クローズアップ
公益財団法人 国際開発救援財団(略称/FIDRファイダー) ~地域に根差した支援で、開発途上国の子どもたちの未来をひらく~
公益財団法人国際開発救援財団
支援事業部長の小山直行さん
*この記事は、東京都国際交流委員会が運営していたウェブサイトに掲載したものです。
10月のクローズアップでは、公益財団法人国際開発救援財団(略称/FIDRファイダー)をご紹介します。
FIDRは、開発途上国の人々が貧困から脱し自立的に発展していくことを目指す国際協力援助事業と、日本を含むアジアの国々で自然災害に見舞われた人々への支援を行う緊急援助事業を実施している国際協力NGOです。FIDRの活動の特色は、現地の人々が抱える問題を多角的な視点でとらえ、分野を絞り込むことなく、その地域で最も必要とされている支援を行うこと。今回は、カンボジアとベトナムで行っているプロジェクトを中心に、支援事業部長の小山直行さんにお話を伺いました。
FIDRの設立の経緯と、今日までの歩みをお聞かせください。

FIDRが誕生したのは1990年4月です。アフリカの飢饉など国際的な問題に人々の関心が向き始めた時代に、開発途上国において日本ならではのきめ細かい支援を実施することを目指し、山崎製パン株式会社の創業者である飯島藤十郎氏による寄付を主な基本財産として発足しました。当初は、日本をベースに活動する国際協力NGOへの助成と、他団体との共同で自然災害に対する緊急援助を行っていましたが、次第にFIDR自らが実施する国際協力援助事業のプロジェクトが活動の中心となっていきました。1996年には初の海外事務所をカンボジアに開設、その2年後にはベトナムに、2012年にはネパールにも事務所を設置しました。国内では東京の本部事務所のほか、東日本大震災の復興支援を行っている岩手県山田町にも活動事務所を設けています。
FIDRの国際協力援助事業の特色を教えてください。

開発途上国ではいくつもの問題が複雑に絡み合っているため、「教育」「保健」といったひとつの分野だけを支援しても、貧困を解決することはできません。そこでFIDRでは、まず、その国や地域を全体的に見て何が課題なのかを把握し、その上で自分たちに何ができるのかを考えます。結果として、複数の分野を組み合わせてひとつのプロジェクトを作るケースも珍しくなく、それがFIDRの活動の特色にもなっています。
カンボジアではどのような支援を行っているのですか。

FIDRが1996年から取り組んできたのは、これまでカンボジアでは確立されていなかった「小児外科」という医療分野を立ち上げるプロジェクトで、赤ちゃんや幼い子どもの診断・治療ができる外科医師と看護師、麻酔スタッフを育成し、小児外科を全国に広げていくことを目指しています。また、カンボジアの小児病院では、適切な給食を提供するための支援も行っています。カンボジアでは病院の給食が患者の治療の一環として捉えられておらず、1日1食か2食、それもご飯だけでおかずはなしというのが一般的です。そこでFIDRが関わっている病院で、患者の子どもたちに1日3食、栄養バランスの取れた給食を提供するしくみを作りました。カンボジアで活動している団体は数多くありますが、小児外科支援や病院給食支援といったプロジェクトは、先行事例がほとんどない取組みだと思います。


カンボジアに小児外科という医療分野をつくりあげ、さらに病院給食の改善にも取り組んでいます。
©FIDR
支援が向けられていなかった分野や地域でプロジェクトを実施されるのですね。

はい。ベトナム中部も支援の比較的手薄な地域ですが、FIDRは中部ダナンに置いた事務所を拠点として、山岳地域に暮らす少数民族などへの支援活動を行っています。2001年から開始したクァンナム省の山岳少数民族「カトゥー族」への支援では、まず総合的な地域開発を実施、次に伝統的な織物によって収入の向上と地域の活性化を目指しました。その結果、村はクァンナム省が認定する「伝統手工芸村」として登録されるまでになり、自信を高めた村の人々は、貧困により失われていた少数民族としての誇りを取り戻したのです。2012年からは新たなステップとして、山岳少数民族が文化と自然に調和した観光で村おこしに取り組むプロジェクトを開始、地域の自立的な発展を目指しています。


ベトナム少数民族カトゥー族の伝統織物「カトゥー織」の様子と民族衣装。
©FIDR
10月16日は世界食料デーです。世界が抱える食料問題について教えてください。

食料の問題は大きく2つに分けられると思います。まず1つは、干ばつや紛争などによって生じる飢餓の問題。もう1つは、長期的な食料不足により十分な栄養が摂取できていないという問題です。国連のミレニアム開発目標(MDGs)の目標1「極度の貧困と飢餓の撲滅」でも栄養の問題が挙げられており、開発途上国において慢性的な栄養不良の人たちの数は1990年からほぼ半減したとされています。しかし、開発途上国の中でも、都市部と農村部では大きな格差があるのが現実です。生まれてから2歳までに栄養をしっかり取らないとその後の成長に大きく影響すると言われていますが、実際にFIDRが支援している地域でも身長の低い子どもが多いですね。ベトナムのコントゥム省では子どもの二人に一人が、カンボジアのコンポンチュナン州では4割くらいの子どもが低身長です。


妊産婦やお母さんたちが栄養について正しい知識を持てるようにトレーニングをしています。
©FIDR
食料不足や栄養不良に対して、FIDRはどのような取組みを行っているのですか。

子どもが低身長、つまり栄養不良の地域には、人々の栄養に関する知識や理解が低いという共通点があります。そこで、妊産婦や母親の栄養・衛生知識の向上や、子どもの食事の改善などに取り組んでいます。そして彼らの主食である米の生産量も増やさなければなりません。1年のうち3~4カ月間も米不足に苦しめられるベトナムのクァンナム省では、稲の品種改良や化学肥料、農薬に頼らずに高い収穫を実現できる稲の栽培方法、SRI農法を導入しました。この農法のポイントは、田植えをする際に、1本ずつ間隔を空けて植えること。水位の管理や除草などの手間はかかりますが、収量を2~3倍に増やすことができるため、最初は不安がっていた農家も実際の収穫量を見て、次々とSRI農法を取り入れるようになりました。FIDRでは、こうした形で食料不足や栄養不良の問題に対応しています。


SRI農法の水田は、苗を植えたばかりだと従来の水田より貧弱に見えますが、
収穫時には茎が枝分かれして、沢山の実をつけます(写真左、向かって右側の稲がSRI農法)。
©FIDR
FIDRの活動についてもっと知りたいと思った場合、どうすればいいでしょうか。


定期的に開催されているFIDRカフェの様子。
©FIDR
まずは、FIDRのホームページ、Twitter、Facebookなどで情報を得ること、その次のステップとして、イベントに参加してみることをおすすめします。FIDRでは当団体の活動や国際協力への関心を高めることを目的に「FIDRカフェ」というイベントを開催していますし、グローバル・フェスタのような国際協力イベントにも出店しています。こうしたイベントへの参加を通して、ご自身のできることを探してもらえればと思います。また、ボランティアも随時募集していますし、プロボノという形で私たちの活動に関わっていただくのも大歓迎です。FIDRが支援している少数民族の村への観光ツアーに参加するというのもひとつの関わり方だと思います。
今年4月に団体設立から25周年を迎えられました。今後の抱負をお聞かせください。


FIDRには2つのミッションがあります。1つは開発途上国の子どもたちが健やかに育つことができる社会をつくること。もう1つは日本国内のさまざまな企業、団体、そして多くの個人の皆様と一緒に、国際協力を推進することです。私たちだけでできることは限られているので、今後もFIDRを支えてくださる人たちとの関わりを大切にしつつ、多くの方から知恵や経験をいただいて、より効果的な支援をしていきたいと思っています。