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NPO法人メタノイア ~ 日本全国に子どものための日本語教室を広げたい ~

NPO法人メタノイア(以下メタノイア)は、「世界につながる子どもと社会をつなぐ」をミッションに掲げ、外国にルーツを持つ子どもたちの教育活動を行う団体です。2021年4月に設立された新しい団体ながら、足立区で子どもの日本語教室を多拠点展開するほか、母語教室、プレスクール、オンラインの日本語教室など、目覚ましい勢いで活動の幅を広げています。日本語指導が必要な児童は全国におよそ6万人いるといわれています。メタノイアでは、ビジネス的な手法を取り入れつつさまざまな可能性にチャレンジすることで、スピード感をもってこの社会課題を解決しようとしています。
愛知、岐阜、東京で多くの外国ルーツの子どもたちと出会う

メタノイアの代表理事である山田拓路さんは、いくつもの地域で外国ルーツの子どもたちの教育に関わってきました。
「大学卒業後、愛知県にあるフィリピン学校に就職しました。さまざまな事情で日本に暮らすための在留資格を持たない子どもたちのための学校です。ここで4年間勤務するうちに、在留資格の問題で学校に行けない子や、学校に行っても日本語の問題で辞めてしまう子が数多くいることを知りました。その後、岐阜県に移り、フィリピンにルーツをもつ子どもたちを対象とした保育園を開設、不就学の子どものための日本語教室も作りました」。
岐阜県で5年を過ごしたのち、カナダ留学を経て東京へ移り住み、2019年に外国ルーツの子どもの支援で知られる「YSCグローバル・スクール」に入職。主にオンライン日本語教育のコーディネートを担当し、多くのノウハウを学んだそうです。こうして、外国ルーツの子どもたちの教育に関わる経験を積んだ山田さんは、2021年にメタノイアを設立しました。
「子どもの日本語教室」を多拠点で展開、オンライン教室もスタート

メタノイアが拠点としている足立区の外国籍住民の数は2022年4月現在で33,009人です。市区町村では全国で4番目に多く、区内には5~11歳の外国籍の子どもが1,840人住んでいます(2021年4月時点)。メタノイアは今、足立区内で3つの「子どもの日本語教室」を運営しています。「多いと思うかもしれませんが、各教室とも週1回の開催です。もっと多くの地域に出向いていき、そこに教室をつくって新しい子どもたちと出会いたい。日本語教室は、困りごとを見たり聞いたりして、次の支援につなげるきっかけとなる場なんです」。日本語教育や学校教育を受けられなかったことで、持って生まれた自分の能力を活かせない。そんな子どもをたくさん目にしてきた山田さん。「日本語教室の開催を通じて、子どもたちの可能性を広げたい」と話します。
メタノイアでは、まもなく子ども向けのオンラインの日本語教室も開講予定です。「子どもたち一人ひとりの要望やニーズは異なります。グループでは取りこぼされてしまう子も多いので、オンラインで学習支援を始めることにしました」。また、大人向けのオンラインの日本語教室も近くスタートするそうです。「子どもが成長するにつれ、日本語がわからない親との間に軋轢が生まれることがありますが、日本語で親子の会話ができればミスコミュニケーションのストレスを減らすことに繋がります。親が日本語を身につけ経済的に安定する仕事につければ、子どもがよりよい教育を受けられる可能性も広がります。子どもだけでなく、保護者の支援をすることはとても大切なんです」。
地域を限定せずに活動を広げていく

メタノイアの活動は地域を限定していません。5月には、埼玉県川口市の蕨駅近くにあるクルド人コミュニティの中で日本語教室を始めました。6月には東京都大田区でフィリピンルーツの子どもを主な対象とした母語教室を、また、岐阜県瑞穂市と各務原市では、子ども向けと大人向け、合わせて3つの日本語教室も始動しています。足立区で活動しながら地域を越えての教室運営ができるのはなぜか、山田さんにお聞きしました。
「全国には、地域に根を張りそこで必要とされている活動を続けている方たちがたくさんいらっしゃいます。その中には組織の運営にまで手が回らず、必要とされながら活動を広げることが困難な団体も数多くあります。メタノイアでは、そうした団体と連携して教室を共同開催する試みを進めています。資金調達や日本語教師の確保はメタノイアが、学習者の募集は地域を良く知る団体の方が担当する。川口市のクルド人コミュニティでの教室開催は、5年ほど前から休日に手弁当で活動を続けてきた『クルド日本語教室』の方たちとの連携で始まりました」。
ビジネスの力で社会問題を解決できるかチャレンジ

「メタノイアが助成金の申請の仕方や日本語教育のノウハウなど教室運営の手法をパッケージにして提供し、地域を良く知る団体と組んでそれぞれの独自性を活かした日本語教室を運営してもらう。各地から上がってきたノウハウをまとめ、また各団体に提供する。これを繰り返せば日本語教室運営の単価は低くなり、教室が広がるスピードは速くなるはずです。子ども食堂が各地で運営されるようになりましたが、子どもに日本語を教える教室も同じように全国に広がってほしいと願っています」。
山田さんのお話には、どこかビジネス的な目線が感じられます。「メタノイアはNPOの利点を活かしつつ、持ち出しのボランティアの活動をするだけではなく、ビジネスの力で社会課題を解決するソーシャルビジネスの手法を取り入れたいと考えています。これまでは助成金に頼って活動してきましたが、今後は参加者からお金をいただけるところではいただいて、より必要なところに回すということもしていくつもりです。オンラインの日本語教室はリアルな教室よりも広げやすいですし、有料にしてビジネスとして成り立つようにしたいと思っています。加えて、クラウドファンディングやマンスリーサポーターの募集など、戦略的なオンライン・ファンドレイジングにも挑戦する計画です。こうして多様な財源を組み合わせ、安定した財政基盤を築くことで、活動の持続可能性を担保したいと考えています」。
すべての子どもが教育につながれる社会に

「日本語指導が必要な児童は全国におよそ6万人といわれていますが、実際にはもっと多く、10万人に及ぶともいわれます。これから3~5年のうちにどれだけ子どものための日本語教室を増やすことができるか。スピードが大切です」と山田さんは話します。
「1990年代、労働力不足を背景に日系人を受け入れたときから、日本の移民社会は既に始まっています。けれども、言葉の壁・制度の壁・心の壁によって保育や教育につながれない子どもたちが日本にはまだまだいます。そうした子どもがいなくなる日を1日でも早く達成できるよう、これからもさまざまな可能性にチャレンジしていきます」。
他団体との連携やソーシャルビジネスの手法を取り入れるなど、柔軟な発想で活動の幅を広げているメタノイア。徒歩で、あるいは自転車で、気軽に通える日本語教室が全国に広がることは多くの人の願いです。
※メタノイアでは、7月からクラウドファンディングを実施します。記事の中で紹介した埼玉県川口市の「クルド日本語教室」を資金面でもサポートしたいと考えているそうです。
詳しくはこちらのページをご覧ください。
*本記事は取材時点での情報をもとに作成しています。最新の情報については、団体へ直接お問い合わせください。