クローズアップ
特定非営利活動法人 BHNテレコム支援協議会 ~誰もが必要な情報にアクセスできる世界へ~

事務局次長の平川芳宏さん(中央)
プロジェクトコーディネーターの内山智子さん(右)
広報担当の高橋真美さん(左)
*この記事は、東京都国際交流委員会が運営していたウェブサイトに掲載したものです。
5月のクローズアップでは、5月17日が「世界電気通信の日」であることにちなみ、情報通信技術を活用した国際協力活動を行う特定非営利活動法人(認定NPO法人) BHNテレコム支援協議会をご紹介します。BHNとは「Basic Human Needs」の略で、“衣・食・住”など人間が人間らしく生きていくために必要とされるもののこと。BHNテレコム支援協議会では、情報通信もBHNの構成要素のひとつであるという信念のもとに、情報通信技術にアクセスできる人とできない人の間に生じる格差=デジタルデバイド(情報格差)のない世界を目指して、途上国でさまざまな支援を行っています。今回は、事務局次長の平川芳宏さんとプロジェクトコーディネーターの内山智子さんに、団体の活動概要と現在進行中のバングラデシュにおけるプロジェクトについてお話を伺いました。
貴団体の設立の経緯をお聞かせください。

平川さん BHNテレコム支援協議会(以下BHN)設立のきっかけとなったのは、1986年に起きたチェルノブイリ原発事故です。放射線の影響などの医療データを収集するプロジェクトをWHO(世界保健機関)が行っていたのですが、現地の医療機関からモスクワまでの通信回線が不十分で、なかなか満足できるだけの情報を入手することができずにいました。そこで日本に支援が求められ、情報通信関連の企業や大学が共同で対応に当たることとなり、その受け皿となる団体として設立されたのがBHNです。1992年に任意団体としてスタートし、1999年にNPO法人格を取得しました。以来、誰もが必要な情報にアクセスできる世界を目指し、「生活向上のための支援」「緊急時の人道支援」「人を育てる支援」の3つを柱として、情報通信技術を活用した支援活動を行っています。
BHNの3つの活動の柱について教えてください。

平川さん 「生活向上のための支援」は「テレコム人道支援」とも呼ばれており、途上国の人々、コミュニティ、公共機関に対し、情報通信技術を活用した支援を行い、デジタルデバイドを解消して生活を向上させることを目指します。医療連絡網や遠隔医療診断システムの構築、コミュニティラジオを通じた災害対応能力の強化、ソーラー発電による電気の供給といった支援をこれまで実施してきました。
「緊急時の人道支援」では、大規模自然災害の被災者や紛争による難民が必要かつ正しい情報を迅速に入手できるよう、安否確認のための無料電話サービスの提供やコミュニティラジオ局の復興支援といった活動を行っています。最近の支援先としては、2013年に大型台風の直撃を受けたフィリピンと2015年に大地震が発生したネパールが挙げられます。また、東日本大震災の際には初めて国内で支援を実施、熊本被災者支援に関しても、ニーズ調査を始めました。
そして「人を育てる支援」では、主にアジア諸国の電気通信関係者を対象として人材育成を行っています。1998年から毎年実施している「BHN人材育成プログラム」には、これまでに13カ国から138名が参加しました。また、このほかに国際機関から委託を受けた研修も、年数回実施しています。


東日本大震災ではインターネット回線設置などの支援を行いました。(左)
2015年11月にマレーシアで開催された「第18回前期BHN人材育成プログラム」関係者の皆さん。(右)
©BHN
「生活向上のための支援」について具体的な事例をお聞かせください。

内山さん バングラデシュのハティア島で実施している支援についてお話します。人口約35万人、北の本島と南のニジュンディップ島という2つの島からなるハティア島は、毎年サイクロンによる大きな被害を受けており、国の「サイクロン高度危険区域」に指定されています。それにも関わらず、島の災害警報の伝達手段は、地元のボランティアがスピーカーを持って走り回るという昔ながらの方法のままでした。また、サイクロンのときに避難するシェルターが島内に設置されているものの、老朽化が進んでいる上に人口に対して数も足りていません。サイクロンが来ても、多くの住民が家畜や家財を守ろうと家に留まってしまうことも、人的被害を大きくする一因となっています。そこでBHNでは、ハティア島の人たちがコミュニティラジオを通じて防災能力を向上させ、災害時に自らの判断で避難することが可能になるよう支援を始めました。それが2013年3月から始まった「コミュニティラジオによる災害情報提供を活用した地域住民災害対応能力強化プロジェクト」です。JICAの資金を得たこのプロジェクトの実施期間は約4年半、ハティア島で長年活動している地元NGOとともに事業を実施しています。
なぜコミュニティラジオが防災能力の向上に有効なのでしょうか。

内山さん ハティア島では情報を得る手段が乏しいことに加え、島独自の方言があるため、ほとんどの人が標準ベンガル語のテレビやラジオ放送を聞いても、その内容を理解できません。その点コミュニティラジオは、地元の人々が理解できる言葉で放送することが可能なので、有効な情報伝達手段となり得るのです。
ハティア島でプロジェクトを開始してから放送の許可を得るまでに予想より時間がかかりましたが、2015年11月、地域に特化した災害情報などを提供するコミュニティラジオ局、『ラジオ・シャゴールディップ』が開局しました。現在の放送時間は、1日2回、計6時間。番組は約80人のボランティアによって制作されています。


2015年11月に開局した「ラジオ・シャゴールディップ」のスタジオと番組制作ボランティアのみなさん
©BHN
ラジオ局が開局するまではどんな活動をされていたのですか。

内山さん ラジオを持っている人がほとんどいないので、まずはラジオの役割について地域住民に知ってもらう必要がありました。ラジオを通じて、この地域の言葉で、災害時の対応についてはもちろん、農業のこと、子どもの教育のこと、保健衛生のことなど、この地域の皆さんにとって必要な情報を流すのですよ、と説明して回ったのです。また、ビデオやスライドを使ってサイクロンについて学んだり、シェルターへの避難の重要性を改めて呼びかけたり、減災のために何ができるかを伝える活動を行ってきました。
そして、放送のスタートを受けて始めたのが、各コミュニティへのリスナーズクラブの設置です。リスナーズクラブはみんなで集まってラジオを聴くだけでなく、その内容について話し合うなど、社交場としての役割も果たしています。そもそも貧しい島民たちには情報を得る手段が不足していたのですが、中でもイスラム圏のため外出の機会が限られている女性たちは、夫や父親などを介してしか情報を得ることができませんでした。こうした女性たちが自分たちで情報を得られるというところにも、ラジオの役割を感じますね。


災害時の対応やラジオの役割を地域住民に説明、防災教育も実施してきました。
©BHN
今後の取組みについて教えてください。

内山さん ハティア島内の9つの行政区(ユニオン)で、1ユニオンにつき3カ所ずつ、計27カ所の地域防災計画を作成しようと動き始めています。地域の人たちと話し合いながら災害時の行動や役割分担を考え、さらにみんなで実際にその地域を歩きながら防災マップを作成し、その後住民を集めて避難訓練を実施する予定です。リスナーズクラブも150カ所まで増やし、ラジオを通じた地域情報の提供とともに防災・減災等の知識の向上を目指します。島民がラジオ局からの情報を得ることで、災害が起きた時に自分たちで避難することができるようになって欲しいと願っています。


リスナーズクラブに集まった女性たちは、手仕事をしながらラジオを聴きます。(左)
地域の防災マップの作成も進められています。(右)
©BHN