クローズアップ

ピナット〜外国人支援ともだちネット ~国籍や民族を超えて、みんなが生きやすい地域づくりを目指して~

©ピナット~外国人支援ともだちネット

ピナット日本語教室(水曜クラス)恒例のクリスマスパーティにて。
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*この記事は、東京都国際交流委員会が運営していたウェブサイトに掲載したものです。

8月のクローズアップでは、ピナット~外国人支援ともだちネットをご紹介します。ピナットが三鷹市の「はちのこ保育園」を活動拠点として発足したのは、1992年1月のこと。前年に大噴火したフィリピン・ピナツボ火山の被災者支援と交流を目的に活動を開始、その後、地域に住む外国人の支援や国際理解教育にも取り組むようになりました。今年の5月には団体名を「ピナツボ復興むさしのネット」から「ピナット~外国人支援ともだちネット」に変更。三鷹・武蔵野地域で、国籍や民族を超えて、みんなが生きやすい地域づくりに取り組んでいます。今回はピナットの活動の場である「すぺーすはちのこ」を訪ね、子ども教室コーディネータの新居みどりさんと日本語教室コーディネータの南道子さんにお話を伺いました。

Q. 団体立ち上げから改称までの経緯を教えてください。


A. 南さん 
ピナツボ火山の噴火を受けて「ピナツボ復興むさしのネット」を立ち上げるきっかけとなったのは、はちのこ保育園にフィリピン人のお母さんがいたことでした。そして、その支援活動が落ち着いてきた1995年に、自分たちの身近にいる外国人とも交流しようということで始めたのがピナット日本語教室です。その後、「日本に呼び寄せた子どもにピナットで日本語を教えてほしい」という声に応える形で、2005年に子どもの日本語・学習支援がスタート。さらに、「ピナットで日本語を勉強したいのだけれど、赤ちゃん連れでも参加できるか」という問い合わせが増えたことから、2012年に赤ちゃんのいる外国人ママのためのおしゃべり交流会が始まるといったように、出会いを通じて色々な活動が広がってきたのです。そして、活動の比重が在住外国人支援へと大きく変化したことを受け、今年、団体名を「ピナット~外国人支援ともだちネット」に変更しました。

 

Q. 日本語教室についてお話を伺えますか。

A. 南さん 
月曜日の夜の教室形式のクラスと、水曜日の午前中のマンツーマン形式のクラスがあって、日本語講師の資格を持っている人から子育て中の主婦や学生まで、幅広い層の人たちがボランティアとして関わっています。夜のクラスで勉強しているのは、主に仕事をしている人や留学生たち。午前中のクラスに多いのは、日本人と結婚した外国人のお母さんたちです。こちらのクラスはボランティアも主婦が多く、友達同士のように子育てについての悩み事を言い合うこともあります。ただ日本語を勉強するというより、この教室に来ておしゃべりをする中で、例えば学校からのお便りを一緒に読んだりだとか、その時その人が持っている問題を解決できたらと思ってやっています。

©ピナット~外国人支援ともだちネット ©ピナット~外国人支援ともだちネット

 

写真は水曜午前クラス。学習者とボランティアがペアを組み、
一人ひとりのニーズに合わせて進めていきます。
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Q. 子ども学習支援教室についても伺えますか。

A. 新居さん 
子どもへの支援は、「海外で生まれ育ち、日本語が話せない子ども」を対象として10年前に始まりましたが、 (いま) ピナットの教室に来ているのは、「日本で生まれ育ち、日本語を母語とする子どもたち」です。日本人のお父さんと外国人のお母さんの間に生まれた子どもの多くは、日本語を使って育てられるため日本語しか話せませんが、お母さんの母語が日本語ではないので、両親が日本人の子に比べると言語的な能力が低くなってしまいます。「虫」はわかっても「昆虫」はわからない。「1+1=2」はわかるけれど、「りんご1個とみかん1個を足していくつになるか」というのはわからない。このように、生活言語と学習言語の違いや概念的な能力が育ちにくいといった問題があるため、学校の勉強に遅れがちで学習障害と誤解されることも少なくありません。
A. 南さん 
こうした子どもたちは日常会話ができますし、お父さんが日本人の場合は名前も日本人と同じということが多く、外国につながる子どもでサポートが必要だということがわかりづらいという問題もあります。

 
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子ども学習支援教室の様子。夏休みには、集中教室も開催されます。
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休憩時間には将棋に熱中することも。
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Q. 日本語が母語でも支援が必要な子どもたちがいるのですね。

A. 新居さん 
ピナットでは一昨年 (おととし) から、日本人のお母さんと外国人のお父さんの (あいだ) の子どもの受け入れも始めました。お母さんが日本人の場合は、学校文化もわかりますし、子どもの日本語力などの問題もないのですが、やはりアイデンティティがゆらぐことがあると思います。そんな時、同じ外国につながりのある子どもたちがいるピナットの教室が「居場所」になれば、少し楽になるかもしれませんよね。ですから、アイデンティティを見つめる場を必要としているならば、外国につながるどんな子どもでも受け入れるということにしたのです。

 

Q. 赤ちゃんのいる外国人ママのための交流会についても教えてください。

A. 新居さん 
International Mothers Group(IMG)という団体と一緒に、外国人ママの居場所づくりを始め、現在は毎月1回、三鷹市内の会場でおしゃべり交流会を催しています。小さな子どものいる外国人ママたちの支援を始めたのは、子ども学習支援教室から見えてきた課題を根本的に解決するには、子どもが小学校に入ってからでは遅すぎるという思いから。交流会では、赤ちゃん連れで参加した外国人ママや国際結婚した日本人ママたちが、「何語で子育てする?」「義理の親と、どうつきあう?」といったテーマで話をしたり、歌やダンスを楽しんだりしています。

©ピナット~外国人支援ともだちネット ©ピナット~外国人支援ともだちネット

 

外国人ママ・国際結婚ママの交流会では子育ての話をしたり、
お子さんと一緒にゲームやダンスをして楽しく活動しています。
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Q. これがピナットの特徴である、というところはありますか。

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ボランティアスタッフのみなさん

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A. 新居さん 
三鷹・武蔵野地域で、顔の見える関係の人びとが集まって活動しているのがピナットの特徴だと思います。活動拠点の「すぺーすはちのこ」には、保育園や学童保育など、ほかにも色々な団体が入っていて、そこのスタッフやお母さんたちにも相談にのってもらうことができる。ピナットの活動は、そのネットワークがあってこそのものです。また、1階にはカフェ「はちのこいこっと」があり、誰でもふらっと立ち寄って、そこで活動を知り、参加し始める人がいるのも、ピナットらしさのひとつですね。

 

Q. 今後の展望をお聞かせください。

A. 南さん 
ピナットはミッションや目標を掲げて活動しているわけでなく、この地域で暮らしていく中で、何か課題があると感じたときに、それに対してできることがあれば対応しようというスタイルでやってきました。外国人支援と言っていますが、外国人の人たちもたくさん協力して、一緒に活動してくれています。これからも友達関係のようなネットワークを生かして、その時々の課題に応じた活動を行っていきたいと思っています。