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コミュニティカフェみんかふぇ(特定非営利活動法人パルシック) ~ グローバルな活動を生かして、葛飾で国籍や世代を超えた「居場所」づくり ~

みんかふぇ
左から、特定非営利活動法人パルシックの職員、吉浦諒子さんと小栗清香 (さやか) さん。
 

葛飾区白鳥で、子どもから高齢者、外国ルーツの人々まで、だれもが立ち寄りやすく、気軽に相談ができる“居場所”を目指す「みんかふぇ」は、特定非営利活動法人パルシック(PARCIC=PARC Interpeoples’ Cooperation)が2018年6月にオープンしたコミュニティカフェです。国際協力NGOとして主に海外で活動してきたパルシックが運営するこのカフェでは、子ども食堂やフードパントリー、異文化交流イベントなど様々な取り組みを行いながら、フェアトレードのオーガニックコーヒーや紅茶、お菓子なども手ごろな値段で提供・販売されています。それぞれパルシックの職員であり、みんかふぇをサポートする小栗清香 (さやか) さん、みんかふぇを運営する吉浦諒子さんのお二人にお話をうかがいました。

 

民際 (みんさい) 協力」を軸に幅広い活動を展開

みんかふぇ
民際 (みんさい) 協力事業の展開は世界7か国に及びます。さらに、2011年より日本国内での活動が加わりました。
 

パルシック(PARCIC=PARC Interpeoples’ Cooperation)は、母体であるNGOアジア太平洋資料センター(PARC)から独立する形で、2008年に設立されました。現地の方たちと一緒に行う「民際協力事業」「フェアトレード事業」を、独立運動直後から長くかかわってきた東ティモールや、スリランカ、マレーシア、パレスチナ等で行ってきましたが、近年もレバノンでのシリア難民支援など活動地域を広げ、現在は7か国に及んでいます。「民際 (みんさい) 協力」とは、国と国での「国際協力」ではなく、国家の壁を越えた市民と市民の協力のことを指し、現地の市民とお互いに対等な立場での交易や交流を通じて世界を良くしていく、というパルシックの想いが込められています。
「パルシックにとって一つの転機になったのが、2011年の東日本 (にほん) 大震災だったのではないかと思います」と話すのは小栗さん。当時、NGOは海外、NPOは国内、というようにどこか活動が棲み分けられていましたが、震災後は国際協力NGOが国内の災害にも取り組むようになった転換期だったといいます。海外の事業地に届いた震災の情報には、現地の人からも「どうするんだ、何かするんだろう」と心配されたそうです。その後パルシックも、宮城県石巻市の復興支援を展開するなど日本国内での活動も行うようになりました。

 

海外の現場での気づきから生まれた、日本での“居場所”としてのコミュニティスペース

みんかふぇ
パルシックでは海外ルーツ事業と「みんかふぇ」事業を担当する小栗さん。
 

2015年、厚生労働省の国民生活基礎調査で明らかとなった、日本の18歳未満の子どもの13.9%(=子どもの7人に1人)が貧困状態にあるという事実は、日本国内でもたいへんインパクトのあるニュースとして受け止められました。東ティモールから帰国しそのニュースを目にした駐在員の発案で「みんかふぇ」の構想が生まれたといいます。
「日本より経済的に貧しい東ティモールでさえ、ご飯が食べられない子どもがいたら近所や親せき、周りにいる大人たちが助ける支え合いのネットワークがあるのに、なぜ日本では毎日一人でご飯を食べなければいけない子どもがいるのか。日本には『経済的な貧しさ』とともに、人と人の『関係性の貧しさ』があるのではないか。地域で支え合うネットワークや、困ったことがあったときに頼れるような場所が必要ではないか、一人の駐在員のそんな気づきから“居場所”としてのコミュニティスペースの構想が生まれました」と小栗さんは話します。しかし、日本国内の貧困対策、居場所づくりについては十分なノウハウを持っていないパルシックがやるべきことなのか、という議論も当時はあったようです。
「海外の事業地で人と人とが繋がることの大切さを学んできたパルシックだからこそ、日本でできることがあるのではないかと、という結論になりました。地域の人たちが気軽に集える場所、困ったときには何か相談できるような場所になることを目指して、コミュニティカフェづくりをスタートさせました」。

 

コロナ禍で形を変えながら、必要な人に必要なサポートを

みんかふぇ
フードパントリーを活用している方たちからのメッセージ。みんかふぇは子ども食堂やフードパントリーのほか、各種イベントが開催されています。
 

「『みんかふぇ』の名前の由来は『みんなのカフェ』と、パルシックが行う民際 (みんさい) 協力の『みん』で、地域の人たちが集まったり、支えあったりできる場所に、という想いが込められています」と吉浦さん。
コミュニティカフェの場所として選ばれたのは葛飾区でした。当時いくつかの子ども食堂が「かつしか子ども食堂・居場所づくりネットワーク」を発足させたタイミングで、みんかふぇもネットワークに参加しノウハウを学びながらのスタートとなったといいます。およそ1年の準備期間を経て2018年にオープンした「みんかふぇ」でしたが、軌道にのりかけたところで、コロナ禍に見舞われてしまいます。「子ども食堂の実施が難しくなってからは、お弁当配布、フードパントリー、と形を変えながら、つながりのある (かた) に食べ物をお届けできるよう模索してきました」。
フードパントリーへの登録は100世帯を超えるといいますが、子どもの有無や所得などで制限を設けることは特にしていないそうです。「本人が困っているかどうかを大切にしているので、利用のハードルを上げることは今までもずっとしていないんです」。
2022年の9月までは週に1度のフードパントリーで毎回およそ50世帯に食材を配布していましたが、withコロナ体制を考える際、子ども食堂や居場所づくりを活動のメインとしながらフードパントリーをいつまで続けていくか、という議論もあったといいます。しかし、必要とする方がいて、ボランティアの (かた) からも「みんかふぇとしてこうした活動を続けてほしい」という声もあったことから、できる範囲で続けていくことを決断したといいます。

 

イベントを通じた、相談できる関係性づくり

みんかふぇ
駅前のネパール料理屋の店主を招いてネパール料理を作ったり、普段はなかなか出会えない「人」、そして「文化」の出会いの場にもなっているといいます。
 

コロナ禍で状況が変化する中、2022年からパルシックが新たに開始したのが、日本で暮らす外国籍や海外にルーツを持つ人たちへの支援です。
「文書の作成や情報へのアクセス、日本語の問題などコロナ禍での状況の変化によるしわ寄せが外国人にいっていると考えました。そういったところでパルシックが何かお手伝いできるのではないかと思ったんです」と小栗さん。
在住外国人のお困りごとを聞くため、区内の各国料理店を訪問したり、「みんかふぇ」で相談カフェを月2回開催したりしたといいますが、当初はなかなか悩みを打ち明けてもらえなかったといいます。
「自分がその立場だったら、と考えたんです。全然知らない人に相談したいか?と。最初に頼りにするのは友だちや知り合い。急に『相談受けます』と近づいて行っても、頼ってもらえません。つながりの中でセーフティーネットをつくっていくという、みんかふぇの目指すところに立ち返り、まずは知り合って相談できる関係性をつくることから始めよう、という結論になりました」。
まずはイベントでの交流を通じて知り合い、ここが居場所になったり、知り合った人にちょっと悩みを打ち明けたりできるようにする、というのが今の方向性だといい、現在第1、第3の土曜日に開催している「ぐろーばるかふぇ」では、葛飾周辺在住の海外ルーツの (かた) と日本人とが交流しながら、相談にも対応できるよう活動を続けています。

 

貧困化がすすむ日本で、地域で見守りができる関係性の再構築

みんかふぇ
「みんかふぇ」担当の吉浦さんは、実は「みんかふぇ」のある葛飾生まれ。一度離れたこの町に再び仕事で戻ることになり、不思議な縁を感じたといいます。以前はJICAの青年海外協力隊でアフリカのベナンで活動していましたが、コロナ禍により帰国後、『地域の人と触れ合える仕事を』と「みんかふぇ」へ。
 

子どもの貧困がきっかけの発案だったこともあり、初めは子ども食堂が活動の中心となっていましたが、運営するなかで、地域に一人で住むお年寄りやシングルマザー、外国にルーツをもつ人…「みんかふぇ」を訪れる利用者の幅は少しずつ広がっています。80~100名弱の登録があるというボランティアの方々がイベントなどの活動に運営スタッフとして関わってくれたり、常連のお客さまが手作りのランプを飾りに来てくれたり、と「みんかふぇ」が少しずつ地域に浸透しながら、地域の皆さんによってつくられる場にもなっています。
「これまでみんかふぇを利用していた子ども、高齢者、シングルマザーなど、日本人と、海外ルーツの (かた) 、分けることなく“みんかふぇの地域に住む人”として一緒に支え合うネットワークを作っていくのが今後の目標です」と小栗さん。「いろいろな人がここにいて、人と情報の拠点、ハブみたいな場所になるといいなと思いますね」と吉浦さん。
「隣に住んでいる人を知らない」「地域に知り合いがいない」、そんなこともよく耳にするようになり地域のつながりの希薄化が叫ばれる中で、人と人が出会い、知り合い、つながっていく”居場所”。そんな「みんかふぇ」で飲んだコーヒーは、とてもほっとする味でした。

 

コミュニティカフェ みんかふぇ

東京都葛飾区白鳥 (しらとり) 4-1-24 白鳥 (しらとり) ダイヤモンドマンション1F
TEL: 070-2156-9179
HP: https://mincafe.parcic.org/

*本記事は取材時点での情報をもとに作成しています。最新の情報については、団体へ直接お問い合わせください。