クローズアップ

kokohana やさしい日本語でつながる八王子の会 ~八王子で広げる、やさしい日本語と多文化の輪~

800×600
写真左から、kokohana やさしい日本語でつながる八王子の会の代表 宮武茜さん、松原久美子さん。

14,000 (にん) の外国人が暮らす街、八王子市(2022 (ねん) 12 (がつ) 現在)。外国人留学生が多く、在住外国人の人口は年々増えています。そんな八王子を日本人も外国人もみんなが安心して暮らせる街にするために、やさしい日本語の普及などさまざまな活動をするのが「kokohana やさしい日本語でつながる八王子の会(以下、kokohana)」です。団体の中軸となるお二人 (ふたり) 、代表の宮武茜さん、松原久美子さんにお話を伺いました。

 

同じ思いを共有する二人の出会い

800×600
「団体名は最初から決めていました」と話す宮武さん

宮武さんと松原さんは「八王子にほんごの会」のボランティア仲間として知り合いました。「私たちは二人 (ふたり) とも日本語教師で、ボランティアとしても別々の教室で日本語を教えていました。奇遇なことに、お互いそれぞれの経験から『やさしい日本語をもっと皆に広めたい』と考えていたんです。松原さんと出会って、そのことがわかるとすぐに意気投合し、一緒に団体を始めることにしました」と宮武さん。2021 (ねん) の春に出会ったお二人 (ふたり) ですが、その年の夏には団体を設立。当時について宮武さんは「やさしい日本語に取り組む“仲間”が全国にいると思ったとき、『八王子でもすぐやらなきゃ』と感じました」と振り返ります。『ここでなら (はな) せる、という場にしたい』という思いを込めて、“kokohana(ココハナ)”という名前がつけられました。
松原さんがやさしい日本語を広めたいと感じたのは、日本語学校で初めて卒業生を見送ったときだったそうです。「頑張って日本語を勉強してきた彼らもこれから日本社会で苦労するだろうな、という予感がありました。彼らがたくさん努力して学習しても、ネイティブレベルにはなかなか追いつきません。彼らの日本語の上達を期待するばかりではなく、周りの日本人がやさしい日本語で話してくれれば、お互いに生活しやすいだろうと思ったんです。今は、八王子市市民の半分が、やさしい日本語を知っていて話せるという状態になればいいなと思って活動しています」。
スピード感をもって団体を立ち上げ、今日に至るまでに絶えず活動を続けているのは、二人に共通する思いがあったからだといいます。「私たちには同じエンジンがあります。それは『八王子を、日本人も外国人もみんな安心して暮らせる街にしたい』という思いです。その思いを実現するために、やさしい日本語の普及を含めた、さまざまな活動を行っています」。

 

やさしい日本語の普及はwin-win-win

800×600
kokohanaのイベントのチラシ。サポーターの協力も借りて制作し、近隣施設へ自ら配りに歩くそうです。

kokohanaが設立当初から取り組むのが、やさしい日本語のきほん講座の開催です。現在も2か月に1回程度、松原さんが講師となって開催しており、日々の業務にやさしい日本語を生かしたい人、仕事を定年退職された人、学生など、毎回さまざまな市民が参加します。
宮武さんと松原さんはこの講座の受講生から、うれしいエピソードを聞いたそうです。それは講座を受けた後日、駅で電車が止まったときのことでした。外国人の乗客が駅員に質問をしていましたが、乗客は駅員の説明をうまく理解できていないようでした。その様子を見た受講生が二人 (ふたり) (あいだ) に立ってやさしい日本語で通訳をしたところ、乗客には言葉が伝わり、駅員の (かた) は「自分も同じように日本語を話していたのに、なぜお客さんが話したら伝わったんですか?」と不思議そうにしていたといいます。
「講座に協力してくれた外国人サポーターから『日本人が自分たち外国人のために、勉強をしてくれることがうれしい』と言われたことがあります。そういう言葉が出るくらい、普段は言葉が伝わっていないんだなと感じます。だからこのようにやさしい日本語が広がっていくエピソードはうれしいですね」と松原さんは話します。
宮武さんと松原さんは、やさしい日本語の普及活動を「学んだ人がうれしくなり、コミュニケーションを取れた外国人も喜び、私たちもうれしい、win-win-winの活動」と説明します。

 

防災の現場で、やさしい日本語は「目から鱗」

800×600
2022年12月に実施した、八王子市の防災指導者研修

2022年度に市役所の依頼で防災指導者向けに講座を開催した際、「避難所に外国人市民が来たときのことを、想像してみたことはありますか」と問いかけたところ、「ある」と答えた参加者はほんのわずかだったそうです。「防災関係者にとって、外国人市民に伝えるためのやさしい日本語というのは、まったく新しい観点の知識だったようです。参加者からは『目から鱗だった』と感想をいただくなど、大きな反響がありました」。
「やさしい日本語を身近に感じてもらうために、実際の場面をイメージしやすい講座づくりを心がけています。気楽に学んでもらいたいと思っているので、『楽しいですよ、身に付けるとお互いに楽になるんです』と伝えています」と宮武さん。
講座の依頼や団体への取材が増えるなど、やさしい日本語への関心が市内でも少しずつ広がっている実感もあるといいます。

 

料理教室で、小学校で、伝える・広げる「多文化」

800×600
2023年3月に実施したウクライナ料理教室

kokohanaでは「やさしい日本語を広める活動」以外にも、「多文化共生・国際理解を深めるための活動」、そして「海外にルーツを持つ親子のための活動」にも力を入れています。宮武さんは「在住外国人関連の活動をしていると話すと、『英語できるんだね』と言われることがよくあります。『外国人=英語』というイメージを持っている (かた) はまだまだ多いです。そんな背景もあり、やさしい日本語の講座だけでは、それが一体何のために必要なのか伝わりにくいと思いました。まずは多文化に触れることで、外国にルーツを持つ住民に興味を持ってほしいと思ったんです」と話します。 会話を中心とした交流会のほか、中国やウクライナの料理教室も実施しました。料理はみんなの興味の糸口となる、とても () いトピックです。ウクライナ料理教室では、ウクライナから避難してきた方々を講師に招き、ボルシチとサラダ、クレープを作りました。「外国人市民にとっては活躍の場にもなりますし、壁を作らず国際交流を楽しんでもらうことができれば、それが一番」と二人 (ふたり) は話します。 また、外国にルーツを持つ子どもが増えていることから、市内のある小学校で2年前から多文化共生をテーマにした授業も実施しています。今後さらに教育現場での活動を広げていきたいと考えているそうです。

 

八王子だからこそ意義がある、kokohanaの活動

800×600
宮武さんも松原さんも実は他県から八王子市に移り住んだそうです。「今では八王子が大好き」と話す松原さん

八王子市に住む外国人の出身国は160か国以上に及び、それぞれ母語も違うため、多言語対応にも限界があります。そうした意味で、やさしい日本語を必要とする土壌があるといいます。宮武さんは、八王子を「外国人が集まりやすい場所」と話します。「学園都市ということもあり、八王子は学生の最初の住居として選ばれやすいです。あまりに自然豊かで、東京のイメージと違って驚くようですが(笑)。でも、都心から遠いこともあって、学校を卒業すると引っ越していく学生も多いです。卒業後も住みたいと思ってもらえる町づくりができたら、それは素晴らしいことだと思います」。
八王子は市民活動がしやすい環境だといい、kokohana設立時も市民活動支援センターがさまざまなサポートをしてくれたそうです。「市民同士の活動やコミュニケーションが活発、そこが八王子の魅力のひとつです。私たちの活動は、在住外国人が多く、市民活動が盛んという、2つの特性を併せ持つ八王子で行うからこそ、大きな意義があります。やさしい日本語でつながる人を増やしていくことができたら、町がもっと面白くなると思うんです」と、宮武さんは話します。二人の朗らかで和やかな雰囲気とともに、八王子にやさしい日本語のつながりの輪が広がっていって欲しいと思います。

*本記事は取材時点での情報をもとに作成しています。最新の情報については、団体へ直接お問い合わせください。