クローズアップ

特定非営利活動法人 ウォーターエイドジャパン ~すべての人、すべての地域に安全な水と衛生環境を届けたい~

c特定非営利活動法人ウォーターエイドジャパン

 

特定非営利活動法人ウォーターエイドジャパン
事務局長 高橋郁さん

*この記事は、東京都国際交流委員会が運営していたウェブサイトに掲載したものです。

3月のクローズアップでは、特定非営利活動法人 ウォーターエイドジャパンをご紹介します。ウォーターエイドは、途上国で水と衛生環境の改善に取り組む国際NGOです。世界では6億5,000万人の人々が安全な水を使えず、23億人がトイレのない環境で暮らしています。安全な水や衛生設備を利用できない人々は、貧困と病気の悪循環から抜け出すことができません。こうした人々の暮らしを変えていくために、ウォーターエイドでは給水設備やトイレの設置を進め、改善された生活環境を持続していけるよう、現地のパートナーと協力しながら活動を行っています。今回は、ウォーターエイドジャパン事務局長の高橋郁さんに、現地での活動の様子や世界の水の現状についてお話を伺いました。

Q. ウォーターエイドが設立された経緯をお聞かせください。

A. ウォーターエイドは、1981年にイギリスで誕生しました。きっかけとなったのは、国連が1981~1991年を「国際飲料水の供給と衛生の10年」と定めたこと。このときイギリスでも途上国の人たちに安全な水を届ける活動をしようと、イギリス水道局の人たちが行った募金で集まったお金によって設立されたのです。現在は、イギリス、オーストラリア、アメリカ、スウェーデン、日本、カナダの6カ国にウォーターエイドがあり、アフリカ・アジア・中央アメリカ・太平洋地域の31カ国で支援プログラムを行っています。日本でウォーターエイドの活動が始まったのは2012年で、翌年 (よくとし) にNPO法人になりました。水と衛生設備の分野の二国間援助において、日本は世界最大の援助供与国です。その日本から世界に向けて「水と衛生の問題にしっかり取組んでいこう」と発信すれば、説得力も影響力もあるはず。そう考え、日本にもウォーターエイドの拠点が置かれることになったのです。

Q. ウォーターエイドのミッションについて教えてください。

A. ウォーターエイドのミッションは、貧しい国、貧しいコミュニティで社会的に取り残されている人たちに安全な水を届け、衛生設備と衛生習慣を改善することによって、その人たちの暮らしを変えていくことです。ウォーターエイドの活動は、現地で採用したスタッフと、その地域のNGO、企業といった現地パートナーに支えられています。というのも、水やトイレは生活に密着した問題ですし、より大きなニーズを抱えているのは女性、高齢者、障がい者など、外国人がいきなり対話をするのは難しい相手であることがほとんどです。その土地の文化や習慣がわかっている人が現場に入って活動した方が、より確実にニーズを汲み取ることができるのです。

cPhoto:WaterAid/Mani Karmacharya

Photo: WaterAid/Mani Karmacharya

cPhoto:WaterAid/Ernest Randriarimalala

Photo: WaterAid/Ernest Randriarimalala

蛇口から流れ出る水を見て喜ぶ子供たち(左)。右はトイレを掃除する少女たち。
トイレの大切さや、自分たちの手できちんと管理していくことの大切さも学んでいます。

Q. 具体的な活動内容をお聞かせください。

A. まずは安全な水が利用できるようにするために、給水設備の設置を行っています。たとえばエチオピアのある村では、女性たちがポリタンクを担いで山の上まで湧き水を汲みに行っていたのですが、その湧き水を囲み、そこからパイプをつないで村まで水を引いて、水を取るための蛇口を設置するというプロジェクトを行いました。実際に設置の作業をしたのは、すべて村の人たちです。自分たちで作った設備ならば、構造も理解できますし、自分たちの手できちんと維持管理しようという気持ちにもなりますよね。そして、こうして村に水が引かれると、水汲みの必要がなくなったことで、女性が家事や育児などにより時間を使えるようになったり、子どもが学校に通えるようになったりと、生活が大きく変化していくんです。日々の暮らしで精一杯の人たちに、水をきっかけとして生活は変えられるということを実感してもらえたらと思っています。また、都市部のスラムなどでは、きれいな水を使うのは権利であることを住民たちに理解してもらい、行政に既存の水道設備をスラムまで広げるよう交渉するためのバックアップをすることもあります。

 

cPhoto:WaterAid/Mustafah Abdulaziz

Photo: WaterAid/GMB Akash/Panos

急な斜面を上り () りして、1日に4回水汲みに行く妊婦さん

cPhoto:WaterAid/GMB Akash/Panos

Photo: WaterAid/GMB Akash/Panos

乾期には干上がってしまう土地を10~15キロ歩いて水汲みに行く女性たち

 

Q. 衛生設備と衛生習慣の改善の取組みについても教えてください。

A. いくらきれいな水が引かれても、トイレが家になく野外で排泄していると水源が汚れてしまい、それによって病気になるリスクが高まります。そこで必要になってくるのが、トイレの普及や手洗いの習慣を広めていく活動です。けれども野外でのびのびと用を足していた人、特に男性たちは、狭く閉鎖的な場所で排泄することに抵抗を感じるようで、トイレを作ってもなかなか使ってもらえません。そこでワークショップを開催して、村のどこで誰が排泄しているか地図を見ながら確認し、実際に歩いて回るなどして、いかに村が不衛生であるかを改めて認識してもらいます。その上で、「こうした排泄物が食べ物などを通じて自分たちの体にも悪影響を与えますよ」と示すと、はじめて村の人たちが「とりあえず排泄物を固めて触れることがないようにふたをしよう」というところまで進んでくれるのです。トイレの普及というのはなかなか難しいのですが、こうした形で進めています。

 

 

 

cPhoto:WaterAid/Anna Kari

Photo: WaterAid/Anna Kari

川の上に作られたトイレで排泄しています。潮が満ちると川の水は排泄物とともに家の中まで流れ込み、多くの人が病気で苦しむことになります。

cPhoto:WaterAid/Poulomi Basu

Photo: WaterAid/Poulomi Basu

野外排泄や排水設備がないために汚染された水たまりの広がるスラム。

 

Q. 世界の水は今、どのような状況にあるのでしょうか。

A.不足 (ぶそく) は途上国の課題だと思いがちですが、実は先進国でも進んでいます。干ばつに悩むオーストラリアでは、庭の水まきをめぐって殺人事件が起きたことがありますし、アメリカでも、グレートプレーンズなどで行われているセンターピボットという灌漑 (かんがい) 農法による地下水の枯渇が問題になっています。また、今後は気候変動によって降水量が不安定になることも予想され、「水があるのが当たり前」ではない状態が進んでいくのではないでしょうか。これは本当に深刻な問題ですし、地球上の水はつながっているわけですから、他人事 (ひとごと) と思わずきちんと水に関心を持つことが大事だと思います。

Q. きれいで安全な水に恵まれている日本人として、何かすべきことはあるでしょうか。

A. 日本で暮らしていると水が十分足りているように思えますが、私たちの食べ物や衣類は外国から来ているものが多く、その製造過程でそれぞれの国の水を使って作られています。エチオピア産のコーヒー1 (ぱい) には、コーヒー豆を栽培、加工する過程で約200リットルのエチオピアの水が使われており、オーストリア産の一人前 (いちにんまえ) のステーキには、その牛の飼育のために給水車1、2台分ものオーストリアの水が使われています。私たちの生活は、ほかの国の水に依存して成り立っているのです。しかも、それらの国に水がふんだんにあるとは限らず、そこに住んでいる人たちはきれいな水を利用できていないかもしれないことに、私たちはもっと関心を寄せる必要があると思います。

Q. 今後の展開について教えてください。

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A. ウォーターエイドでは、2030年までに、すべての人がすべての地域で安全で清潔な水、トイレ、衛生環境を手に入れることを目指しています。もちろん私たちだけですべての地域を網羅するのは無理なので、ウォーターエイドの支援によってある地域できれいな水を使えるようになったら、それをモデルケースとして政府などに提言し、広く展開してもらうというアプローチを考えています。ウォーターエイドジャパンとしても、企業やNGOと連携し、パートナーシップを強化しながら、この目標の達成に取り組んでいきたいと思います。また、途上国の水や衛生の状況について、日本のみなさんにもっと関心を持ってもらえるように情報発信していきたいです。