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一般社団法人 ピノッキオ ~子どもも大人も、外国出身者も日本人も、ピノッキオは地域のみんなの居場所~

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取材にご協力いただいたピノッキオのみなさん。左から、日本語教室ボランティアの市野郷さん、代表理事の川名はつ子さん、シネマ倶楽部と放課後クラブのボランティアの真理子さん、日本語教室ボランティアの高柳さん、学習者のアナルズさんと息子の幸太郎君。

一般社団法人 ピノッキオは、「子どもの居場所」をテーマにしています。しかし発足から少しずつ派生していった活動は、子ども食堂から放課後クラブ、子育て&誰でもカフェや日本語教室、大人食堂「ほっこり亭」やシネマ倶楽部など多岐にわたり、今では子どもだけでなく大人も含めた地域のみなさんの集まる居場所となっています。軽やかなフットワークで、アイデアたっぷりの企画を実現する代表理事の川名はつ子さんに、ピノッキオの誕生から現在の活動についてお聞きしました。

 

長く住んできた北区で、すべての子どもが安心できる居場所を

児童虐待を専門に研究されてきた川名さんの胸には、子ども虐待防止のシンボルであるオレンジリボンがあります。団体の名前のルーツは、大学の特別研究期間(サバティカル)に1年間過ごした大好きなイタリアにあるといい、「イタリアはどこへ行ってもピノッキオがいるんですよ。いたずらっこのピノッキオにちなんで名付けました」と話します。

「子どもはどんな親の元に生まれても、愛されて幸せに育つ権利があります」、そう話す川名さんは2019年3月まで早稲田大学で子ども家庭福祉論の教鞭を取りながら、学生と共に立ち上げた「早稲田里親研究会」でも活動をし、20年以上児童虐待防止に努めてきました。定年を機に、子育てしながら40年以上住んできた北区で、地域のすべての子どもたちの安心できる居場所を作りたいという夢に向かって動き出したといいます。

ピノッキオがあるのは都営住宅の1階のスペースです。理想の居場所をつくるため、場所は1年ほど北区のあちこちを探し回ったそうです。そうした中で、ピノッキオの顧問にもなっている不動産屋さんから連絡をもらい、今の場所に出会うことができたといいます。前の通りは近所の人がよく通る道で、改修工事をしている頃からたくさんの人が「ここは何になるんですか」と興味津々だったようです。ピノッキオの説明会のときには、川名さんの想いに共鳴したボランティア希望者が30名ほど集まってくれました。
そして、2020年8月に地域のみなさんと一緒に活動できる子どもの居場所「ピノッキオ」が誕生しました。「たくさんの人との出会いと協力のおかげで、無事にオープンすることが出来ました」と川名さん。オープン前からいろいろな構想がありましたが、コロナ禍での制限等もあり、まずは子ども食堂から始めることになったそうです。

 

学校でも家でもない、子どもたちにとっての第三の居場所に

ここでは学校や学年の違う子どもたちも一緒になって遊びます。「わたしの名前は"はつ子"ですが、子どもたちからは"はちこ"と呼ばれています。ちょっとしたミスをすると減点されて"ななこ"になり、さらに"むつこ"になります」と、川名さんはおかしそうに話します。
30食からスタートした子ども食堂ですが、キッチンを広げる改修工事をし、現在は70食に対応しています。リユースの容器の返却率は、ほぼ100%だといいます。

毎月第1・3・5火曜日に実施しているピノッキオの子ども食堂では、子どもたちのアレルギーや宗教上の理由で食べられないものにも対応しています。「団地に住むバングラデシュ出身の子と話していたときに、『食べに来たいけど、(宗教上の理由で)僕には食べられないものがある』と言うんですね。近所の小学校の栄養士さんに聞いたところ、給食ではアレルギーや宗教食の対応はできておらず、食べられない物が出る日はお弁当を持ってきてもらうそうです。給食は毎日ですが、私たちの子ども食堂は月に2~3回です。そうした子たちも食べに来られる子ども食堂にしよう、という方針にしました」。
そのため利用者は登録制にし、一人ひとりの名札カードを作りました。名札には食べられないものなどの情報が書かれ、アレルギーの子には赤いシールを、大盛りの子にも印を、というようにみんなに楽しく安心して食べてもらうための優しい工夫がされています。

平日16時~18時の放課後クラブには多いときで20人ほどの子どもたちが遊びに来ます。近くに住む小学生が多いですが、中学生や保育園帰りの親子が遊びに来ることもあり、児童館のような居場所として、見守りとおやつを提供しています。最近は近所のフランスインターナショナルスクールに通う子どもたちも遊びに来るようになり、遊びを通して子どもたちは言葉の壁を越え、自然に仲良くなっているといいます。
子どもたちは時にいたずらなんかもしながら、学校や家では見せない顔をここでは見せると、川名さんは話します。学校でも家でもない、第三の居場所であるピノッキオは、子どもたちにとって大切な場となっているようです。

 

子ども連れでも大丈夫な日本語教室

日本語教室×学習支援で、ティラミスの作り方を学んでいます。

ピノッキオでは近所の外国人住民向けに日本の暮らしのルールや文化を教えたり、日本語を勉強する日本語教室も開催しています。団地の上に住むバングラデシュ出身のご家族のお母さんが日本語を話せず孤立してしまっていたことをきっかけに、開催することになったそうです。
教室に通うフィリピン出身のアナルズさんは「以前は赤羽の教室に通っていましたが、妊娠してからは電車に乗るのが大変だったのでやめて、ずっとひとりで勉強していました。ここでボランティアをしているママ友にパンフレットをもらったことがきっかけで、ピノッキオを知りました。近所に日本語を勉強する場所ができたので、うれしかったです。近くに住む友だちも誘いました。子どもを連れてきて隣で遊ばせながら勉強できるので、安心して通うことができます。先生たちもとても優しいので、日本語を頑張って勉強したい」と話します。

週2回の日本語教室は高柳さんと市野郷さんのお二人 (ふたり) が交代で担当しています。高柳さんは「日本語教室は対面で1時間です。1対1で勉強するのが理想です。以前グループで勉強しましたが、進度も違うので3人が限度です」と話します。カナダに3年ほど住み、現地で教えた経験があるという市野郷さんは「生活にそった日本語を教えるために、先日ティラミス作りをし、そこには不登校の子も一緒に参加しました。これは教室にキッチンがないとできないことなので、ピノッキオならではの学習方法だと思います」と言います。

 

ピノッキオの中では、みんなが「利用者」にも「支援者」にもなる

子ども食堂のお弁当を配るのを手伝う子どもたち。

ピノッキオではその (ほか) にも、家庭や学校での悩みを聞く「よろず相談」、子連れのお母さん・お父さん向けの「子育て&誰でもカフェ」、障がいをもつ (かた) を対象に肢体不自由をもつスタッフが実施する「ピアカウンセリング」、「シネマ倶楽部」、「レンタルスペース」など様々な事業をしています。そのうちいくつかはボランティアスタッフからの発案や要望からスタートしたといい、誰でも立案者になれる場でもあるそうです。

日本語教室に通うアナルズさんは、日本語を教わりながら、ボランティアの皆さんにネットのことなどを教えます。ケアマネージャーさんに「家に一人でいるよりもここに来た方が安心」と言われてピノッキオを利用している80代後半の (かた) も、ここに来たら一緒に子どもたちの見守りをしてくれます。
「ここでは利用者が支援者になったり、支援者が利用者になったりして、入れ替わるんです。みんな、利用者であり、支援者であるんです」と、川名さん。
ボランティアスタッフの真理子さんは、毎週火曜日の大人食堂の開催日にたまたま通りがかり、おいしいランチを食べたことがきっかけで、ボランティアに加わり始めたそうです。中の様子が見える横開きのガラス戸になっていることで、オープンな雰囲気で、誰でも自然と輪に (はい) れる空間であることが感じられます。

「子どもたちも、高齢の (かた) も障がいのある (かた) も、地域のみんなの居場所になったらいいなと思いますね」と、川名さんは話します。 ボランティアのみなさん一人ひとりの手でつくられている居場所でありながら、そのボランティアさんたちにとってもここが大切な居場所になっているようです。

 

多彩な活動のすべてがリンクしている

ピノッキオの看板が目印です。元気な子どもたちが集まってきます。

ピノッキオが開設してから3年が過ぎました。活動の内容はどんどん広がっています。
「活動の内容はすべてリンクしているんです。わたしは社会福祉士でもあり、家庭や学校の悩みや困りごとを聞くよろず相談も活動の一つとしています。ですが、相談にいらっしゃいと言うだけでは人はなかなか来ません。カフェなどを開いてお話している中で、心配だと思う人が見えてきて、お声がけをすることもあります。子育てカフェを開いたのも、孤立した育児をなくしたいと思ったからです。子育てで眠れないお母さんには、ここで昼寝ができるようにマットも置いています。子どもたちのことも、高齢者の方たちのことも、地域で一緒に見守りたいんです」と川名さん。

そうした中で、難しさも感じているといいます。
「以前ここで少し様子の心配なお子さんがいた際、学校と情報の共有をしたかったんですが、こちらからアプロ―チをしてもなかなか連携が取れなかったことがありました。子どもの成長には家庭や学校だけでなく地域も関わると思うので、関係者や関係機関が情報をうまく共有できるようになっていくといいな、と思います」。

地域のみんなの居場所になるようにと、少しずつ協力者を増やしながら、ニーズに応じて機能を拡張するピノッキオ。そこは地域のみなさんの手でつくられる、やさしい空間でした。
「ピノッキにはいろいろな (かた) が集まります。そこからさらにたくさんの人とつながっています。ここにはいろいろな人を受け入れる器があると思っています。来る者は拒まず、です」。懐が深く、好奇心旺盛な川名さん。ピノッキオのさらなる展開が楽しみです。

*本記事は取材時点での情報をもとに作成しています。最新の情報については、団体へ直接お問い合わせください。