クローズアップ

一般社団法人 kuriya(クリヤ) ~外国ルーツの若者たちのキャリア形成をサポート。アートプロジェクトから居場所づくり、そして政策提言へ~

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若者たちの前に立つのは一般社団法人kuriya代表理事の海老原周子 (しゅうこ) さん。
香港、ペナンのアーティストを招いて実施したワークショップの様子(撮影:高岡弘)。                                                                                         

 

日本に暮らしている、外国にルーツを持つ若者たち。小中学生と比べ、高校生から20代前半のユース世代は支援の手が届きにくいといわれています。こうした世代を対象に、映像や写真、ダンス、音楽などのアートワークショップをはじめとするクリエイティブな活動から出発し、キャリア教育や人材育成事業を手掛ける一般社団法人kuriya(クリヤ)の代表理事、海老原周子 (しゅうこ) さんにお話をうかがいました。

国や文化の壁を越えて、アートの力で外国ルーツの若者たちをつなぐ


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一般社団法人kuriyaの活動に参加した外国人の若者が主催した映像ワークショップ

 

海老原さんはかつて独立行政法人国際交流基金で国際文化交流事業に携わっていました。同基金の新規事業の一つとして、2009 (ねん) から2013 (ねん) にかけて手がけたのが「新宿アートプロジェクト」です。外国にルーツを持つ中高生や日本人 (にほんじん) の中高生を対象に、映像や写真、ダンスなどのアートワークショップを年間30回以上行ったといいます。プロジェクトを始めたきっかけについて、海老原さんはこのように話します。「ある外国ルーツの中学生の子が『日本人 (にほんじん) の子が怖い』と言っていたんです。日本に3年、5年と住んでいてもなかなか友達ができない子が多い。私自身も幼少期をペルー、中高生時代をイギリスで過ごしましたが、確かに言葉ができるようになっても友達を作るのはなかなか大変でした。アートという共同体験を通じて、仲良くなれたらと思ったんです」。ワークショップには国内外の一流アーティストや社会人なども参加し、大人との交流の機会にもなったそうです。「なぜアートワークショップだったのか?アートは形(作品)として残るとともに記憶を共有できるんです。『違い』が共有できなくても、『記憶』を共有できたらいいなと思って」。

アートワークショップで感じた疑問と限界、そして団体設立

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「活動開始当初は自分の体験がベースになっていたと思うんですが、途中からは外国ルーツや日本人 (にほんじん) の若者と接するのがすごく楽しくて、学ぶことも多くって。正直こんなに長く続けるとは思っていなかったんですが、気が付いたら楽しくて10年以上やっていました」と海老原さん。

 

5年間アートプロジェクトを続けるなかで、活動は評価されながらも、海老原さん自身は疑問や限界のようなものを感じるようになったといいます。「ワークショップで子どもたちと仲良くなると、少しずつ相談もされるようになるんですよね。家庭状況が複雑な子、生活に苦労している子、進学したいけどお金がないとか、家にお金を入れなきゃいけないとか…。アートにこうした課題は解決できない。子どもたちの状況を知るたびに、このままアートワークショップを続けていていいのか、ずっとモヤモヤしたものを抱えていました」。
そうした限界を乗り越えるため、アートワークショップを要素として取り入れつつ教育や人材育成の方向に舵を切り、2016 (ねん) kuriyaを設立しました。機動力の高い団体にするため、非営利型の一般社団法人を選択したといいます。「kuriya」という団体名は、厨房などの「 (みくりや) 」という漢字からきており、「様々な多様性を持った若者が集まるキッチンのような場」という意味を込めて、団体設立も手伝った中国ルーツの友人が付けてくれたそうです。
現在kuriyaは海老原さんや理事、スタッフを含め4 (にん) で運営しています。プロジェクトベースで、その (ほか) にプロボノやボランティア30 (にん) ほどが活動に参加しているそうです。アートワークショップに参加した卒業生たちも、ボランティアやスタッフとして手伝いに来てくれるといいます。

高校・大学・NPOの三者が連携し定時制高校で“居場所”をつくる

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「Betweens Passport Initiative」プロジェクトでは、定時制高校で行われた「多言語交流部」などの活動のほか、外国ルーツの若者のためのインターンプログラム、トークイベントなどの啓発活動も行われました。

 

kuriyaは2016 (ねん) から3年間、人材育成事業として、アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)や東京都と協働しながら、「Betweens Passport Initiative(以下BPI)プロジェクトに取り組みました。
BPIの3つのプロジェクトの1つが都立一橋 (ひとつばし) 高校の定時制で行われた「多言語交流部」です。外国にルーツを持つ高校生は全高校生と比較して、高校中退率や非正規就職率が高く、進学率が低いといわれています。中退率については2018 (ねん) (時点で一般の高校生の7倍以上にも上っていたといいます。そうした状況の中、高校・大学・NPOの三者が連携しそれぞれの強みを活かし役割分担しながら「部活動」という居場所づくりに取り組んだといいます。部の目的としては、「①友達や先生などさまざまな大人とつながる場、②高校生も共に活動づくりに参加することを通じてライフスキルを磨く場、③日本人 (にほんじん) の生徒も参加でき、多様な文化や言葉を体験する学び合いの場」という3つが挙げられました。部では様々なアクティビティでの関係性づくりから、留学生やアーティストとの交流プログラムを通じた居場所づくりが行われました。
スタート時は3 (にん) ほどだった部員も20 (にん) まで増え、部に参加した生徒たちは無事高校を卒業し進路も決まったといいます。そして、生徒たちからは「ここにいると () の自分でいられる」「居心地がいい」「自分に自信がついた」といった声が聞かれたそうです。

10年続けて見えた課題、そして現場の限界


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若者たちと接するときには「外国ルーツの子」としてではなく、「その子」を見るようにしているという海老原さん。活動の中でも一人ひとりをよく観察し、その子の () いところや得意なことを活かせる役割を振るようにしているそうです。

 

「活動を続けて10年、楽しかったと同時に少しずつ現場の限界を感じていました。というのも、10 (ねん) 前と同じ課題が10年後の今もあることに気が付いたんです。課題解決として取り組んできたけれど、現場がどう頑張っても変えられない、という悔しいことがたくさんありました。制度としてつくっていかないと根本的に変わらないと思いました」と話す海老原さん。2018 (ねん) からは積極的な政策提言も始めています。「最初は外国ルーツの高校生の中退率のデータ自体がなかったんです。進路の決定率などのデータもなかった。それをまず文科省 (もんかしょう) などにお願いして、課題を『可視化』することから始めました」。そのほかにも在留資格の切り替えなど、外国にルーツを持つ高校生や若者がぶつかる「高校中退」「大学進学」「在留資格」といった壁をなくすための提言を行っています。
さらに、制度を整えるとともに、日本人 (にほんじん) を対象とした既存の取組みに多文化対応を取り入れていく必要も感じているといいます。「外国ルーツの子どもや移民の方々の課題は、 (ほか) のマイノリティが抱える課題とも共通するように、周囲の人たちが『自分ごと化』するのってすごく難しいですよね。ただ、外国人を対象に私たちだけが活動していても、どこかで限界がくるのかなとも感じています。これまで日本人 (にほんじん) を対象に活動していた方々が、多文化や多様性を意識して取り入れていくとだんだん変わってくるのではないかと思います」。

 支援の対象として見るだけでなく、若者たち自身がその担い手となり活躍できる環境を

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 ワークショップなどの活動に参加したユースたちは、その後もインターンやボランティアとして積極的にkuriyaの活動に関わってくれているといいます。

 

10年以上の活動を通じて300 (にん) 以上の外国にルーツを持つ若者たちと出会ってきたという海老原さんは、これからの多文化共生を考えていく上で、彼らの可能性に注目しています。kuriyaでも実際にインターンシップの仕組みを取り入れ、外国ルーツの若者たちと一緒に団体の活動をしています。今後も次世代の活躍の場をつくるとともに、若者たちにはkuriyaを次のステップに進むための一つのプラットフォームにしてほしいと話します。
「外国ルーツの若者たちを支援の対象として見るだけでなく、彼ら自身が支援の担い手となり活躍できる環境や機会を作っていくことが大切だと思うんです。これまで活動に参加した子たち同士でつながって一緒に仕事をしたり、交流したり、自分でプロジェクトをやりたがっていたり…それぞれが自分のキャリアを作っていく段階にきているので、キャリアや仕事、次の未来につながる活動としてkuriyaという団体を使ってほしいですね」。
“外国ルーツの若者たち=未来の可能性”と捉え、長年若者たちに寄り添ってきたkuriya、そして海老原さん。「日本で育ってよかった」と彼らが思える社会に向けて、これからは一緒に歩みを進めていきます。

*本記事は取材時点での情報をもとに作成しています。最新の情報については、団体へ直接お問い合わせください。