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NPO法人 CWS Japan ~共存から共生へ、災害時に支援が届かず孤立する「災害弱者」を生み出さない地域づくりを~

国内外で自然災害や貧困、紛争の影響を受ける人々の支援を行うCWS Japanの活動の1つに、多文化共生×防災事業があります。CWS Japanは2020年から事務所を置く新宿区で災害時の外国人支援に関する調査を行った上で、外国人相談会や日本語学校における防災ワークショップ、コミュニティ・カフェなどの開催を通して、「災害弱者」を生み出さない地域の関係づくりに力を入れてきました。
事業開始のきっかけには、災害緊急支援を行ってきた中での気づきがあったそうです。事業を担当する牧由希子さんにお話を伺いました。
声を出せず、「見えない存在」として支援の手から取り残されてしまう災害弱者たち

CWS Japanは「災害時に誰一人取り残されることがない社会」を目指し、これまで国内外さまざまな現場で災害対応や防災支援を行ってきました。過去の緊急災害支援を通して牧さんは、あることに気がついたそうです。
「通常、災害現場の社会福祉協議会(社協)に支援要請が集まり、各家庭などにボランティアが派遣されるんですが、災害に遭っているのは困窮者や外国人も同じはずなのに、そのような最も脆弱な世帯と出会えないことを疑問に思いました」。
多くの団体は行政や地元の社協と組んで支援活動を行いますが、行政に繋がっていない人たちや、自らSOSを出せない人たちが「見えない存在」として地域社会から孤立してしまっているのではないか、と仮説を立てた牧さん。現地の支援団体と協働し、ようやく外国籍の被災者や、精神障害をもつ被災者に出会うことができましたが、同時にその出来事が問題意識にもつながりました。
「災害があったことで、声を出せずに『見えない存在』となってしまっている人たちが災害弱者として浮かび上がってきました。そうした人たちは災害以前から、地域社会で孤立している社会的弱者なのではないかと思ったんです。そこで、わたしたちCWS Japanでは『見えない存在』として支援の手から取り残され、災害弱者になるおそれのある人たちに平時からフォーカスを当てるべきではないかと提案しました」と話す、牧さん。
災害弱者になりやすい外国人、その多くは避難所の場所すら知らない

🄫CWS Japan

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牧さんがフォーカスを当てるべきだと考えた、「見えない存在」として災害弱者になるおそれのある人たちの一例として、外国人が挙げられます。
CWS Japanが事務所を置く新宿区は国内でも特に外国人住民の多い地域とされていることもあり、足元の地域を見つめ直す形で、2020年度に新宿区を中心とした災害時外国人支援調査事業「誰一人取り残さないレジリエントな多文化共生コミュニティ新宿区をめざして」を実施。コロナ禍だったこともあり、オンラインで在住外国人にアンケートやインタビュー等を行いました。調査では回答した外国人の7割が防災グッズや水・食糧などの備えをしている一方で、8割近くの人が避難所の場所を知らないことが判明。また母国には地震がないために、日本の地震の特質やリスクを理解できていない人もいました。
これらの結果を基に、牧さんは日本語学校や地域日本語教室に出向いて防災ワークショップを開催。避難所と避難場所の違いや一時滞在施設について、また避難所の運営方法などを説明しました。
「調査でもそうだったんですが、多くの外国人が避難所の場所を知らない一方で、『どこに避難したい?』と聞くと、大半が『避難所』と答えるんですね。新宿区では避難所で登録カードを記入する必要がありますが、全て日本語です。また、自分が所属する町会名を書く欄がありますが、外国人の多くは町会が何か、そして自宅がどこの町会に属するかを知りませんでした」と、牧さん。彼らの防災意識を高めるため、地域の防災訓練に一緒に参加したり、「多文化共生×防災まちあるき」として大久保地区の避難所や避難経路を確認しながら歩いて回ったりするそうです。
有事の際の「共助」を機能させるため、平時から地域の関係づくりを目指す

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「新宿区は、たくさんの外国人と共存はしているけれど、共生はまだできていないように感じます。私たちが関わる外国籍の方々を見ていると、地域のつながりや交流はほとんどありません。特に最近は災害時に在宅避難を勧める傾向にあるので、さらに彼らの存在が見えにくくなります。災害が起こってから要支援者・災害弱者を探すのでは遅いので、普段からの関係づくりが必要だと思いました」と話す、牧さん。そこで、2021年に外国人集住エリアである大久保地区で、新宿区在住・在勤・在学の外国人を対象に無料の相談会と生活物資配布を実施。地域内で生活困窮する外国人を把握し、孤立防止のためコミュニティや支援につなぐとともに、支援者と支援拠点の存在を認知してもらう狙いでした。
さらに、2023年には「多文化・多世代共生のための大人の居場所づくり」をコンセプトに、コミュニティ・カフェ@大久保を開始。それまでの活動の中で、大久保地区には流動性の高い若年層の留学生や、不安定な身分や立場におかれている難民や移民が多く、そうした人々は地域コミュニティと普段ほとんど関わりを持つことなく居住していることがわかったため、そうした人々と地域の日本人が出会い、つながる場づくりとして、コミュニティ・カフェを主宰したといいます。そこを拠点にして地域で見守り・見守られる、助け合いが生まれることを目的としているそうです。
「1995年の阪神淡路大震災では、97.5%が自助か共助による救出活動で助かったという統計があります。そうした際に共助を機能させるためにも、日頃からの地域の関係づくりが大切だと強く感じるんです」。
日本語学習支援でつながり、地域参加や防災意識啓発につなげていく

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コミュニティ・カフェは月に2回開催され、ミュージシャンによる演奏やクラフト体験、合唱、料理教室など、参加型のさまざまな活動が行われます。そこでもう一つ行われているのが、日本語学習支援です。コミュニティ・カフェで実施しているものに加え、地域の店で働く外国人従業員向けの出張レッスンもしています。
「大久保地区は日本語が話せなくてもなんとなく生活できてしまうので、日本語を学ぶ必要性を感じていない外国人も少なくありません。ただ、地域参加や、有事の際にSOSを出したり、他者と助け合ったりするためには日本語が必要になりますよね」。
日本語のレッスンは基本的にマンツーマン、14時から20時の間で学習者と学習支援者(指導者)が入れ替わり立ち替わりしながら、それぞれのニーズやレベルに合わせて学習が進んでいきます。出張授業を行っている店舗は、ネパール人、バングラデシュ人、それぞれの国の方々の溜まり場にもなっています。日本語学習支援をやっていると「何をやっているの?」と関心を持つ人も多く、そこから日本語学習支援や生活相談などにつながることもあるそうです。
「ただ教室で待っていても外国人は来てくれないので、こちらから出向くことにしたんです。その結果、たまたま店を訪れた人とつながれたり、日本語学習や生活支援をするなかで外国人コミュニティに少しずつ入っていき、関係性も広げていくこともできていると思います」。
まず目指すのは、"災害時に自力でSOSを発信でき、避難所で基礎的な意思疎通を図って公的な支援を受けられる" レベルになること。日本語学習から少しずつ防災意識の啓発にもつなげていきたいといいます。
「助けられる」側から「助ける」側に

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牧さんは事業を行うなかで、大久保地区の難しさを感じているといいます。
「多国籍、流動性の高い若年層の多さ、日本人・外国人間の交流の欠如、自治会の高齢化、単身高齢者の多さ、巨大商業地区、地理的な避難経路確保の難しさ……地理的、地域的にさまざまな難しさのある地域だと思っています」。
高齢化は日本人だけの問題でなく、近年は外国人高齢者も増加傾向にあります。特に外国人高齢者は日本語をわからない人が多く、もともと話せた人でも認知症になると母語しか話せなくなる可能性があり、そうなった時には最も脆弱な災害弱者になるのではないか、と牧さんは懸念します。
こういった課題感から、コミュニティ・カフェでも多文化・多世代共生を意識。外国人利用者を抱える介護事業所とのつながり作りに力を入れるほか、地域の支援団体と連携し、外国人高齢者と防災について考える福祉カフェの開催などを通して地域住民と一緒にこの課題に向き合います。災害時には地域の事業所・支援団体などと連携を行うことで外国人高齢者の支援強化を目指します。
一方で、この地区の可能性も感じていると、牧さんは話します。
「住民基本台帳によると、新宿区は人口の約13%が外国人で、そのうち89.9%が生産年齢人口とされます。現時点では災害弱者になるおそれのある外国人住民たちも、日本語力や防災の知識を身につければ、助けられる側ではなく、地域防災の担い手として助ける側に回ることもできると思います。そのためにもやっぱり、日頃からの地域の関係づくりが大切だと強く感じます」。
オープンから一年を迎えたコミュニティ・カフェを拠点に、大久保地区の防災のセーフティネットは、少しずつ拡がっています。
*本記事は取材時点での情報をもとに作成しています。最新の情報については、団体へ直接お問い合わせください。