地域日本語教室活動レポートvol.4

Vol.4

第4弾は、

立川市で活動されている「立川子ども日本語教室」(以下、愛称つばさ教室をご紹介します!

つばさ教室 お遊び会の時の集合写真 110822.jpg

   

立川市で暮らす外国人は4,984人、市の人口の2.7%にあたります(202271日時点)。

都内の市部平均(2.1%)に比べれば高い数値であるものの、区部平均(4.7%)や新宿区(10.8%)と比べると少ない割合です。しかし、近年は外国にルーツを持つ子ども(以下、外国ルーツの子ども)も増え、子どもの保護者や学校の先生等からの日本語学習支援の要請が多くなっていったといいます。

そうした声を受け、TMCが自主事業として2022511日に新しく開校したのが、つばさ教室です。

毎週水曜日、立川駅から徒歩13分程の「子ども未来センター」で小学生が午後3時から5時まで、中学生が5時から7時まで勉強しています。

今回は教室見学後、TMCの理事そして外国人児童・生徒生活支援事業委員長で、つばさ教室設立の立役者のお一人、桑原一雅さんにお話を伺いました。

教室看板.jpg

教室の前にある、つばさ教室の看板

   

現在教室では小学生10名、中学生4名の計14名が勉強しています(中国、ネパール、フィリッピン、アメリカ、ウクライナの5か国から来ている子ども達)。

子ども1名にたいし23名のサポーター(ボランティア)がつき、ひらがな・カタカナの練習や会話練習、学校の宿題などそれぞれの学習内容を支援します。このサポーター3名による学習支援体制は、欠員が出ないように、という運営上の理由もありますが、それ以上に子どもたちが日頃、日本人の大人と交流する機会が少ないので、そのような機会を創出する狙いもあるといいます。そうした意味で、子どもたちにとってつばさ教室は学習の場でありながら、居場所にもなっていると桑原さんは話します。

サポーター3名.jpg

   子どもたちからは「(つばさ教室は)楽しい」「毎週来る」といった声を聞くことができました。

「『あそこに行ったら、自分のことを理解しようとしてくれる、自分の(拙い)日本語でも聞いてくれる』『あそこに行ったら落ち着ける』、そういう場所になればいいかな」

サポーターの多くは立川市もしくは周辺在住ですが、中には2時間近くかけて通う大学生もいるそうです。見学中にお話を伺った2名の大学生サポーターさんはどちらも日本語教師志望で、つばさ教室が授業で勉強したことの実践の場にもなっているといいます。

サポーター登録者には専門家による研修が用意され、外国ルーツの子どもたちと接するときの基礎知識や指導法などを支援に入る前に学ぶことができます。

   

つばさ教室の立ち上げ

開校式 写真.jpg

2022年5月11日、つばさ教室の開校式で挨拶するTMCの細江理事長

   

桑原さんは20205月からTMCに参加しフォーラムやシンポジウムを企画する部署の所属になりました。同年、「外国ルーツの子どもの問題」をテーマとしたシンポジウムの企画・運営に携わり、初めてそうした背景をもつ子どもたちの存在を意識したそうです。とくにシンポジウム内で話をしたネパールにルーツを持つ児童の訴えに衝撃を受けたといいます。

「(日本に来るのが)最初は嫌だった。ネパールのおじいちゃん、おばあちゃんのところにいた方がよかった。なんで僕だけこんなつらい目に遭わなきゃいけないんだ、と思った」

そうなんだ、大人と違って子どもは親の都合で来るんだ。それで自分の人生が決まってしまう、そんな不公平なことはない、という気持ちになったんです。フォーラム後、『こんな問題があるんですよ、知っていましたか』で終わらせちゃいけない、そう思いました」。

そこから桑原さんを中心に、同じ問題意識を持ち集まったメンバーでネットワークを作り、つばさ教室準備委員会を発足させました。周辺の八王子や国分寺、東村山などの教室を参考に制度設計をし、市や市の教育委員会とも交渉し、準備を進めました。教室開始にあたっては、市の市民協働課の職員をはじめ、多くの人の協力があったとそうです。

   

外国ルーツの子どもたちの「散在地域」

文部科学省の調べでは、公立学校において日本語指導が必要な児童生徒数は2021年時点で58,353人いるとされます。そのうち学校において特別の配慮に基づく指導を受けている外国籍の児童の割合は90.9%43311人)ですが、その体制や内容、サポート度合いについては地域や学校によって異なります。

   公立学校における日本語指導が必要な児童生徒数 .png

報道発表「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(2021年度)」より

   

立川市には公立小学校が18校、中学校が10校あり、外国籍の子どもたちが1.25%、生徒数として100名強いるといわれます。日本語指導が必要な子どもたちの中には日本国籍の子どももいるため、この数字も一部に過ぎないものの、数としては1クラスに1人いるかいないか、学校に45人いるかいないか、くらいのイメージだといいます。外国ルーツの子どもが多く住む「集住地域」とは違い、「散在地域」に住む1%程度のこうした子どもたちは、各学校でもなかなか問題として顕在化しにくく、埋もれてしまっている可能性が高いです。

また、子どもの場合、日常会話で使う〈生活言語〉を習得して友だちと話していれば『この子は大丈夫』と思われてしまうこともあり、その裏で勉強に使う〈学習言語〉の習得が追いつかず、授業についていけなくなってしまうことも少なくありません。

    

市としても日本語指導を必要とする児童生徒に対し400時間の通訳協力員の派遣を行っていますが、通訳協力員は授業の内容を母国語で教えてくれるものであり、日本語を教えてくれるものではありません。400時間の支援が終わったときのことを、桑原さんは心配しています。

   

見て見ぬふりをせず、見てほしい

ひらがな練習.jpg

日本に来たばかりで、ひらがなから練習する生徒

つばさ教室に通う一人、2年前に来日したフィリピンの生徒は現在中学3年生ですが、中学1年の漢字レベルがあるかどうかというレベルであることから、卒業後さらに1年間勉強しなければ高校進学は難しいといいます。この生徒のように、十分に日本語や教科学習の支援が受けられなかったために1年、2年と進学時期が遅れたり、進学を諦めてしまったりするケースは少なくないため、1日でも早く必要な支援につなげることが重要です。「『いつか』ではなく『今』支援しないと、その子の今後50年の人生が決まってしまうかもしれないという感覚を僕たちが持たなければいけない」、桑原さんは強く訴えます。

    

「一番学校に求めているのは、『困っている、この子に何かしてあげたほうがいいんじゃないか』という時に、見て見ぬふりをしないで我々に依頼してください、ということです」。

そうした思いから、各学校の校長が集まる場でつばさ教室の案内を配ってもらい、実際にその案内を見て問い合わせもあったそうです。「以前は(困っている外国人児童が)いるけどしょうがないね、で終わっていたかもしれないが、僕たちがいるってことを知ったから、連絡してくれた。これは成果だと思います」。

    

全部自分たちで完結する必要はない、繋げていくこと

教室.jpg

現在つばさ教室では、当初想定していた「510名程度」という人数を上回る子どもたちを受け入れていますが、受け入れの要請は止まりません。そうした要請に対応するため、さまざまな団体と連携し、ネットワークを広げながら、児童たちのニーズに寄り添っています。今年高校受験を控える児童については、福生市にあるYSCグローバルスクール(NPO法人 青少年自立援助センター)にも繋げ、連携しながら受験に向けた学習支援を行ったり、同じ施設で活動する大学生主体の学生塾(CEVEC)に繋げて教室の児童・生徒の教科学習を見てもらったりしているといいます。

「(教室によっては)自分たちのキャパシティーを超えたら『できません』という考え方もあるが、全部自分たちで完結する必要はないと思うんです。いろいろな能力を持っている団体と付き合う、ネットワークを作ることによって、『この問題だったら...』と繋げることができる。『ここまでしかできない』も、みんなで集まれば何かできるかもしれないじゃないですか」。

    

ボランティア教室を継続していく難しさ

シフト表.jpg

子ども1名につき3名のサポーター支援体制はシフト表で管理しています。

「ボランティアのモチベーションをいかに維持するかが、この事業の根幹です」、桑原さんは話します。

現在、つばさ教室には20代から60代まで幅広い年代のサポーターが36名登録しています。全員ボランティアで毎週の活動に参加していますが、半年の活動を経て、さまざまな事情で活動の継続が難しくなる人も出てきたといいます。

「最後はやっぱりボランティアだから、他に優先することがあればやむを得ない。持てるリソースをギリギリ使って、最低限のことは維持する。コミットメントを持った人が、世代交代もある中でちゃんと引き継いでいかないとどこかで潰れてしまう」。

教室開催の頻度についても、「週1回では足りないから、2回」という声もあったといいます。教室の場所についても、つばさ教室1つで十分でないことは桑原さんもよく理解しています。しかし、まずはこの教室をしっかり維持する体制・仕組みを確立すること、そしてボランティアの力でできる最大限を見極め、他団体とも連携しながら活動を継続していくことを大切にしています。

 

「今ここでサポートしないと高校に行けないかもしれない、そういう子が自分の子どもや親戚にいたら、放っておけませんよね。そこを出発点にして、この問題をどうするか、だと思います」。

ボランティアの皆さんの強い想いによって、以前は「個人」ベースで行われていた支援が組織・体系化され「場」となり、NPOなどの他団体と「ネットワーク」を広げ、子どもたちを取りこぼさないためのセーフティネットを広げています。一人でも多くの子どもたちにこうしたサポートを届けるためにも、行政による制度としてのサポート体制・環境のさらなる充実が望まれます。

   

そのためにも、まずはこうした現実があるということを現場の人々が、そして社会が認識していくことが大切です。そして認識したあとは、自分とは関係のないこととして見て見ぬふりをせず、自分にできることを模索していく。そうした人が一人、また一人、と増えていくことで少しずつでも社会は変わっていくのではないかと思います。

教室設立の声を挙げた桑原さん、そしてそこに賛同し集ったつばさ教室の皆さんは、今日も子どもたちの人生の可能性を守るため、活動を続けています。

勉強頑張る.jpg

   

"『いつか』ではなく『今』支援しないと、その子の今後50年の人生が決まってしまうかもしれないという感覚を持たなければいけない"、桑原さんの言葉が強く胸に残りました。

 

地域日本語教室活動レポート、次はどちらの教室にお邪魔するのでしょう?次回も皆さま、どうぞお楽しみに! 

by.MK

   

つばさ教室では、一緒に教室で子どもたちに勉強を教えるサポーター(ボランティア)を募集しています。

登録を希望される方、ご興味のある方はホームページをご覧ください。

つばさ教室(たちかわ多文化共生センター)HP:https://www.tmc.or.jp/Jidou_seito_shien.html