつけ、今では多くのママたちが手作りの作品を商店街のバザーに出したり、イベントで販売したりしています。
「ルーシーさんが話してくれた、国の話や布の話に他のママたちが感動したんです。そこからすぐに小物づくりが始まり、今では販売までできるようになっています。ルーシーさんと出会ったことで、他のママたちが新しい活動をスタートすることができました。布の魅力はもちろん、町田にルーシーさんがいて、ルーシーさんがシュエシュエを広めてくれる、教えてくれるというのが大事なことだと思います」と、西田さんは言います。
ルーシーさんも「忙しいママたちが、ハンドメイド商品を作るなど子育てや仕事以外に役割や楽しみを見つけることは、良いモチベーションになると思っています。DANROでそれを提供できているのが嬉しいし、折り紙などアフリカにはない日本の文化を知ることができるのも楽しいです。私自身も、他のママたちからモチベーションをもらっています」と話します。
「町田をいい街にしたい」同じ思いを持つ団体と手を携え、活動を広げたい

写真提供:多文化クラブDANRO
その他にもDANROでは、アメリカ人のママが企画した英語のコミュニケーションクラブや、町田市市民協働フェスティバル「まちカフェ!」出店など、日に日に活動を広げています。
「地域のイベントに参加するようになってから、他の団体とのつながりも増えてきました。地域活動は個々で動くと大きな力に繋がりにくいですが、良い街にしたいという同じ思いを持っている人たちと一緒に協力することで、活動が広がっていくのだと感じました」と、西田さん。
大貫さんは「以前、お友達の入学書類の手続きを手伝って、こういった手助けを必要としている方はたくさんいるだろうなと感じました。でもみんなが自分から繋がってきてくれるわけではないですし、私たちもなかなか多くの人を助けられる余裕もまだありません。DANROの活動が広がっていく中で、サポートする側の人数も増えて、日本の生活を楽しいと思える人が増える、そうなっていけるといいな、と思っています」と語ります。
西田さんは「日本ではまだまだ外国にルーツを持つ子の肌の色や髪型が珍しく感じられて、子どもたちがからかってしまうことがあります。でも私たちが外国に行ったら、自分が珍しい存在になることもあるでしょう。そういった“知らない”ことで、起こる問題が多いと思います。DANROの活動は今、外国にルーツを持つ親子を中心に広げていますが、日本人の子どもたちや地域の方々が、多文化の共生について知るイベントやプログラムを作っていくことで、少しずつ町田の多文化共生の形を一緒に考えていきたいです」と今後の展望を語りました。
DANROの生み出すあたたかい空気は、町田の人々をやさしく包み込んでいくでしょう。
*本記事は取材時点での情報をもとに作成しています。最新の情報については、団体へ直接お問い合わせください。