ニュースレターれすぱす

2022年9月号

L'ESPACE(れすぱす)は、場所・空間・宇宙・間隔と、多岐にわたる意味をそなえたフランス語です。

クローズアップ

外国人支援・国際交流・多文化共生に関わる団体や人を取材し、活動や取り組みを紹介しています。

認定NPO法人 Living in Peace

~ 機会の平等を目指す3つのプロジェクトを通じて社会的課題を解決 ~

認定NPO法人 Living in Peace
Living in Peace 2代目 共同代表理事の龔軼群(キョウ イグン)さん。日中はIT関連会社で働いています。

日本初となるマイクロファイナンスファンドの組成から、困難な生活環境にある子どもたちの将来へのサポート、そして国を逃れて日本を訪れた難民やその子どもたちが生きる希望と未来へのチャンスを掴むための伴走。そんな多種多様な活動を行っているのが特定非営利活動法人Living in Peace(以下:Living in Peace)です。ごく普通の都会で働く人々が集まり、働きながら社会を変えることを目指すこの団体の代表理事、龔軼群さんにお話を伺いました。

東南アジアなどでのマイクロファイナンスファンド事業を通じて現地の貧困削減、安定した生活をサポート

認定NPO法人 Living in Peace
全員が仕事を持っているため、オフィスはみんなが集まりやすい東京の中心地にあるシェアオフィスの一角にあります。

現在約170名のメンバーが所属するLiving in Peaceですが、その始まりは10名ほどの勉強会だったといいます。『貧困の終焉』(ジェフェリー・サックス著)をはじめとする経済開発関連書籍について月1回勉強会を行う中で、「マイクロファイナンスが貧困削減につながるのではないか」と2009年にマイクロファイナンスプロジェクトとして、日本で初めてマイクロファイナンス機関の支援を行う投資ファンドを立ち上げました。預金や借り入れなどの金融サービスにアクセスに小口の融資や貯蓄などのサービスを提供することによって、彼女らが経済的に自立することを後押しするとともに、最終的に貧困の削減、貧困問題の解決を目指して活動しています。そこから、こどもプロジェクト、難民プロジェクトと事業を広げ、現在は3本の柱で、幅広い活動を国内外で続けています。3つのプロジェクトは一見ばらばらの事業にも思えますが、努力で変えようのない「機会の不平等」という点で共通しています。「すべての人に、チャンスを。」をビジョンに、そうした世の中の「機会の不平等」をなくすため、取り組むべき課題を見つけては積極的にアプローチをしています。

すべての子どもに「平等な機会」を提供する、こどもプロジェクト

認定NPO法人 Living in Peace
Living in Peaceの運営するこども食堂「りっぷキッチン」。2022年6月、約1年半ぶりに開催しました。

こどもプロジェクトでは、進学を支援する奨学金事業、将来に向けたキャリアプログラム、虐待加害からの回復支援やこども食堂、里親子支援、母子世帯支援、児童養護施設の建て替え支援など幅広く手厚い事業を行っています。「社会的養護下にある子どもをはじめとし、国内にも機会の不平等にさらされている子どもがたくさんいる。そんな社会課題の解決に取り組みたいと考えたメンバーたちが、児童養護施設でのボランティア活動などを通じて、働きながらでもできる支援を検討するなかで立ち上がったプロジェクトです」。事業開始後は、メンバー内で議論しながら、日々変化する社会の状況等に合わせて柔軟に活動を行ってきたといいます。こどもプロジェクトにはメンバーそれぞれの思いも込められています。
「子どもの問題は私たちが掲げているビジョン『すべての人に、チャンスを。』につながっているんです。創設者である慎泰俊も在日三世ですし、私は上海で生まれて日本で育った移民です。誰もが自分で生まれる場所や親を選ぶことはできませんよね。社会的養護下の子どもたちなども同じです。だからこそ教育や将来のキャリアを描くための選択肢に対して、できるだけ平等な機会を提供していきたいという思いがあるんです」。

日本国内で困難な状況にある難民の人々

認定NPO法人 Living in Peace
「難民に平等な機会」を実現するため、難民の方々への就労支援や日本語能力などのスキル支援を行う「LIP-Learning」の提供をしています。

マイクロファイナンスプロジェクトの一環として2016年から国内のリサーチをする中で、この日本でもっともお金を借りにくい人たちを考えたとき、そのひとつが日本に逃れてきた難民の人々、特に申請中の方々であることを知ったといいます。
もともと日本の難民認定率はかなり低く、これまで認定されたのはインドシナ難民を含め1万5千人ほど。難民認定申請中の人々は6か月の特別活動ビザを更新し続けて生活しなければなりません。難民認定されれば定住可能なので、言語や仕事の環境を整えることができますが、6か月後に日本にいないかもしれない申請中の人は雇用も難しく、就労が一番の課題となっています。
「多くの難民の人たちが強く望んでいるのは、しっかりとした職を得ること。リーガルな面から難民申請で認定を取ることに取り組む団体はたくさんありますが、就労を支援する団体がほとんどなかったんです」。
そこで2018年、難民の方々が自立するための伴走型就労支援を中心に、日本語能力などのスキル支援も含む難民プロジェクトを開始。2020年からは難民・移民二世の就労や受け入れ企業の課題について、大学との共同研究も進めています。日常的に困難を感じながら文化的多様性に接している難民やその子どもは、大きな価値を秘めていると龔さん。企業にもその価値を理解してもらうための指標づくりなどを、Living in Peaceでも考えていきたいといいます。
また昨今、日本での「難民」という言葉の認知度や関心の高まりも感じているといいます。龔さん自身、以前は多くの日本人同様、難民についてほとんど知らなかったそうですが、その認定率の低さからこれまであまり出会うことも知ることもなかった「難民」という存在への市民の関心の高まりに政府も行政も動かされている部分があり、それがウクライナ避難民への手厚いサポートにつながっているのでは、と話します。

メンバーの誰一人雇われていないプロボノ団体

認定NPO法人 Living in Peace
週に1度のミーティングもプロジェクトごとに行われています。24時くらいまで続くこともあるそうです。

Living in Peaceにはもう一つ大きな特徴があります。働きながら社会を変えるという想いのもと、理事を含むすべてのメンバーがほかに本業を持っており、専従のスタッフや職員は一人もいません。活動は平日夜や週末など、メンバーの休みを使って行われます。働いているからこそできる社会貢献があると、龔さんは言います。
「たとえばナポレオンがいた時代のように、英雄が一人いて革新的に何かを変えていく……もはやそういうものが生まれる時代ではありません」。
“社会を変えるのは特別な誰かではなく、社会を構成している私たち。普通に働いている私たち一人ひとりがみんなで変えるもの”という考え方は発足当初からずっと堅持されています。龔さん自身もIT関連の会社員。ほかのメンバーもコンサルタントや医師、子育て中のママから、大学生、リタイアされた年配の方まで、多彩な人がそれぞれの強みを活かし参加しています。
「1%でも2%でもいいから、自分の時間を社会のために使っていく。そんな人たちが増えていけば、社会は大きく変わっていくのではないでしょうか。Living in Peaceは、そうした人々の小さな想いを集約して、大きな力に変えていくためのプラットフォームでありたいと考えています」。
今日も夜21時からリモートでミーティングだと話す龔さん。メンバーそれぞれが社会課題の解決のために、自分の時間を提供する強い覚悟で臨んでいます。

社会の変化に合わせて進化を続けるLiving in Peace

認定NPO法人 Living in Peace
ミャンマーで支援しているマイクロファイナンス機関の活動風景が、部屋の壁に架けられています。

「私たちLiving in Peaceの強みは誰も雇用されていないので、リスクをとれるというところにあります。日本で初めて行うような事業にチャレンジしたり、先行投資ができる。この強みを活かしてそれぞれが本当にやりたいという思い、社会課題解決のための事業にチャレンジしたいと思います」。
今後も社会情勢に合わせて、意欲的に事業の立ち上げや見直しを行っていきたいという龔さん。ただ、一団体でできることというのは限られているとも感じており、「コンソーシアム(共同企業体)を作るとか、あるいはコレクティブインパクト(効果的に社会的課題を解決するための枠組み)と最近よく言われますけど、どんなプロジェクトもLiving in Peaceだけでやるのではなくて、さまざまな団体や企業と一緒に取り組むことを考えています」と龔さんは話します。
最後に、私たちが「社会を変えたい」と思ったときに何から始めたらいいか、お聞きしてみました。
「自分自身が生きている中での気づき(原体験)に対してただ批判的になるのではなく、現状を変えるための行動を起こしてみる。同じような問題に取り組んでいる人を見つけたり、記事を読んだり、向き合ってみることはすごく大事だと思います」
気づきに突き動かされ、Living in Peaceに集った同じ志を持つ仲間たち。そこから生み出される活動は、社会を確実に変えています。
社会は“だれか”ではなく、“私たち”が変えていくもの。みなさんは、これからの日本をどんな社会にしていきたいですか。

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