クローズアップ
NPO法人 海外に子ども用車椅子を送る会 ~動ける自由と喜びを、希望の車椅子に乗せて~

やさしい笑顔が印象的なみなさん。左から、理事の桑山昭さん、会長の森田祐和さん、理事の秋子孝男さん。
日本の子どもたちが成長過程で使わなくなった車椅子を海外の子どもたちに届ける活動をしているのが、NPO法人「海外に子ども用車椅子を送る会」です。2004年の団体設立から約20年の活動を通じて、贈呈実績は26か国9,395台(2023年6月現在)にも上ります。2020年には国際交流基金地球市民賞を受賞するなど、その活動は多くの賛同と共感を集めています。
団体を設立したきっかけや子ども用車椅子の実情などを、会長の森田祐和さん、理事の桑山昭さん、同じく理事の秋子孝男さんに伺いました。
3~4年で役目を終え、きれいなまま廃棄されてしまう子ども用車椅子を活用したい

日本では、肢体が不自由な子どもは一人ひとりが専門家のアドバイスの下、自分の身体の状態に適した専用の車椅子を持っています。子どもの成長は早く、また容態も変化するため、車椅子は3~4年で買い換えが必要になります。買い替えの際、新品には都道府県や市町村からの補助金(通常は9割補助)が適用されるものの、中古品には適用されないため、使わなくなった車椅子は、粗大ごみとして廃棄されてしまうことが殆どだといいます。
「中古品とはいっても子ども用の車椅子は3~4年で買い換えるので、補修整備すれば十分に使えるものが多いです。わたしには脳性麻痺の息子がいて、車椅子を使っているんですが、成長とともに使わなくなったとはいえ、壊れてもいない、まだまだ使える車椅子を捨てることに抵抗がありました。子ども用車椅子はもともと高価なものが多いですし、きれいな状態で廃棄するのはもったいないと、誰もが思うんです。でも何かしようと考える人はなかなかいない。わたしも、そうでした」、そう話す森田さんに転機となる出来事が起こります。
「大病を患ったことをきっかけに今後の人生について考えたとき、次の世代に何かを残したいと思ったんです。そんなとき、息子が使わなくなり玄関に放置していた、きれいな状態の車椅子を見て、これを活かせないか、と思いました」。
日本で役目を終えた車椅子は世界をわたり、どこかの国の子どもの宝物に

それから森田さんは海外の子ども用車椅子事情を調べ始めたといいます。そうした中で、海外においては先進国の一部を除いた多くの国々で、子ども用車椅子が作られておらず、子どもたちが大人用のものを使ったり、車椅子に乗ったこともなく家に置き去りにされていたりすることが少なくない、という現実が見えてきました。
「車椅子に乗れない子どもたちが多くいることを知り、日本で使われなくなった車椅子を清掃・整備して、無償で海外の子どもたちに送ることにしたんです。子どもの成長は早いので、一人でも多くの子どもたちに早く車椅子を届けたいという思いでした。人を集めて活動を始めて団体を法人化して…病院に行くのも忘れて、とにかく夢中でした」と森田さん。
海外に子ども用車椅子を送る会では、首都圏にある50以上の特別支援学校のPTAや学校、療育センター などに呼びかけて、廃棄処分に困っていた車椅子を無償で提供してもらっています。「わたしたちの不要になった車椅子が素晴らしい国際貢献をしていることがうれしい」と、今では不要になった車椅子を持参される人も増えています。
「ここまで継続できたのは、本当に皆さんが賛同して協力してくれたからです。呼びかけたのはわたしですけど、みんなの力の総力だと思っています」。
車椅子があると外に出て、太陽を浴びることができる

団体で清掃・整備を終えた車椅子は現地の赤十字社や政府、公共団体、NPO、NGOなどを通じて子どもたちに届けられます。これまで約20年の活動を通して26か国9,395人の子どもたちに車椅子を届けてきました(2023年6月現在)。
「車椅子を現地に送る際は、椅子の大きさなどのデータや写真を事前に送り、現地でその車椅子に合う子どもを見つけてもらいます。そうした経緯から、“シンデレラプロジェクト”とも呼ばれます」と秋子さん。
会では届けた車椅子が必要な子どもに届いているか、どのように活用されているかなど、家庭訪問をしてインタビューしています。
「車椅子がないと、1日の殆どの時間を家族の誰かが抱っこしているか、ムシロの上に寝て過ごしています。車椅子に乗ることで、部屋の外に出て、風を感じたり、太陽の陽を浴びることができます。2~3メートル動くだけでも、車椅子の意味があるんです」と、秋子さんは続けます。
桑山さんは「人生で初めて車椅子に乗ると興奮し、嬉しさのあまり涙を流して喜んでくれます。お母さんは家族の宝物だ、大切に使うと約束してくれます。そういう姿を見ると、活動を続けなきゃいけないと改めて思います」と話します。
団体では贈呈した車椅子が長く使ってもらえるように、現地で修理整備のワークショップをして技術指導を行うほか、車椅子の修理を適切に行えるように、現地語でわかりやすく説明した修理マニュアルも用意し、修理に必要な部品も無償で提供することも約束しています。
車椅子を清掃・整備する定例会は、国際交流の場でもある


団体の倉庫の中には、およそ200台の車椅子が保管されています。月に2~3回の定例会で、車椅子の安全性と耐久性に留意して、清掃と修理・整備をボランティアたちの手で行っています。清掃から整備まではチェックシートで管理され、すべての工程を終えた車椅子が、梱包され海を渡ります。
「参加するボランティアの数にもよりますが、1回の定例会で仕上げることができるのは10数台です。清掃に時間がかかるんです」と、桑山さん。
定例会に参加する人たちは高校生や大学生、CSR活動として企業から来るグループなど、様々です。日本に住む外国人の人たちも多く参加しています。直近の定例会では、ベトナム出身者が20人ほど、都内だけでなく静岡や群馬からも参加したそうです。
「初めは『自分の国にも送りたい』と活動に参加する外国人が多いですが、活動を続ける中で『送り先が自分の国ではなくても、困っている人の役に立つなら嬉しい』と言って熱心に参加してくれます」と、秋子さん。
「みんな交通費をかけて遠くから手伝いに来てくれるので本当にありがたいです。日本人も外国人も活動に参加することで、国際交流の場にもなっていると思います」と森田さん。
それぞれの国で子ども用車椅子を作れるようになることが願い

団体では今年2023年から「オールジャパンで車いすをウクライナに送るプロジェクト」を通じて、他団体と協働してウクライナに車椅子を届ける活動もしています。現地では負傷者が増え車椅子が不足しているほか、障害のある子どもたちが避難する際にも車椅子が必要とされており、500台を目標に寄贈されているといいます。
団体が車椅子を届けた世界中の子どもたちからは、車椅子に乗って嬉しそうな写真や感謝の絵がたくさん届いています。家族からは「家族の介護の負担が軽減し、地域の人との交流も増えた」「車椅子を貰ってから生活が変わった。外に出られ人と会えるようになった」といった声が寄せられています。
森田さんに今後の目標を聞きました。
「今は車椅子のデリバリーみたいなことをしていますが、子ども用車椅子の必要性が理解され、その国が自立して自ら車椅子が作れるようになる、という日が来ればいいと思っています。少しでもその助走のお手伝いができたのなら、会の意味があると思います。団体として大切にしているものは『和』です。一人ひとりの力をお借りしてみんなの総力で活動していますから、和が一番大切です」。
日本で捨てられてしまう運命にあった車椅子が、海外に子ども用車椅子を送る会の皆さんの手によって希望の車椅子となり、世界中の子どもたちに動ける自由と喜びを届けています。
*本記事は取材時点での情報をもとに作成しています。最新の情報については、団体へ直接お問い合わせください。