クローズアップ

特定非営利活動法人 緑のサヘル ~砂漠化が進むアフリカ・サヘル地域で住民の生活に根ざした支援を~

©緑のサヘル

 

緑のサヘル 代表理事 岡本敏樹さん

*この記事は、東京都国際交流委員会が運営していたウェブサイトに掲載したものです。

12月のクローズアップでは、緑のサヘルをご紹介します。緑のサヘルは、アフリカで環境保全に取り組んでいるNGOです。西アフリカのサヘル地域では、乾燥化と土地の荒廃が進む“砂漠化”によって、現地の人々の生活が危機に直面しています。緑のサヘルは、特に支援の手が届きにくいサヘル地域諸国の内陸部で、住民生活の安定と地域環境の回復・保全を目指し、四半世紀にわたって支援活動を行ってきました。砂漠化がもたらすさまざまな問題に対し、現地の人々とともにどのような取組みを進めているのか、代表理事の岡本敏樹さんにお話を伺いました。

Q. 緑のサヘルが設立された経緯をお聞かせください。

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砂漠化が進み、森林の恵みを失い、慢性的な食糧不足 (ぶそく) に苦しむサヘル地帯は「飢餓ベルト」とも
呼ばれます。

A. 緑のサヘルは1991年、砂漠化の脅威にさらされているアフリカのサヘル地域に住む人々を支援するため、有志によって設立されました。当時、エチオピアやサヘル地域で大規模な飢饉が発生しており、その報道を目にした前代表が現地の状況を憂い、「何かできることはないか」と立ち上げたのです。最初にプロジェクトを始めたのはチャド共和国でした。活動を始めるにあたって調査を行った国々の中で、最も大変な状況にあると判断したのがチャドだったのです。また、チャドには日本からの支援が入っていないこと、サヘル地域の砂漠化の象徴として取り上げられるのが縮小の一途をたどるチャド湖であることなども踏まえ、支援を行うことになりました。1996年からはブルキナファソでも活動を開始しました。当時のブルキナファソもチャド同様、日本から支援の手が伸びていなかったため、活動地域として適当だと判断したのです。さらに2006年には、他団体のプロジェクトに協力するという形で、タンザニアでも活動を行いました。現在は治安上の理由でチャドへの入国が難しくなったため、ブルキナファソのみで活動しています。

 

Q. サヘル地域の砂漠化により、どのような問題が発生しているのか教えてください。

A. 砂漠化というのは砂漠が拡大することではなく、土地が劣化して、植物が育ちにくい土地が広がることを指します。そういった土地がどのくらいのスピードで進んでいるのか、正確なところは不明です。砂漠化が進んでいるかどうかの判断は木や林を見るだけではわからず、そこに暮らす住民の生活がどれくらい大変になっているかという観点で判断する必要があります。砂漠化が進むと農産物の収穫量が落ち、食糧不足 (ぶそく) になります。不足分は買わなければならないので、より多くの現金収入が必要になります。砂漠化は、そういった現地の住民たちの生活の悪化という形で顕在化してくるのです。

 

 

 

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砂漠化の様子。浸食により土地の荒廃が進んでいます。
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土地の劣化による地力の低下は、作物の立ち枯れにつながります。
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Q. 緑のサヘルでは、砂漠化に対しどのような取組みを行っているのでしょうか。

A. 既に砂漠化してしまったところを元に戻すのは容易なことではありません。私たちが活動しているのは、「土地の劣化が進み、住民の生活が悪化しつつあるが、まだ予防の範囲内」という地域です。今以上の植生の弱体化を防ぐために、土地の整備を進めたり、植林をしたり、保護区を設置したりしています。また、現地の住民たちに、土地や森林の変化に合わせてやり方を変えていかなければ、生活が困難になっていく一方だということを意識してもらう必要もあります。今までの生活のやり方を変えるには時間がかかります。しかし、土地の劣化は今だけの問題ではなく、子どもや孫というこの先の世代の問題でもあるのです。そのため、私たちは木を植えるだけでなく、農業分野や現金収入といった分野の活動も行っています。

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チャドの植生保護区1999年(左)と2002年(右)の様子。
プロジェクトを実施する前と後では大きく変化しています。
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Q. 現地の人々の生活の安定に向けた取組みについて教えてください。

A. 住民にとって最も切実な食糧の問題に関しては、栽培地の浸食の抑制のほか、収穫量が増える技術を広めることで土地の生産性を上げるという取組みをしています。また、現金収入を得る手段として、女性たちが行っている家畜や農産物の販売などでより収益を上げる工夫を提案しています。たとえば自生しているシアの木の実を絞って油にしたシアバターは、そのまま売るのではなく石けんに加工すれば、商品価値が上がり収益がアップします。搾油機を導入したことで、規模も大きくなりました。

 

 

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ディゲット(石堤)を設置して栽培地の浸食を防止しています。©緑のサヘル
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現金収入アップのため、シアバターを石けんに加工しています。©緑のサヘル

 

Q. 緑のサヘルの活動は地域に根づき、地域住民の手で継続されていくでしょうか。

A. これは国際協力や支援に携わるどの団体も課題としていることでしょうね。支援団体のプロジェクトの実施期間が終了した (あと) も、地域の住民が活動を継続していくことが理想ですが、現実にはうまくいかないところも少なくありません。緑のサヘルでは、プロジェクトは問題を解決するためだけに実施するものではなく、住民にとって“刺激”となるものであるべきだと考えています。現地の人はただ困っているだけではなく、アイデアを持っていて、やってみたいこと、あるいは実際にやろうとしたけれどうまくできなかったことがあるものです。そういった話を取り込んでプロジェクトを組み立てていけば、住民の希望に沿った活動が行えます。そして、過去の試みがうまくいかなかった理由が技術的なことであれば、講習会を開いて技術を身につけてもらうとか、資金の問題ならば、村や組合の金庫のお金の使い道などをサポートし、私たちの活動が終わった (あと) も彼らのやりやすい形で継続できるような素地を作るのです。

 

 

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堆肥の作製方法など、さまざまな技術を身につけてもらいます。©緑のサヘル
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現地語で行われる座学の講習会の様子。
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Q. 今後予定されている活動や新たな取組みがあればお聞かせください。

A. 女性を対象とした活動を本格的に始めたいと考えています。村落開発、特に農業分野で支援を行う場合、つい視点が男性に向きがちですが、実際には女性も農作業を手伝いますし、現金収入の分野を主に担当しているのは女性たちです。不足する穀物やその他の食材を購入する以外にも、医薬品代や子どもの学費など、現金を必要とする機会は増えており、その分女性の役割も増してきました。現地の女性はとても元気で、私はいつも圧倒されます(笑)。彼女たちが関わる家畜の飼育販売や搾油などについて、生産性を上げるなどの支援をしていければと思っています。

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主食の確保以外は女性がやりくりしており、
家畜の飼育販売(左)、石鹸作り(右)などは女性の仕事です。
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Q. 遠いアフリカのことを身近な問題として捉えるには、どうしたらいいと思われますか。

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A. 今日、明日の食事に困る人たちは、日本国内にもたくさんいます。それと同じことが見知らぬ国でも起きているという事実を、知ろうとする姿勢があるかどうかというところですよね。それは関心を持つというより、視野を広げるということではないでしょうか。たとえば、労働格差といった問題も日本だけで起こっているわけではなく、それを切り口として調べる範囲をどんどん広げていけば、アフリカにもつながっていきます。国際協力、国際支援という入口に限定せず、自分が関心のあるジャンルからアプローチしてもらえればいいと思います。