クローズアップ
特定非営利活動法人 Mother’s Tree Japan ~ 在日外国人女性のお産や子育てをサポートする ~

女性にとって、妊娠・出産、子育ては、心にも体にも影響する大きな出来事です。ましてや異国で初産を経験する女性たちは、言葉や文化、習慣の違いもあり、さまざまな不安を抱えることになります。Mother’s Tree Japanは、そうした在日外国人女性たちに寄り添い、産前産後や子育てのサポートをしています。副理事長兼事務局長の坪野谷知美さんにお話をうかがいました。
保育士から、産前産後のセラピストへ

団体名の「Mother’s Tree Japan」は、誰にでも覚えやすい名前です。「木は1本あるだけで木陰をつくり、そこに動物たちがやって来ます。水を貯え、花を咲かせます。わたしたちの団体もいろいろな人が来て休んでいけるような、安心できる場所にしたいと考えました」名前の由来について、そう語る坪野谷さん。温かな名前のとおりの活動を実践しています。
坪野谷さんの前職は乳児保育の保育士です。そのころ友人の産後うつを目の当たりにしたことがきっかけで、産前産後のセラピストとしてサロンを始めます。施術をしながら、さまざまな悩みを聞いたり、赤ちゃんに対する指導などをするうちに、徐々にサロンを訪れる外国人女性が増えていきました。「『お産はどうでしたか』と聞くだけで、みなさん泣いてしまうんです。産前産後の精神的な不安に加え、文化や習慣の違いの中で子育てをしていることを知りました」
外国人だった経験があるから、気づくことがある

坪野谷さんはサロンでのこうした経験から「外国人女性を対象として、それぞれの文化や宗教、思いに寄り添いながら、安心・安全に産前産後を迎えられる環境をつくりたい」と、2020年にMother’s Tree Japanを設立します。一方で団体の設立には、自身の体験も大きく影響しているそうです。
理事長でもある坪野谷さんの父、坪野谷雅之さんの海外赴任により、5歳から中学生までを香港とイギリスで過ごした坪野谷さん。「わたしは子どものころケガや病気が多かったので、母が苦労していました。今思えば、中国語も英語も話せない母にとって、普段の買い物も病院の付き添いも本当に大変だったと思います。そうした母の姿と日本で暮らすアジアのお母さんたちの姿が重なるんです」
坪野谷さんたちが大切にしていることは、本人の意思を尊重すること。そして、言葉の理解を超えた、心の寄り添いを意識しているそうです。
本気で伝えたいことを指さしボードに

Mother’s Tree Japanでは、当事者目線の本当に必要なサポートを心掛けています。そうして開発したのが、お産に関するさまざまなツールです。「指差し お産ボード」は産前・産後のママ用と、産前・産後の病院用があります。イラスト付きで10言語(英語・中国語・タイ語・ミャンマー語・ベトナム語・ネパール語・タガログ語・スペイン語・ポルトガル語・インドネシア語)そろっています。イラストを指さすだけで、「破水しました」「乳房が張って痛いです」などを伝えられます。お産には日本語の教科書には出てこない言葉が数多く使われます。「お産ボードを活用することで、不安が少しでも解消できればうれしいです」と坪野谷さん。その他、8言語で展開している「指差し 産後検診・訪問ボード」や、お産に関して自分の意思を伝える「バースプランシート」もあります。ホームページから、誰でもダウンロードすることが可能です。
行政へ橋渡しするなど、お産や子育てに関するハブ的な存在に

さまざまな自治体が役立つツールや情報を出しているのに、そうしたものがあることがあまり知られていません。また知ったとしても、自分でダウンロードしてプリントするのは一苦労です。Mother’s Tree Japanでは、日本でのお産に役立つ母語の資料や情報をまとめ、直接手元に届ける「在日外国人ママ応援ギフトプロジェクト」を実施しています。指差しお産ボードなどの資料は、一点ずつ丁寧にラミネートしてから送ります。大切なものだとわかってもらうための工夫です。
「日本人ママなら当たり前に手に入れられる情報を、外国人ママにも届けたい。出産のスタートは、日本人も外国人も同じであってほしい(外国人ママも、日本人ママと同じレベルの情報をもっていてほしい)という思いから始めました。すべてのママが安心して新しい命を迎え、子育てできるようになることが私たちの願いです」そして、行政と民間をつなぐ、ハブ的な役割ができたらとも考えているそうです。「公的なサポートが必要と感じたときは行政につなぐ、ということもやっていきたいです。事務所のある豊島区では、Mother’s Tree Japanのパンフレットを妊娠の届け出に来た外国人に配布してもらっているんですよ」と、坪野谷さんが教えてくれました。
月に1回、母国語別の母親相談会を開催

コロナ禍でなかなか対面の活動ができないため、現在の活動の大半はオンラインによる「母国語母親相談会」です。月に1回、7言語(ベトナム語、ミャンマー語、タイ語、ネパール語、英語、インドネシア語、やさしい日本)での相談会が開催されています。助産師から直接話を聞くことができ、在日外国人スタッフが通訳に入るため、母国語で自由に質問することができます。
「外国人のママたちが自分たちの言葉や文化を大切にし、自尊心を持って子育てをしないと、子どもが母語も日本語もうまく使えないダブルリミテッドになってしまいます。お母さんが母国のことを自信もって話すことで、子どもたちは初めてアイデンティティを確認できるんです。わたしはお母さんたちに、母国の子守唄をうたってあげてと、できるだけ言うようにしています。日本語は子どもたちと一緒に「やさしい日本語」から覚えていけばいいのでは。多文化共生は外国人のためと思っている人が多いと思いますが、日本人のためにもなるということを知ってほしいです。さまざまな文化にふれることは、自分たちが豊かになるチャンスでもあります」と、坪野谷さん。Mother’s Tree Japanの活動は、これからますます必要とされるでしょう。そして、大きな木の下では、次の世代を担う子どももたちがすくすくと育っています。