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特定非営利活動法人 WELgee(ウェルジー) ~難民の就職活動に伴走し、人生の再建にコミットする~

紛争や差別、迫害などさまざまな理由から突然に日常や故郷を奪われ、難民となった人々。命からがら逃れるなかで日本にたどり着く難民もいますが、日本政府による「難民」認定は例年1~4%、かつ認定の結果が出るまでには3~6年かかるとされます。その間、難民申請者たちは6か月間の在留資格を更新し続けながら、先の見えない不安定な日々を過ごしています。
特定非営利活動法人WELgee(以下、WELgee)では、命を守るために母国を逃れ日本にたどり着いた若者たち(以下、「インターナショナルズ」*)がただ難民認定を待つだけでなく、人生を再建できるよう、就労に特化したプログラムの運営を通して日本でのキャリア形成に伴走しています。WELgeeの育成事業部でプロジェクトコーディネーターを務める成田茉央さんにお話を伺いました。
*WELgeeでは、WELgeeに関わる難民の方々を志をもつ多国籍な仲間という意味をこめて「インターナショナルズ」と呼んでいます。WELgeeは、命の危険があって現在母国に戻れない状態にある人を活動の対象としており、難民認定申請者だけでなく、認定難民・後発的難民(帰国困難な状態にある元留学生等)・避難民(特定活動・補完的保護で滞在するウクライナ避難民等)なども含んでいます。
人生再建の第一歩となる就労に寄り添う

WELgeeは2016年に任意団体として設立、2018年に法人化されました。学生3人で団体を立ち上げた当初は日本にいる難民に出会いに行くことから始め、シェルターやシェアハウス運営を行っていたそうですが、その翌年2017年からはキャリアに関する事業を始め、難民たちに寄り添ってきました。
「衣食住や難民認定手続き、生活の安定をサポートする難民支援の団体はありますが、就労や人生再建に特化した活動はWELgeeが初めてだったのではないでしょうか」と話す、成田さん。
『特定活動』の在留資格(ビザ)を付与された難民申請者の多くは就労が許可されていますが、日本語のレベルや在留資格の不安定さから就職の選択肢は限られ、多くの人がサバイバルジョブ(明日生きるための仕事)を転々としながら厳しい生活を送っているといわれます。
WELgeeでは「インターナショナルズ」に伴走し、彼らの能力や専門性を活かした就労につなげるとともに、これまで難しいとされてきた在留資格変更の仮説検証に挑戦。行政書士や企業関係者との協働により、難民申請の結果に左右される不安定な在留資格から、専門的分野(技術・人文知識・国際業務)の安定した在留資格への変更を成功させてきました。
また、現在ウクライナ避難民を筆頭に、命の危険があって母国に戻れない状態にある人たちが安定して滞在できるよう在留資格は多角化していますが、日本で希望するキャリアを叶え、彼ららしく生きることは変わらず難しいのが現状です。WELgeeではこうした命の危機があり母国に帰れない状態の人々にもキャリアの伴走を行っています。
現在団体として行っている3つの事業(育成、就労伴走、共創)の中でも、育成事業と就労伴走事業は特に力を入れているといいます。
「まずは育成事業で日本文化や日本の就職活動の特徴をお伝えし、日本人のメンターと一緒に自己分析を行っていただきます。彼ら自身の強みややりたいことが見えてきたら、就労伴走事業に移行し、企業とのマッチングを行っていきます」。
経験や強み、志を最大限に活かした就職活動、キャリアの再構築につなげる

成田さんがプロジェクトコーディネーターを務める育成事業部では、「インターナショナルズ」 が自身の経験や強み、志を最大限に活かした就職活動ができるよう、その下準備としてキャリア教育や日本語教育、スキル開発など、ニーズに合わせてさまざまなプログラムを提供しています。
そうしたプログラムで最初に行うのが、1か月間のキャリア教育プログラムです。セミナーや、社会人プロボノ・先輩難民との交流機会を通して、特徴的な日本の企業文化や採用文化を学びます。
「例えばアフリカでは、コネクション文化で友人に紹介された仕事に就くのが当たり前なので、就職活動という文化がありません。ハローワークに行くことや転職サイトに登録することを知らない方もいるので、日本の就職活動とは何か、基礎的な情報からレクチャーしています。WELgeeに依存せず、彼ら自身で就職活動を続けていけるよう、まずはその基盤をつくります」。
成田さんは育成事業に携わる中で、難民たちの出身国と日本文化の違いによるギャップを日々感じているといいます。
「国によっては腕組みをすることが相手への最上位の敬意の表し方だったり、威厳を守るために歯を見せないという文化があったり、彼らの国と日本の文化の違いから知らないうちに誤解を生んでしまう可能性もあります。日本人とは違う彼らの異質性を大切にしたいので、日本語の習得や日本文化への適応は必ずしも完璧である必要はないと思っていますが、彼らの文化に基づく態度から日本人に誤解を生むと、彼らのチャンスが減ってしまいます。企業の求める最低限のラインは守れるようにサポートしています」。
彼らの才能や経験が、日本でも活きるように

キャリア教育プログラムの後は、3か月のメンターシッププログラムがスタートします。「インターナショナルズ」が就職活動を自走できる状態になるよう日本人のメンターがペアとなり伴走しながら、強みや特性の深掘り、職務経験の棚卸しなどの自己分析を行い、それらを活かせる業態職種の調査やゴール設定を行っていきます。メンターを務めるのは、大企業の執行役員から元々企業で活躍していた育休中の主婦までさまざま。3か月間を密に過ごすため、バディのような関係性になることも。
「日本人と密にコミュニケーションを取る経験は、彼らにとって非常に大きな財産なります。日本人メンターとの関係性構築の時間も彼らの自信になっていきますし、時に両者の間で化学反応も起こるんです」。
その後、スキル開発プログラムでは日本語研修やアノテーション学習などのハードワークの提供をしています。
模擬面接なども含む育成事業のプログラムを終えた後は、就労伴走プログラムへ移行。「育成・採用・定着」、3つの一貫した伴走の実施で、人材の強みを活かし、企業とのマッチングを行います。
「WELgeeがこれまでつながった難民たちの約8割が大学・大学院を卒業しており、その他にも語学や資格面でさまざまな才能や経験を持っています。苦難を乗り越えてきた経験も、不安な中で前向きにやりきろうとする姿勢も、紛れもなく彼らの強みになると考えています。私たちが行っている伴走支援のゴールは、彼らのスキルや経験、ビジョンを日本で強みとして活かしていくことです」。
企業への入社がゴールじゃない。定着まで丁寧にサポート


ダイバーシティ&インクルージョンの推進や、ウクライナ侵攻による関心の高まりによって、難民の採用を希望する企業も増えつつあるといいます。WELgeeでは企業とのマッチング後、キャリアコーディネーターが企業担当者と難民人材の間に入り、お試し雇用から入社~定着のプロセスを長期で伴走します。丁寧なサポート体制を評価され、外国人人材採用の1例目としてWELgeeを選ぶ企業もいるそうです。これまでWELgeeでは、38案件の採用が実現。デザイナーやコンクリートの研究開発、プログラマー、国際NGOなどさまざまな企業・職種に及びます。
「難民ということにとらわれ過ぎず、その人の強みやキャリアを魅力に感じていただける企業とマッチングできることが、難民にとっても企業にとってもWin-Winだと考えています」。
現在、WELgeeの就労伴走事業部のターゲットとしているのは、原則、英語が話せるかつ学士以上の教育を受けた人。在留資格の変更や企業で働くことを念頭に置くと、この条件が必要になってきます。
「今のWELgeeの事業で価値を提供できるのは日本にいる難民の一部なんです。ただ、そこからこぼれ落ちてしまう人たちにもWELgeeのコミュニティを活かして何かしら力になりたいと思いますし、可能性を探るチャレンジは続けています。WELgeeが出会った当初は、学士がなかった方も、自分の力でオンライン大学で学士を取得したり、自ら夢への道を切り拓いている人もいるんです。コミュニティとしての機能は、団体立ち上げ当初からDNA的に大切にしています。事業として伴走することは難しくても、できる限り寄り添いたいですし、彼らにもうまくWELgeeを使ってほしいです」。
「WELgeeが人生を変えてくれた」

コンゴ民主共和国出身のNさんは、2019年に命からがら来日。1か月のホームレス生活を経験したのち、シェルターで暮らしながら仕事探しを始めました。母国では豊かな経験とスキルを持つプログラマーでしたが、日本では日本語レベルを理由に不採用が続きました。
そんなNさんにWELgeeは2年間伴走し、2022年、ついにプログラマーとしてBPOを行う会社への採用が決まりました。さらに2023年、技術・人文知識・国際業務の在留資格への変更に成功。在留資格が切り変えられたことで、家族を日本に呼び寄せることもできるようになり、奥さんと5年ぶりの再会を果たしました。
「難民の中には、家族を置いて単身で日本に来る方も多く、子どもが生まれたけれど一度も会えていないという方もいます。Nさんからは『WELgeeが人生を変えてくれた。日本に来た段階では想像できなかった未来だ』という嬉しい言葉を頂きました」。
これまで企業への採用38名、在留資格変更13名(2024年4月9日現在)という実績を出しているWELgeeですが、2025年度末までに難民人材活躍100事例を目指します。
「政府の意思決定や議題の片隅に追いやられないためにも、難民の採用事例を増やし、しっかりと実績や経済的価値を証明していく必要があると思います。また、そうすることで多くの日本人に難民の現状について知っていただき、国として、企業として、社会として、もっと出来ることがあるのではないか、と風穴を開けられたらと考えています」。
「自らの境遇にかかわらず、ともに未来を築ける社会」に向けて、難民の人生再建に本気で寄り添うWELgeeの挑戦は、これからも続きます。