ニュースレターれすぱす

2021年8月号

L'ESPACE(れすぱす)は、場所・空間・宇宙・間隔と、多岐にわたる意味をそなえたフランス語です。

クローズアップ

外国人支援・国際交流・多文化共生に関わる団体や人を取材し、活動や取り組みを紹介しています。

特定非営利活動法人 glolab(グロラボ)

~ 外国にルーツを持つ若者に向けたキャリア教育とコミュニティ創出事業 ~

特定非営利活動法人 glolab(グロラボ)
グロラボのメンバーのみなさん。左からコーディネータの人見美佳さん、代表理事・共同創業者の柴山智帆さん、理事の上村カルロスさん、広報の白戸詠子さん。

glolab(以下グロラボ)設立のきっかけは、代表の柴山智帆さんと副代表の景山宙さんが、2017年に都立高校で外国ルーツの生徒向けに行うキャリアガイダンスを企画する中で、当事者同士が助け合い、学びあえる場を作りたいと決めたことにあります。そして、外国ルーツの若者の成長に伴走する活動を開始。最初は任意団体でしたが、2020年12月にNPO法人を設立しました。「逆境」を成長機会に。この言葉をキーワードに、グローバルになるための実験室、グロラボがスタートしました。

自分の力で、人生を選択していけるようなサポートがしたい

特定非営利活動法人 glolab(グロラボ)
愛知県出身の柴山さんは、日系ブラジル人集住地区で不就学の子どもたちに出会いました。地域社会のなかで力を発揮できない子どもたちがたくさんいたそうです。この原体験が、今の活動につながっています。

将来の夢は何なのか、どんな仕事をしたいのか、そもそも自分には何が向いているのだろうか。10代~20代前半のころ、大いに悩み、迷うことは、大人なら誰もが経験しているでしょう。柴山さんは前職の多文化共生センター東京で、外国にルーツを持つ多くの子どもたちと出会ってきました。母国では学力があるにもかかわらず、日本語の壁が原因で日本では高校の授業についていけない子。夢や希望をいだいて高校に入学したのに、居場所が見つけられず中退した子。進学希望だったのにもかかわらず、誰にも相談できず、お金を稼ぐために就職した子。「どんな子どもたちにも伸びしろがあります。副代表の景山も6歳のときに中国から日本に来て、頑張って自分の力で自分の人生を選択してきました。グロラボを始めたのは、彼のような人たちがもっと出てくればいいと思ったからです。今の日本社会では、外国ルーツの若者が自分の力を発揮することが簡単ではなく、個人の努力によるところが大きい。その人がもっている力を発揮できるような社会をつくっていきたい」と柴山さん。そのための仕組みづくりをグロラボで実践しています。

動画を見て学び、参加してつながり、診断して相談する。

特定非営利活動法人 glolab(グロラボ)
グロラボのユニークなところは、支援経験のあるスタッフと、幼少期に日本に来て外国ルーツの子どもとして成長した当事者が一緒に活動していることです。

外国にルーツのある子どもたちは留学生と違い、自分の意志で来ているわけでありません。日本社会に対して必ずしも前向きにとらえていない子どもたちもいます。グロラボのホームページには、高校卒業までの進路準備や、大学・専門学校への進学、就職に必要な情報がわかりやすく動画にまとめてあります。多言語のキャリア動画は、将来について考えてもらうきっかけになります。「外国ルーツの子どもたちには、在留資格による就職や奨学金の制限など特有の課題があります。しかし複雑な制度の情報を得ることは簡単ではありません。弁護士の先生監修のもと、在留資格について学ぶ動画を加えました。大切なのはまず、自分の課題が何なのかを自分で発見し、理解することです」と柴山さん。そこで、グロラボが提供しているのがLINE診断です。10の問題に答えることで自分の課題が見えてきます。さらにLINEでの相談もすることができます。もう一つ、「センパイのストーリー」として、カルロスさん自身が日本に来た時から高校を卒業するまでのエピソードを話す動画も配信しています。共感したり、元気をもらったり、一歩踏み出すきっかけにつながります。

日本に働きに来た親と、日本で育つ子どもとのギャップ

特定非営利活動法人 glolab(グロラボ)
高校2年生のときに両親はペルーへ帰国。ひとり暮らしが始まり、自分自身で未来を考えることにしたカルロスさん。まわりのみなさんが協力してくれて高校を卒業しました。

28年前、中学2年生のときにペルーから日本に来た上村カルロスさん。「両親は出稼ぎでいつかは国に帰るつもりでしたから、子どもの教育についてあまり考えていなかったと思います」。一生懸命に働いてお金をためて国に帰ることが目的の両親と、日本で育っていく子どもたち。そこには大きなギャップがあります。「居心地のいいペルー人のコミュニティにいると、中学を卒業したら工場や建築現場で働けばいいと思ってしまいます。周りの人もそうだし、自分もその道がラクだから。親からもそれ以外の道を提案されることはありません」。大学に行きたい、塾に行きたいと思っても、貯金をするため遅くまで働いている親には言い出せない。仲のいい家族であるほど、子どもたちは親に影響されるといいます。「28年が過ぎて、今はベトナムやネパールの出身者が多く来日しています。その人たちを見ていると、私たちが日本に来たときと同じようなことを繰り返していて、何も変わっていないと思います」とカルロスさん。時が経ち国が違っても、エスニックコミュニティの子どもが抱える悩みはほとんど変わっていません。

学校の先生たちにも、外国にルーツのある子どもたちの課題を知ってほしい

特定非営利活動法人 glolab(グロラボ)
大学院でも日本語教育を研究していた人見美佳さん。修士論文のテーマは外国にルーツに持つ高校生のキャリア支援でした。そのころから支援活動をしていて、柴山さんとは知り合って10年になります。

グロラボの多言語キャリア動画は、「自分らしく生きるヒント」を得たり、「自分について知る」「なんのために働くのかを考える」などのきっかけにしてもうらためのシリーズで、とてもわかりやすいと評判です。この動画を手がけているのが、日本語のプロでもある人見さんです。「私は支援者としても、日本語教師としても学校教育に携わっているので、先生方のご苦労を知っています。支援はしたいけれど、どうしたらいいかわからない。情報が手に入らないし、背景もわからない。そうした先生たちもこの動画を生徒と一緒に見ることで、課題を理解してもらえると思います」。実際に授業や、日本語教室で通訳を入れて見たという声が届いているそうです。「アニメなので、子どもたちも集中して見ていました。多言語化が進めば、親御さんたちにも見ていただけると思います。」と柴山さん。親も子どもの進路情報を得る手段のひとつになります。

外国ルーツの子どもたちは、日本の力になる

特定非営利活動法人 glolab(グロラボ)
広報担当の白戸詠子さんは、高校・大学とアメリカに留学。自身が外国ルーツの若者だった経験を持っています。帰国後は外国ルーツの方々の手伝いを個人的にしていました。柴山さんと出会い、グロラボで活動を始めました。

「グロラボは素晴らしいことをしています。でもそれは、発信しなければ伝わりません。まだまだ模索中ですが、サポートしていきたいです。そして、できれば全国の困っている人に届いてほしいと思います」と白戸さん。メディアにいた経験を活かして、広報を担います。最近はコロナ禍もあり、オンライン授業が普通になってきました。柴山さんは「グロラボもオンラインで配信したり、オンラインでコミュニティを作りたいです。そして、動画を使って支援できる人を全国に増やしていくことが目標です」といいます。3月にオンラインセミナーを開催したときは、全国から50人近い人が参加したそうです。グロラボのウェブサイトには「グロラボマガジン」というコーナーがあり、力強く自らの人生を切り開いてきた人たちが語る「ライフストーリー」を読むことができます。外国にルーツのある若者たちは、いくつもの文化背景を持っていて大きな可能性を秘めています。問題を抱えがちな人たちというくくりではなく、日本が前に進むために力になる人たちだということが、グロラボの活動を通して広がっていくのではないでしょうか。